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日本ロック史の生ける伝説、頭脳警察・PANTAが語る「時代の流れ」

Cinema 音楽

1969年に結成され、昨年50周年を迎えたバンド「頭脳警察」の活動の半世紀を振り返りながら、現在時へとつながる流れを音楽と映像で紡いだドキュメンタリー映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』が7月18日(土)より公開。齢70を超えてなお、ギターをかき鳴らし歌い続けるPANTAに「来し方行く末」を語ってもらった。

PANTA PANTA

ロックボーカリスト、ギタリスト、作曲家、作詞家。本名・中村治雄。1950年、埼玉県所沢市出身。関東学院大在学中の69年に頭脳警察を結成。75年に解散後、ソロ活動を経て77年にPANTA&HALを結成、3枚のアルバムを残し81年に解散、再びソロ活動に。89年、荻野目洋子、チェッカーズ、沢田研二などに楽曲を提供。サザンオールスターズ・桑田佳祐が監督した映画『稲村ジェーン』に役者として初出演。90年、1年の期間限定で頭脳警察を再開。2003年、開戦直前のイラクで「人間の鎖」に参加。17年、マーティン・スコセッシ監督『沈黙-サイレンス-』に出演。18年、クリミアを訪問、ヤルタ市制180周年記念・国際音楽祭に出演。19年、新メンバー4人を迎え、新アルバム『乱破』を発表し、各地でライブやイベントを開催。

日本のロックは、アメリカやイギリスでの流行を数年遅れで追いながら、1950年代後半のロカビリー、60年代後半のグループサウンズ(GS)のブームを経て、70年前後から本格的な発展の段階へと入っていく。1969年12月にPANTA(ボーカル、ギター)とTOSHI(ドラムス、パーカッション)を中心に4人組として結成された頭脳警察は、その先陣を切ったバンドの一つだ。

頭脳警察のオリジナルメンバー、PANTAとTOSHI(右) ©2020 ZK PROJECT
頭脳警察のオリジナルメンバー、PANTAとTOSHI(右) ©2020 ZK PROJECT

「1969年というのはすごい年だった。ウッドストック(・フェスティバル)があったりして変革の年だと思ってたんだけど、後になって振り返ると、実はああいう愛と平和のイベントが終息に向かう年だったんだよね。世界の反体制運動がだんだん下火になろうかという時期に、頭脳警察は飛び出しちゃった。だから思いっきり過激に見えたんだろうね」

それから半世紀、頭脳警察は常にこの「過激」という言葉とともに語られる。『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』(末永賢監督)は、日本ロック史の「伝説」となったさまざまなエピソードを、メンバー自身や関係者が振り返りながら、結成から解散、再結成、休止、復活を繰り返して現在に至る道のりをたどっていく。

ブルースを捨て日本語のロックを追求

その「伝説」の一つが、デビュー間もない頃の「マスターベーション事件」。メジャーな人気バンドが一堂に会す「日劇ウエスタンカーニバル」に出演した際、ステージ上で性器を露出してこすってみせたのを「平凡パンチ」誌がスキャンダラスに報じ、頭脳警察の名が一気に世間に広まったという。映画の中では、その裏話が当時のGSブームをけん引した立役者たちの間で、まるで同窓会での昔話のように和やかに語られる。

PANTAは、挑発的なパフォーマンスを繰り返した当時の気持ちを、「ロックをやるからには欧米に一矢報いてやろうと思った」という言葉で表す。ローリング・ストーンズやスペンサー・デイヴィス・グループなど、黒人音楽に影響を受けた当時の人気バンドを聴くうち、そのルーツとも言えるブルースと出会って心酔するのだが、自分がやるべき音楽はこれだろうかと疑問を抱いた。

「18(歳)の頃、どう解釈したらいいんだろうって、ハタと悩んじゃってさ。これはただのポップミュージックじゃない。アメリカの人種差別の歴史の中から生まれた音楽だ。アフリカから奴隷として連れてこられた黒人たちが、白人たちに歌詞が分からないように、はっきり歌わなかったりしてたんだと知って。そんな風に育ったブルースを、極東のケツの青いガキが、カッコだけ真似してどうすんのよと。それで、大好きなブルースを捨てたわけ」

こうして1969年、19歳で頭脳警察を結成したPANTAは、それまで歌謡曲や演歌が主流だった日本の音楽シーンに殴り込みをかけるのだが、あえて「黒っぽい」要素を排除して、欧米の真似じゃないロックをやろうと決めた。

「まずは言葉ありき。歌詞があって、そこにメロディーやリズムがくっついてくる。だから、分かりもしない英語なんかで歌ってどうするっていう思いがあった。日本語でロックをやるとなると、『バカ野郎』とか『ふざけるんじゃねえよ』とか、そういうフレーズが自然と出てくるんだよ」

歌詞は挑発的でもPANTAの文学的な素養を感じさせる。当時の政治的な状況を反映したものも多い。共産主義者同盟赤軍派のマニフェストをそのまま引用した『世界革命戦争宣言』に、『赤軍兵士の詩』、『銃をとれ』を加えた3曲は革命三部作と呼ばれ、当時の学生や左翼運動家から熱烈な支持を得た。

発禁、解散から再結成まで

やがてPANTAのギターにTOSHIのボンゴというミニマムな編成になりながらも、日本に誕生したばかりのロックフェスティバルや、大学の学園祭、政治集会で演奏を重ねていく。そのライブ音源を収録したファーストアルバムが満を持して1972年3月にリリースされることになり、ジャケットには、三億円事件容疑者が警官に偽装した、あの有名なモンタージュ写真が使われた。

しかしその矢先、前月にあさま山荘事件が日本列島を震撼させると、革命三部作の歌詞が問題視されて発売が中止になる。その2カ月後に発売したセカンドアルバムも、1カ月で回収処分を受けた。10月にリリースした3枚目でようやく事実上のアルバムデビューにこぎつけるのだが、音楽性そのものよりも、「発禁バンド」のスキャンダラスなイメージが独り歩きしていく。

「作られたイメージと常に戦うのがアーティストの宿命なんだよね。いろいろな学園祭に呼ばれて演奏したけど、何年たっても『世界革命戦争宣言』を歌わないと終わらせてもらえないんだよ。あれはそんなヒットソングみたいに歌うものじゃなくて、本当は日比谷(野外音楽堂で開かれた政治集会)の1回で終わらせるべき曲だった。後半の3年間はそのイメージに合わせるのがつらくてね、75年の大みそかに解散したんだ」

50年にわたる「付かず離れず」の相棒TOSHI(右) とPANTA ©2020 ZK PROJECT
50年にわたる「付かず離れず」の相棒TOSHI(右) とPANTA ©2020 ZK PROJECT

解散後も、ソングライターとしての才能をいかんなく発揮して、ソロや新ユニットで活動を続け、他のアーティストへの楽曲の提供から、アイドルのプロデュースまで手掛けた。全編ラブソングのソロアルバムを出して頭脳警察ファンから不買運動を起こされたこともある。86年に『R・E・D』、87年に『クリスタル・ナハト』をリリースした後、ふと頭脳警察の再結成という考えが頭をよぎったという。

「その頃の曲をライブでやるときに、それ以前にソロで作ってきた曲がどうも合わないんだ。何が一番しっくりくるかといったら、頭脳警察の曲だった。これはまたそういうキナ臭い時代になってきたということなんだよね。ベルリンの壁が崩壊した1989年。世界は頭脳警察の曲が合う時代に、また動いているのかなと感じて」

盟友TOSHIに声をかけると、「1年待ってくれ」と言われ、新メンバーを加えて90年に15年ぶりに頭脳警察が復活。しかし2枚のアルバムをレコーディングし、全国ツアーを行った後、再び10年ほど休眠状態に入った。PANTAはソロ活動を続けながら、2001年から頭脳警察での活動も断続的に行うようになる。そして結成から50周年を迎えた19年、90年以降に生まれた若いミュージシャンたちと組んで、頭脳警察を新たにスタートさせた。これは時代がまた「キナ臭く」なってきたと感じたからなのだろうか?

「いや、実はあまり時代性とかは意識しないんだよね。自分がやりたいことをやっていて、それが時代とシンクロしていくことはあるよ。自分が思うままに、自然体で素直にやればいいんだって思って続けているだけ」

新宿・花園神社境内の水族館劇場特設テントにて行われた頭脳警察結成50周年1stライブ(2019年4月7日) ©2020 ZK PROJECT
新宿・花園神社境内の水族館劇場特設テントにて6人編成で行われた、頭脳警察結成50周年ファーストライブ(2019年4月7日) ©2020 ZK PROJECT

音楽の原体験から未来へ

そんな自然体の境地にいつしか到達していたことをうかがわせるエピソードが、映画の冒頭に語られる。日本のロック・シーンを黎明期から半世紀にわたって生きてきた男が振り返る、音楽体験の原点だ。

「小学生の時にエルヴィス・プレスリーとかアメリカン・ポップスが大好きで、14歳になった1964年にビートルズと出会う。これがなければ今の俺はないんだけど、音楽活動を長年やってきて、ある日ふと、自分の原点はもっと前だって気付いたんだ」

ここで明かされるのは、PANTAの父が米軍基地に勤めていたという意外な事実だ。安保闘争に明け暮れる左翼たちを熱狂させた反逆のロッカーが、実は幼い頃、基地の中にある本物の戦車に乗って遊んでいたというのだ。

「親父の親友のメリック軍曹が遊び相手だった。遊び疲れて丘の上に寝そべっていたら、軍曹が夕日に照らされながらハーモニカを吹いてくれた。それを聴いて、電流のように衝撃が走ったんだ。後で知ったら、それが『ケンタッキーの我が家』だった。あれが自分と音楽の出会い。確かに自分の音楽と向き合ってみると、曲の端々にスティーヴン・フォスター(※1)のにおいがするわけ。人には分からないかも知れないけど、自分には分かる。これが原点なんだな」

こうした体験を経て、ほぼリアルタイムでプレスリーやビートルズに衝撃を受け、ロックと一緒に年を重ねてきたPANTA。時代の生き証人が、ロック史を俯瞰で見られるような平成生まれのミュージシャンたちと新曲を作り、演奏する。そんな世代を超えて音楽で対話するシーンの数々もまた、この映画の見どころだ。

頭脳警察の現メンバー。左から澤竜次(ギター、黒猫チェルシー)、樋口素之助(ドラムス)、PANTA、宮田岳(ベース、黒猫チェルシー)、TOSHI、おおくぼけい(キーボード) ©2020 ZK PROJECT
頭脳警察の現メンバー。左から澤竜次(ギター、黒猫チェルシー)、樋口素之助(ドラムス)、PANTA、宮田岳(ベース、黒猫チェルシー)、TOSHI、おおくぼけい(キーボード) ©2020 ZK PROJECT

映画のエンディングは、新型コロナウイルスの猛威が世界を揺るがす中、急きょ加えられたという。本来ならばコンサートが行われるはずだった会場で無観客のままライブ収録された新曲『絶景かな』が、さまざまな思いを乗せて流れる。

「この混乱をくぐり抜けて、未来は絶景かな、そういう思いを込めたんだ。この50年間、世界は相変わらずだなと思うことも多かったんだけど、このコロナの後、やっぱり世界は変わっていくよね。アメリカの黒人差別への抗議運動も、コロナの中から生まれた。元には戻らない。それがどんなあり方なのかは、みんなが模索していくだろうね。当然、ロックも影響を受けるよ。ライブ形態も変わってくるだろうし。俺は音楽そのものがどうなっていくのか、そっちの方に興味がある。ウイルスと共存、AIとも共存!」

人類がこれから迎える「AI(人工知能)の時代」に注目しているという。バーチャルのミュージシャンが曲を作って、汗をかかずに演奏し、それにリスナーが感動する時代だってもう来ていると話すPANTAは、どこかうれしそうだ。彼にとって、聴衆の前に生身で立ち、肉声で歌を届けることこそがロックではないのだろうか?

「そういう場がなくなったら、なくなったでいいんだよ。そのときはまた違う興味が出てくるだろうし。自分にはかたくなに意志を通すところもあるけど、柔軟に時代とともに流れていく一面もある。まさに『パンタ・レイ』(万物流転)。時代に逆らって風を受け止めるわけにもいかないんだ。根は生やしていても、川辺に揺れる葦のように時代とともに生きていく、かな」

撮影=花井 智子
取材・文=松本 卓也(ニッポンドットコム)

©2020 ZK PROJECT
©2020 ZK PROJECT

作品情報

  • 出演:頭脳警察(PANTA、TOSHI、澤 竜次、宮田 岳、樋口 素之助、おおくぼ けい)ほか
  • 監督・編集:末永 賢
  • 企画・製作プロダクション:ドッグシュガー
  • 製作:ドッグシュガー、太秦
  • 配給:太秦
  • 公式サイト:http://www.dogsugar.co.jp/zk.html
  • 製作年:2020年
  • 製作国:日本
  • 上映時間:100分
  • 2020年7月18日(土)より新宿K’s cinemaにて公開

予告編

(※1) ^ アメリカ音楽の父と称される作曲家(1826-1864)。『ケンタッキーの我が家』のほか、『おおスザンナ』、『草競馬』などで知られる

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