映画『パリ、嘘つきな恋』:大人のコメディーは「笑うべき相手」を間違えない
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フランスでは1988年以来毎年、著名人の人気度調査が日曜紙の「ジュルナル・ド・ディマンシュ」に発表される。芸能人に限らず、スポーツ選手、文化人、政治家(上位にランクインすることはめったにないが)など、あらゆる分野をひとまとめにしたランキングだ。最近の傾向としては、2003年から10年続いたヤニック・ノア(テニス)とジダン(サッカー)の天下が終わり、ここ7年はシンガーソングライターのジャン=ジャック・ゴールドマンとアフリカ系俳優のオマール・シーが首位を争っている。
最新ランキング(2018年12月発表)で36位につけるのが、この映画で監督・脚本・主演の三役をこなしたフランク・デュボスクだ。実は前年の22位から大きく順位を落としてしまったのだが、それはアンケート実施の直前に、過激さを増す「黄色いベスト運動」に距離を置く発言をして左派層から反感を買ったのが影響したらしい。それでも男性の俳優・コメディアンの12位だから、かなりの人気者なのは間違いない。
デュボスクは一人芝居でコメディーを演じる名人で、そのキャラクターというのが、決まって女好きで虚言癖のある気取り屋だ。イケ好かないがどこか憎めない人物を絶妙に演じて笑いを取る。初めて監督に挑戦した本作も、女性に近付くために平気で口から出まかせを言う会社経営者の物語。いわば十八番(おはこ)を自分で書いて演じるのだから、ハマらないわけがない。
得意の軽妙な笑いを随所にちりばめながら、全体はスマートでロマンティックなラブストーリーに仕立ててある。相手の気持ちなど考えず、一時の享楽にふける軽薄なプレイボーイが、ある嘘をきっかけに、障害を乗り越えて生きる素敵な女性と出会い、本気で恋をしてしまうという話だ。嘘が雪だるま式に大きくなり、ますます引っ込みがつかなくなっていく展開でハラハラさせ、笑わせる、というのはよくある仕掛けに違いないが、人物や状況の設定にユニークな発想があり、既視感なく楽しめる。
パリを舞台に、口が達者で調子のいいパリジャンが恋をする、邦題にはまさにそんな要素がコンパクトに詰まっているが、原題の『Tout le monde debout』(さあ皆さん、立って)はコンサートなどで座っている観客を立たせてステージを盛り上げるときの決まり文句。車椅子の障害者が出てくる映画としては、かなり大胆にひねったタイトルとはいえ、決してブラックユーモアではない。障害者の勇気を称え、嘘つきの臆病者を笑い飛ばしながらもその背中を押す。デュボスクがこの作品に込めた温かく力強いメッセージが読み取れる。
文=松本 卓也(ニッポンドットコム多言語部)
作品情報
- 監督・脚本:フランク・デュボスク
- 出演:フランク・デュボスク、アレクサンドラ・ラミー、エルザ・ジルベルスタイン、ジェラール・ダルモン、クロード・ブラッスール
- 配給:松竹
- 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
- 製作年:2018年
- 製作国:フランス
- 上映時間:108分
- 公式サイト:http://paris-uso.jp/
- 2019年5月24日(金)新宿ピカデリー、東劇、渋谷シネクイントほか全国公開!