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温暖化の歯止めない進行への危機感「地球沸騰化」: 三省堂の辞書編集者が選ぶ2023年の新語

言語 社会

単なる流行語ではない、後世まで残りそうな新語として辞書編集者が激論の末に選んだ「地球沸騰化」。その言葉が後世まで残るためには、そもそも地球が存続していなければならない―という危機感がにじむ。

『三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2023」』の選考会が11月30日、都内で開催された。大賞には、地球温暖化が看過できないレベルであることを示す「地球沸騰化」が選ばれた。

辞書を編む人の矜持(きょうじ)を示す

年末恒例の新語・流行語の発表。複数の団体が、独自の切り口でランキングしているが、三省堂は単純なヒットや人気とは一線を画し、「辞書に収録するにふさわしい後世まで残る言葉」を選定するのが特長。

2020年「ぴえん」、21年「チルい」、22年「タイパ」― ここ数年、SNSなどインターネット上で自然発生的に生まれ・拡散しつつある新語が選ばれてきた。23年は一転、発言者も発言した日も明確に特定できる「地球沸騰化」に決定した。国連のグテーレス事務総長が7月27日の記者会見で、「地球温暖化の時代は終わった。地球沸騰化の時代(the era of global boiling)が始まった」と述べたのが出典となっている。

この夏、連日の猛暑に加え、各地で記録的な大雨による水害が発生。海外でも、大規模洪水のほか、干ばつ、森林火災などが人々を脅かした。

国連事務総長の「地球沸騰化」という表現は、地球が危機的な状況に立ち至ったことを明確に警告するものでした。時代を画する重要なキーワードであり、このことばをおいて大賞はほかにないと判断されました。

学術的には、今後も「地球温暖化」「気候変動」が使われていくと思われます。それでも、人々の危機意識が本当に深刻であれば、「地球沸騰化」という表現も引用され続けるでしょう。「忘れてたけど、昔、国連事務総長が使っていたね」というように、一時的な危機意識の盛り上がりに終わってしまわないことを祈ります。

選評からは、「一時的な新語・流行語として終わらせてはいけない」「引用され続ける言葉でなければならない」―そのためにも辞書に収録すべきという、編集者としての矜持が伝わってくる。

三省堂  辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2023」

1 地球沸騰化 7月の国連のアントニオ・グテーレス事務総長が出したコメントの中のglobal boilingの訳語。「地球温暖化」では済まないという認識と危機感を表した
2 ハルシネーション 人工知能(AI)が、事実とは異なる情報を生み出してしまうこと。もとは「幻覚」の意。生成AI普及元年。対話型AIは人間と同じように流ちょうでもっともらしい文章を生成するが、そこには真偽が入り混じっていることも認識しておかなければならない
3 かわちい 「かわちいコーデ」「自分がかわちい」など「かわいい」をふざけて言った言葉。TikTokが発祥ともされる。 子どもが「うれしい」を「うれちい」と言うように、語尾の「ちい」で、感情を強めているとも考えられる
4 性加害・性被害 性的な害を与える、または、受けること。「セクハラ」「痴漢」「性暴力」など、個別に扱われていたものが、網羅して明確に定義されたことで、性に関する多様な加害・被害をカバーした議論ができるようになった
5 〇〇ウオッシュ 「whitewash=しっくいで白く塗る」から派生して、企業などが批判をかわし体裁を取りつくろうための活動。「グリーンウォッシュ」は、環境負荷をかけているのに、環境保全に積極的であるかのように見せかけること
6 アクスタ アクリルスタンドの略。アクリル樹脂の板にアイドルやアニメなどのキャラクターをプリントして、鑑賞したり、写真を撮ったりして楽しむことが「推し活」の一環として広がった
7 トーンポリシング 議論の中身ではなく、口調や態度などを問題として指摘し、論点をそらすこと。ポリシングは「警察(police)による警備や規制」の意。旧ジャニーズの会見で、強く迫るメディア側に「皆さん落ち着いて」と述べたことがトーンポリシングと言われた
8 リポスト 2023年7月に「ツイッター」のブランド名が突如「X(エックス)」に変わり、それまで「リツイート」と呼んでいたことが、「リポスト」に変わった
9 人道回廊 武力紛争の際、民間人の避難や人道支援物資の輸送などのために一時的に設ける、戦闘を停止し安全を保証する経路。昨年のウクライナ戦争に続き、今年はイスラエル・ハマス紛争でも多く目にした言葉
10 闇バイト SNSなどでアルバイト募集した者を脅してやめられなくしたうえで、特殊詐欺や強盗などの実行役をさせる犯罪行為。反社会的集団が、自ら手を汚すことなく、若い人を犯罪に引き入れる二重の意味で「闇」

表中の語釈は三省堂による。

バナー写真:三省堂「今年の新語2023」の大賞発表風景(2023年11月30日)

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