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ビジュアルの略語以上の意味を包含した「ビジュ」:三省堂の辞書編集者が選ぶ2025年の新語

言語 社会

アイドルグループの楽曲の中のフレーズがネタ元となり、TikTokで繰り返し再生された「ビジュいいじゃん」。「美人」「イケメン」では表現しきれない輝きを「ビジュ」は表現しているという。

『三省堂 辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2025」』の選考発表会が12月3日、東京都内で開催され、大賞には「ビジュ」が選ばれた。

年末恒例の新語・流行語の発表。複数の団体が、独自の切り口でランキングしているが、三省堂は単純なヒットや人気とは一線を画し、「辞書に収録するにふさわしい後世まで残る言葉」を選定するのが特長。

「ビジュ」は英語の「visual=ビジュアル」の略語だが、2025年に広く使われるようになったのはボーイズグループM!LKの楽曲『イイじゃん』がきっかけ。ポップなアイドルソングが一転、クールなラップ調に変わると、「今日ビジュいいじゃん」とカッコよく決まった自分をほめるフレーズがZ世代の若者に刺さり、TikTokやインタスタグラムには「ビジュいいじゃん」のラップに合わせて踊る動画が多数投稿された。

「イケメン」「美人」など外見をほめる言葉はさまざまあるが、モデルやアイドルの整った美しさを想定したもので、必ずしも多様な美しさを表現するものではない。「ビジュいいじゃん」から広まった「ビジュ」は単なる外見を超えて、雰囲気や印象、その人らしさを肯定的に捉えるニュアンスがあるという。言葉の持つ幅の広さ、包摂感が辞書編集者に響いたようだ。

三省堂  辞書を編む人が選ぶ「今年の新語2025」

大賞 ビジュ

ビジュアルの略。主に、若者言葉でアイドルなど推しの対象のメークや服装、全体的な雰囲気も含めた姿形。「ビジュがいい / ビジュが刺さる」「この写真はビジュが高い」(見た目がいいだけでなく、芸術的評価にも耐える)

2位 オールドメディア

(SNSなど、インターネットの新しいメディアに対し、)新聞・雑誌・放送など、従来のメディア。けなした言い方として生まれ、2020年代に広まった。

辞書も典型的なオールドメディア。「AI(人口知能)を使えば辞書なんていらない」という声もあるが、選考委員会では「オールドならではの手段で独自性を発揮し、存在感を示すこともできるはず」との意見が出たという。「オールドの意地を見せてやる」(選考委員の飯間浩明氏)という辞書編集者の決意を込めた上位選出。

3位 えっほ えっほ

感動詞。物や知らせを届けるために、一心不乱に走る時の掛け声。

自然・野生動物専門の写真家ハニー・ヘーレが捉えたメンフクロウのヒナが草むらを懸命に走る写真が話題に。その姿に「えっほ えっほ」という擬音を添えた画像がSNSで拡散された。

4位 しゃばい

さえない。なんの変哲もない。つまらない。気前がよくない。「せっかく盛り上がっているのに、このあと付き合わないなんてしゃばいよ」「ゲーセンの無料サービスにしてはしゃばくないか」

もともとは仏教用語の「娑婆=俗世」から来ている。80年代から使われている言葉だが、数年前から再び使用頻度が上がっている。

5位 権力勾配

人やグループの間に生まれる、権力の強さの(見えにくい)違い。2020年代に広まった言葉。「カップルの間に権力勾配がある」

6位 男消し

事件を報じる報道文などで、加害者である男性の性別が記されない傾向。加害者や被害者が女性の場合には性別が記されることに対し、その非対称性を指摘する語。「男消し構文〔=男性であることを明らかにしない書き方〕」

7位 共連れ

(オートロックなどのように)進入が認められている人だけが入れる所に、入ることができない立場の人が一緒にまぎれて入ってしまう行為。「共連れ防止対策」《参考》違法ではない場合もあるが、不安をかき立てたり、犯罪を構成したりする場合もあることから、近年、問題となっている。

8位 体験格差

家計の苦しさから、子供にスポーツや習い事、旅行などの機会を与えられないなど、子が得られる体験に、親の社会状況や経済状況によって生じる格差。

子どもの貧困・教育格差問題に取り組む公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン代表理事・今井悠介さんの著書『体験格差』がきっかけとなり、報道などでも使われるようになった。以前から、こうした問題は存在していたが、それが「言語化」されたことで、社会課題として意識されるようになる。

9位 夏詣

〔「初詣」に対して〕夏〔特に7月1日以降〕に神社や お寺へ お参りすること。[由来]2014年に東京都台東区の浅草神社が提唱、しだいに広まった。

ここ10年ほどの新しい言葉だが、「初詣」と韻を踏んで、風流な響きがある。初詣から半年たった節目に神社やお寺にお参りする文化を作ろうという試み。浅草神社の取り組みに賛同して夏詣を呼び掛ける社寺も増えているという。しかし、酷暑の日本、ネッククーラー、ハンディファンなど熱中症対策は必須!

10位 緊急銃猟

クマやイノシシ等の害獣が人の日常生活圏に侵入した際に、危害を防止するために緊急に行う銃猟。〔近年のクマによる人身被害の増加に際して、2025年(令和7)鳥獣保護管理法の改正によって制度化。住民の安全確保のうえ、市町村長の判断で発砲を認める〕

【資料】

バナー写真:三省堂「今年の新語2025」の大賞発表風景(2025年12月3日、ニッポンドットコム編集部撮影)

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