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70年大阪万博会場で撮影された秘蔵作品を発掘! 『万博追跡』(2Kレストア版)主演ジュディ・オングが語る

Cinema

日本、台湾、米国など世界を股にかけて活躍する国際スターの主演映画が55年ぶりによみがえった。『万博追跡』の2Kレストア版が第21回大阪アジアン映画祭のオープニング作品として世界初上映。主役を演じたジュディ・オングが、万博会場で半ば“ゲリラ”的に行われた当時の撮影を振り返る。

ジュディ・オング Judy ONGG/翁倩玉

歌手・俳優・木版画家。台湾生まれ。3歳で来日し、11歳のとき、日米合作映画『大津波』でデビュー。その後、テレビドラマ、映画、舞台で活躍し、16歳で歌手デビュー。79年には「魅せられて」が大ヒットし、日本レコード大賞ほか多数受賞。木版画家としても知られ、日展会友、白日会正会員。90年代よりアジアの子供たちのための「北京平和音楽祭」を初め、チャリティイベント「台湾大地震ハート・エイド」「ハート・エイド四川」をプロデュース。その後も台湾・香港にてチャリティイベントを企画、両国との架け橋として活動を続けている。現在、開発途上国の子どもたちを支援するワールドビジョン・ジャパンの親善大使のほか、ポリオ根絶大使、介助犬サポート大使を務めている。

1970年の台湾映画『万博追跡』は音楽あり、サスペンスあり、アクションありの意欲作。開催中だった大阪万博の会場でも撮影を敢行した。ジュディさんが演じたのは、台湾出身で日本の大学に通う女学生。万博の台湾パビリオンでコンパニオンとして働きながら、亡き父の代わりに自分と母を支えてくれた名も知らぬ恩人を探して日本各地を駆けめぐる。

『万博追跡』より。70年万博会場の風景をひたすら映した記録映画のようなパートもあり、当時の熱気を感じられる一作だ © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
『万博追跡』より。70年万博会場の風景をひたすら映した記録映画のようなパートもあり、当時の熱気を感じられる一作だ © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

幻の台湾娯楽映画、55年ぶりの復刻

「レストアの話を聞いたときはびっくりしました。なんてすごい話なんだろう、と思いました」とジュディさんは言う。

「もちろん『万博追跡』を撮った記憶はありますし、大阪万博には毎日放送の番組でも半年間通っていたので、当時のことは印象に残っています。それでも55年たった今、この映画が復刻されるとは思いもしなかったんです」

中国語で主題歌を歌うジュディ・オング。万博のために書き下ろされたという楽曲の詞にも注目 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
中国語で映画の主題歌を歌うジュディ・オング。万博のために書き下ろされたという楽曲の詞にも注目 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

大阪アジアン映画祭のプログラミング・ディレクターである暉峻創三(てるおか・そうぞう)さんには、以前から「アジアの旧作を紹介したい」という思いがあり、20年以上前から『万博追跡』を上映する機会を探り続けてきた。いよいよ実現に向けて動き出したのは、2024年の初頭だったという。

「本作は娯楽映画として台湾で大々的に公開されましたが、その後は上映された形跡がなく、ソフト化もされていません。おそらく上映できる素材がないのだろうと思い、國家電影及視聴文化中心(TFAI:台湾の国立映画機関)に問い合わせました。すると、上映できる状態ではなくともプリントが残っていることがわかったんです」(暉峻さん)

この打診をきっかけに『万博追跡』が発掘された。TFAIは「映画祭のためにレストア版を製作する」と全面協力し、復刻が実現。さらに、映画祭が万博会期中に開催される運びとなり、オープニング上映も決定した。大阪アジアン映画祭でクラシック映画がオープニング作品に選ばれたのは史上初だという。

主人公の雪子(シュエツー)は日本人の恋人・哲男とともに恩人を探すが…… © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
主人公の雪子(シュエツー)は日本人の恋人・哲男とともに恩人を探すが…… © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

万博会場での“ゲリラ撮影”

『万博追跡』の撮影当時、ジュディさんは20歳。久々に観賞した感想を聞いてみると、「とにかく若いですよね。“若さに勝る美貌なし”です」とほほ笑んだ。

「誰もがおしゃれな時代でした。私もファッションに興味があったので、髪を自分で結っていたんです。当時はショートウィッグが大流行で、『夜のヒットスタジオ』でも小川知子ちゃんと一緒によくかぶっていました」

劇中でジュディ・オングが披露する2曲目は英語の歌 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
劇中でジュディ・オングが披露する2曲目は英語の歌 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

撮影当時は「人生で一番忙しい時期」だったという。

「台湾で映画を撮り、日本で東京と京都の撮影所に行き、各地を飛び回り、司会の番組を撮り、また台湾に帰って……。『魅せられて』がヒットした時(1979年)と同じくらい大変。まだ若かったからできたことです」

『万博追跡』には70年大阪万博の象徴である太陽の塔をはじめ、メイン会場やパビリオンが細部まで映し出されている。会場内で劇映画を撮影することは認められていなかったため、製作陣は「ドキュメンタリー映画を撮影する」という名目で許可を受け、“ゲリラ撮影”を敢行した。

「普通の映画なら、本番では監督が『スタート』『カット』と声をかけますが、そんなことはできません。私たちはリハーサルもできないまま、代役の方が演技をしている様子をじっと陰から見ていました。それで芝居の段取りを覚えたらもう本番。何事もないかのように出ていって、こっそり芝居をして、その場を離れるんです」

70年大阪万博会場。太陽の塔の上半分は「お祭り広場」の大屋根から突き出している © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
70年大阪万博会場。太陽の塔の上半分は「お祭り広場」の大屋根から突き出している © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

来場客に撮影を悟られないよう、カメラとカメラマンは巨大な黒い布で姿を隠し、出演者と監督もその裏で静かに待機していたそう。役柄の感情や演技について、ひそひそと小声で話し合うこともあったという。ゲリラ撮影なのでハプニングはつきものだ。

雪子は仕事を抜け出し、哲男とともに恩人の手掛かりを探して万博会場を駆け回る  © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
雪子は仕事を抜け出し、哲男とともに恩人の手掛かりを探して万博会場を駆け回る  © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

「撮影中に『ジュディ・オングだ!』って叫ばれることもありました(笑)。1人が気付くと10人が気付き、すぐ100人にバレるので、見つかったらすぐに逃げる。別の場所で違うシーンを撮ってから、30~40分くらい後に戻ってきて撮り直していました」

イサム・ノグチが噴水のオブジェをデザインしたことで知られる「夢の池」。後ろにはリコー館の光像バルーンが浮かぶ © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
イサム・ノグチが噴水のオブジェをデザインしたことで知られる「夢の池」。後ろにはリコー館の光像バルーンが浮かぶ © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

台湾映画界への憧れ

監督の廖祥雄(リャオ・シャンション)は、映画監督として数々の作品を手掛けた後、80年代には官職に就いて検閲緩和や補助金制度などに携わり、のちに台北駐日経済文化代表処の広報部長に就任。台湾の映画と文化を支えたとして尊敬された人物だ。暉峻さんによると、今回の上映は2022年にこの世を去った監督を追悼する意味もあるという。

ジュディさんも「私を育ててくださった監督です。本当に感謝しています」と話す。監督との初顔合わせとなった『小翠(原題)』(1968)は自身初の中国語映画であり、『万博追跡』の後に再びタッグを組んだ『ニセのお嬢さん』(71/原題:真假千金)では“台湾のアカデミー賞”こと金馬奨の主演女優賞に輝いた。

すでに日本で活躍していたジュディさんだが、台湾の映画界には別の憧れがあったよう。「台湾の映画界はきらびやかで、銀幕のスターに会えると舞い上がっていました」と笑う。

「撮影でスタジオに入るだけでも、日本のスタジオとは違うドキドキがありました。『新しい世界で、ここから新しい私になるんだ』という感じ。大きなチャレンジであり、同時にとても楽しかったです」

台湾パビリオンの内部を案内するコンパニオンの雪子 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
台湾パビリオンの内部を案内するコンパニオンの雪子 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

台湾の旧作を再発見~第21回大阪アジアン映画

TFAIによって復元された台湾映画の旧作5本が上映される。『万博追跡』(2Kレストア版)とともに世界初上映となる『さようなら十七歳』(2Kレストア版)は、ジュディさんが歌った主題歌も大ヒットした作品。ほかにも特撮映画『ドラゴン・スーパーマン』や青春映画『進学を拒絶した人生』、恋愛映画『寂寞十七歳』などが復活した。

暉峻さんは「TFAIの素晴らしい修復事業をぜひ知ってほしい」と語る。「巨匠監督の作品だけでなく、既存の映画史では無視されていた作品、けれども実際に観ると驚かされる作品を国家機関が修復しているのです。今回は台湾映画史の読み直しにもつながる、『こんな台湾映画もあったんだ』という発見ができる映画を選びました」

『さようなら十七歳』 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
『さようなら十七歳』 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

文化の違いを乗り越えて

ジュディさんは今年、47年ぶりとなる台湾映画『陽光女子合唱團(原題)』に出演した。映画・音楽・木版画など、国や地域を超えた活動はますます精力的だ。今回の大阪アジアン映画祭でも、新たな観客との出会いを楽しみにしているという。

イタリア館(トマソ・バーレ設計)の上を走る「レインボーロープウェイ」。レトロ・フューチャー感満載の映画で建築やデザインのファンも必見 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
イタリア館(トマソ・バーレ設計)の上を走る「レインボーロープウェイ」。レトロ・フューチャー感満載の映画で建築やデザインのファンも必見 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

「私たちは文化を通じ、お互いの違いを乗り越えて交流することができます。以前、北京で平和コンサートを開催したときには、日本と中国、台湾から集まってくれた観客の皆さんが、それぞれ日本語と中国語で歌いながら笑顔を向けあっていました。私たちはそういう風景を作れる仕事なんだ、と感動しました」

70年大阪万博の中華民国(台湾)パビリオン © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.
70年大阪万博の中華民国(台湾)パビリオン © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

もうひとつ印象的だったのは、日本のファンから「コンサートの後、中国人のお友達の家で一緒に食事をしました」という手紙を受け取ったことだという。そこには、「日本は箸を横向きに置くけれど、中華文化では縦に置く。どちらも正解なのですね」と書かれていた。

「手紙を読んだとき、『私はこういう仕事がしたかったんだ』と心から思いました。日本と中華圏、どちらの文化も間違いではありません。むしろ『どちらもあり』なのだと気づいてもらうのが私たちの仕事。それを理屈ではなく、本能で伝えられるのが文化の力だと私は思います」

インタビュー撮影:花井智子
取材・文:稲垣貴俊

ジュディ・オングコメント+『万博追跡』(2Kレストア版)予告編

© OAFF
© OAFF

第21回大阪アジアン映画祭

  • 会期:2025年8月29日(金)~9月7日(日)
  • 上映会場:ABCホール、テアトル梅田、T・ジョイ梅田、大阪中之島美術館、大阪市中央公会堂
  • アジア20の国と地域の作品68作(世界初上映23作、海外初上映5作、アジア初上映3作、日本初上映23作)を上映。
  • 公式サイト:https://oaff.jp

バナー写真:『万博追跡』より。70年大阪万博で台湾パビリオンのコンパニオンの仕事を得た雪子(ジュディ・オング)が主人公 © 2025 Taiwan Film and Audiovisual Institute. All rights reserved.

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