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映画『四月の余白』:吉田恵輔監督が描いた「凶悪化する若者」を見捨てない信念の力

Cinema

家でも学校でも手に負えない「問題児」はどこへ行けばよいのか。自身の体験に引き付けてリアルな人間ドラマを描いてきた吉田恵輔監督が考えた「行き先」は、同じ立場を知り、同じ目線で向き合える元半グレの男だった。最新作『四月の余白』について監督に話を聞いた。(※吉の正式表記は「つちよし」)

吉田 恵輔 YOSHIDA Keisuke

1975年、埼玉県出身。学生時代に塚本晋也監督作品の照明を担当。自主制作映画『なま夏』(06)で注目を集め、同年、『机のなかみ』 で長編映画監督デビュー。その後も、『さんかく』 (10)『麦子さんと』 (13)『ヒメアノ〜ル』 (16)『愛しのアイリーン』(18)『BLUE/ブルー』(21)『空白』(21)『ミッシング』(24)など話題作を次々と発表。2026年秋には監督作『mentor』の公開も控える。

元半グレ寮長の体当たり指導

監督デビュー20周年を迎えた吉田恵輔監督。これまで15本の監督作はどれも自ら脚本を書いてきた。それも漫画を原作とする3本を除き、すべてオリジナルのストーリーだ。2本の映画が公開を控える今年、6月26日公開の『四月の余白』がその先陣を切る。

主人公は長髪で屈強な体格の持ち主、西健吾(一ノ瀬ワタル)。元半グレで服役した後、改心して、今は家庭や学校で問題を抱える子どもたちの更生施設「みらいの里」を運営している。農作業と共同生活を通じて、自立できるよう支援する全寮制の施設だ。

西健吾(一ノ瀬ワタル=左端)が寮長を務める全寮制施設「みらいの里」 © 2026 N.R.E.
西健吾(一ノ瀬ワタル=左端)が寮長を務める全寮制施設「みらいの里」 © 2026 N.R.E.

西の指導法は文字通り体当たり。体罰も辞さない手荒な接し方は、教育関係者の間では批判の的になりがちだ。一方で、親身に寄り添うことで何人もの問題児が更生できた実績が積み重なり、希望を失った親たちにとって「みらいの里」は注目の存在になっていく。

西が講師に招かれたセミナーには、中学校教員の草野冬子(夏帆)も参加していた。冬子は、セミナーで西が放った「口で言っても分からない子どもが存在する」「痛みを覚える必要もある」という言葉にある種の共感を抱き、「対話ではどうしようもなくなった子どもたちが集まってくる」彼の施設に関心を持つ。冬子の担任するクラスには、人の痛みが分からず、深刻な問題行動を繰り返す生徒がいたのだ。

鑑別所帰りの悠(和田庵=右)に手を焼く担任の冬子(夏帆)。だがクラスにはそれ以上の問題児がいた…… © 2026 N.R.E.
鑑別所帰りの悠(和田庵=右)に手を焼く担任の冬子(夏帆)。だがクラスにはそれ以上の問題児がいた…… © 2026 N.R.E.

その問題児、澤海斗(上阪隼人)が「みらいの里」へやってくる。冒頭のわずか15分、ほとんど点描のような短いシーンの連続で、そこまでの経緯と背景がテンポよく描かれる。人の世の現実をきれいごとにおさめない吉田監督の作品に親しんだ観客なら、すでにこの時点で、非行少年が更生への道を歩む“おめでたい”物語にならないのを予感しているだろう。

現代の子どもたちを取り巻く環境には、家庭、学校、社会の問題が分かちがたく影響し合い、その複雑な絡み合いを解くカギは簡単には見つからない。吉田監督はそのもつれをさまざまな断面から見せ、陰影に富んだ人間模様を描いていく。

同級生に打ち上げ花火を浴びせて喜ぶ海斗(上阪隼人) © 2026 N.R.E.
同級生に打ち上げ花火を浴びせて喜ぶ海斗(上阪隼人) © 2026 N.R.E.

学校教育からあぶれた子どもたちの行き場

コロナ禍以降すでに3本の監督作を世に送り出した吉田監督。本作の脚本を書いたのは今から約5年前だったという。

―教育現場を取り上げた映画は初めてですか。

「『空白』(2021)の中に学校のシーンがちょっとだけ出てくるんですよ。でも教育現場については浅くしか描けず、これじゃ軽くディスっただけにしか映ってないなと思って。教師にもいろいろ言い分はあるだろうし、もっと現実を描かないとフェアじゃないなと」

―まず教育現場の何が問題だと考えましたか。

「社会全体として、教師に対するリスペクトがないと思いますね。それどころか不信感を抱く人が増えてきている気がする。だからモンスターペアレンツも増える。それに俺らの時代と比べて親子の距離も近くて、子どもが親に何でも話すから、ますます先生のストレスや負担が増えているだろうなと思います」

―児童・生徒の私語や立ち歩きによって授業が成立しない「学級崩壊」が話題になって20年以上になりますが……。

「子どもを強く叱れない世の中になっている。中学生くらいになると、怒らない大人をなめるようになってくるから、どんどん手がつけられなくなって、悪循環が生まれる。教師だって本気で怒っていいと思うんです。本気で怒って、間違っていたらちゃんと謝る。でも今は、本気でぶつかることから逃げるような環境、システムになっているんだと思います」

© 2026 N.R.E.
© 2026 N.R.E.

―生徒の指導が仕事とはいえ、教師も生身の人間ですから、自分の身を守りたくなりますよね。そのジレンマが夏帆さん演じる教師に投影されていますが、先生を主人公にしようとは考えなかったんですか。

「教育現場の改善は、もはや教師個人でどうこうできる問題ではないので、それ以上は広げられないかなと。純粋に政治の話になってきますからね。予算をつけて、部活を専門に見る人を外から連れてくるとか、教師の時間を作るようにしなきゃ回らない。給料の面もそうでしょうし。今回のテーマはそこではないなと」

使命感と責任感が強い教師ほど疲弊していく © 2026 N.R.E.
使命感と責任感が強い教師ほど疲弊していく © 2026 N.R.E.

―それで学校の外に目を向けたんですね。

「学校教育からあぶれた子たちはどこに行けばいいんだろう。可能性があるとしたら、そういう子の立場を知っている人間なんじゃないかなと。同じ目線でまっすぐ向き合える人。それで西というキャラクターが出てきて、こういう施設をテーマに書いてみようと思ったんです」

撮影で意識した「品のよさ」

―不良グループや寮生など、問題を抱えた若者がたくさん登場しますね。海斗はもちろんですが、引きこもりで施設にやってきた詩(山﨑七海)という少女も印象的でした。

「海斗は人の痛みが分からない子で、強い者にコバンザメみたいに付いて、力に執着するタイプ。詩は闇を背負っている子。この2人が絡むと映画的に成立するんです。そこからバランスを考えて、いろんな子どもたちを振り分けていきました」

引きこもりだった詩(山﨑七海)は寮生活で立ち直ろうとしていたが…… © 2026 N.R.E.
引きこもりだった詩(山﨑七海)は寮生活で立ち直ろうとしていたが…… © 2026 N.R.E.

―オーディションで選んだそうですね。

「この2人が面白いので、バランスを考えて。最初は不良の巣窟みたいな施設を書いていたけど、現実はそうとも限らないなと思って。家庭で虐待されてきた子とか、施設を転々としてきた子、いろんな子がいてもいいなと。オーディションしながら設定が変わっていきましたね」

―自分のイメージに合った子を探すのではないのですね。

「最初に自分のやりたいことがあっても、すべてその筋書き通りに作らなくてもいいと思っているので。ライブ感を大事にしたい。出会いとタイミングによって変化していく過程も楽しんでいます」

キレると手がつけらない海斗 © 2026 N.R.E.
キレると手がつけらない海斗 © 2026 N.R.E.

―若い俳優との現場はどうでしたか。

「海斗やみんなの表情やリアクションが、撮っていて楽しかったですね。撮りながら『お前ってこういうキャラクターなんだ』という発見があったりして。大人と違って柔軟性があるし、変なフィルターがかかっていない。見たことのない新鮮さもある。そういう子たちと向き合えたのは面白かったです」

―主演の一ノ瀬ワタルさんについては?

「一ノ瀬さんだとVシネっぽくなるんじゃないかなと思ってたんですよ。そこをもうちょっと、ヨーロッパ映画のような品のよさが出せないかなって考えましたね。撮り方とか芝居の間やトーン、空気感とかでね。不良たちが出てくる話なので、見た目はそんなに変えられないから、なんか雰囲気を作れないかなって」

入浴中の西 © 2026 N.R.E.
入浴中の西 © 2026 N.R.E.

―撮り方で言うと?

「最近の中では唯一、フィックス(固定撮影)で撮ったシーンが多いのが特徴です。今まではほぼフルハンディー(手持ち撮影)だったので。生々しくなりすぎないように、ドキュメンタリー風ではなく、少し客観的に引いた感じで見えるように意識していました。そのせいか、完成した映画の空気感は大人っぽいなと思いましたね。もうちょっとポップというか、エンタメ感の強い感じになるかと思っていたけど、意外にしっとりとした、落ち着いた作品に仕上がったなと」

創作のこだわり

―脚本を書く前にリサーチはするんですか。

「いや、まず漠然と雰囲気で書き始めちゃうことが多いですね。書いてからリサーチして、事実に照らし合わせたり、設定を変えたり、いろいろします。雑でいいので、とにかく書いて完成させちゃう。そこから直すのは簡単だし楽しめるんですよ。白紙の状態から向き合うのがめっちゃしんどい(笑)。完璧なものを一から作っていこうと思うと、気が遠くなって、やる気が起きない。だから割と雑に作っておいて、精度を上げていくという作り方を昔からしていますね」

海斗の父(篠原篤=右)には人に言えない過去があった © 2026 N.R.E.
海斗の父(篠原篤=右)には人に言えない過去があった © 2026 N.R.E.

―主人公以外の人物造形も考え抜かれていますね。

「1人の人物だけのために世界が広がっているというのが気持ち悪いんです。お前の関係ないところでも世界は動いてるからな、って言いたくなる。話としては乱雑になっちゃうかもしれないですけど、それぞれ違うテーマを持っている人間が周りにいていいんだよなと」

―西という主人公を振り返ると?

「テレビに出演して浮かれるとか、ミーハーなところはあるけど、子どもたちの成長を本気で願っている。ただ、できることは限られているし、不器用だし、彼自身も未熟だし。大切なのは、向き合おうとする気持ちで、そこだけは最初から最後まで変わらない。根幹には、見捨てないという信念があるのがいいですよね。俺自身もそういう人になりたいと思いました」

© 2026 N.R.E.
© 2026 N.R.E.

―監督の作品は、救いようのない状況を描きながら、どこかに小さな希望が感じられるような余韻を残してくれます。

「本当は希望とか愛を描きたいんですよ。でも俺からすると、それって絶望の中から見つけ出すものになっちゃうんですよね。希望や愛の美しさを撮りたいなと思うと、その光を見るためにとんでもない深さまで穴を掘らなきゃいけなくなる。俺の作品は『胸クソ映画』って扱いされているけど、けっこう愛の映画を撮っているつもりなんだけどな」

インタビュー撮影:花井智子
取材・文:松本卓也(ニッポンドットコム)

© 2026 N.R.E.
© 2026 N.R.E.

作品情報

  • 出演:一ノ瀬 ワタル
    夏帆 上阪 隼人 篠原 篤 占部 房子
    山﨑 七海 和田 庵 髙田 万作 松木 大輔 小沢 まゆ パトリック・ハーラン
  • 監督・脚本:吉田 恵輔
  • 音楽:世武 裕子
  • 撮影:志田貴之
  • 製作:日誠不動産
  • 配給・制作プロダクション:アークエンタテインメント
  • 公式サイト:shigatsu-yohaku.com/
  • 全国公開中

予告編

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