コラム:亜州・中国

コラム:亜州・中国(8) 中国共産党100年時代 「市場主義政策」が課題

国際・海外

中国共産党は7月で創立100周年。同党が1949年に建国した中国は「全球化(グローバル化)」し、今や世界第二の経済大国に台頭した。しかし、習近平総書記(国家主席)の下で「党の指導」が一段と強まり、市場経済政策はゆがんでいる。

G7首脳、非市場主義に共同対処

「中国に関して、そして世界経済における競争に関して、我々は引き続き、世界経済の公正で透明性のある作用を損なう非市場主義政策及び慣行という課題に対する共同のアプローチについて協議する」

英国の南西部コーンウォールで6月11-13日に開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)で採択された共同宣言の一節だ。G7 首脳は中国の「非市場主義政策及び慣行(non-market policies and practices)」に共同対処していく姿勢を打ち出したのである。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)のさなかに開かれた今回のG7サミットの陰の“主役”は中国といわれた。共同宣言に台湾問題が初めて盛り込まれたことが象徴的だが、ビジネスや経済の分野でもG7と中国の対立の構図が鮮明になった。

エビアン・サミットと隔世の感

2003年6月1-3日、フランス東部の高級リゾート地エビアンで開かれた主要国首脳会議は、ロシアのプーチン大統領も出席したG8サミットだった。議長国のシラク大統領はここに、中国の胡錦濤国家主席を招待した。

当時、中国は新型肺炎、重症急性呼吸器症候群(SARS)に見舞われていた。それでも3月に就任したばかりの胡国家主席はエビアンに乗り込んだ。正確にはサミットそのものではなく、G8と新興国・途上国との会合に参加したのだが、米国のブッシュ大統領とも会談するなど外交デビューを果たしたのである。

筆者も取材班の一員として、駐在していた北京からエビアンに飛んだ。SARS禍の国からきた新指導者が各国首脳から温かく迎えられたことを記憶している。エビアン・サミットではSARSなど感染症対策でも各国首脳が足並みをそろえた。

日米欧と中国との関係は曲折を経て18年前とは様変わりした。コロナ禍の早期終息に向けて国際社会は今こそ協調すべきだが、今回のG7サミットは分断がいかに深刻かを見せつけた。

中国共産党の習近平総書記(国家主席)はサミット直後の6月15日に68歳の誕生日を迎えた。5月末、党幹部に「世界で愛される中国を目指せ」と指示していたが、中国発のパンデミックの中、世界が「共産党百周年」を祝う雰囲気にはない。

公正さと透明性を欠く「市場経済」

中国は2001年12月に世界貿易機関(WTO)に加盟、これを契機にグローバル化が加速して目覚ましい経済発展を遂げたことはよく知られている。しかし、日米欧はWTO協定上の「市場経済国」と認めていない。中国は「社会主義市場経済」を標榜しているが、G7には公正で透明性のある市場経済とは映っていないのだ。

5月20日、香港を拠点とするアジア企業統治協会(ACGA)と投資銀行CLSAは2020年版「CORPORATE GOVERNANCE(企業統治) WATCH」を発表した。アジア太平洋の12カ国・地域を対象に、2年ごとに更新している企業統治のランキングだ。

2018年版に続いてオーストラリアが首位で、香港とシンガポールがともに2位だ。4位は台湾、日本は前回の7位から5位に浮上、マレーシアは4位から5位に下げた。7位インド、8位タイ、9位韓国と続き、中国は前回と同じ10位にとどまった。11位はフィリピン、最下位はインドネシアだった。

中国には現在、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)など世界的な企業もある。だが、中国の場合、公正で透明性の高い企業統治とはみなされていない。企業経営にも「党の指導」が及んでいることと無関係ではないだろう。

2021年3月5日、全国人民代表大会(全人代)の開幕式に臨む中国の習近平国家主席(左)と李克強首相(AFP=時事)
2021年3月5日、全国人民代表大会(全人代)の開幕式に臨む中国の習近平国家主席(左)と李克強首相(AFP=時事)

世紀をまたいで経営者も党員に

中国最大の経済都市は上海。繁華街である淮海中路のすぐ南に21世紀の新名所「新天地」がある。旧フランス租界時代のレンガ造りの住居をレストランやブランドショップに改造したおしゃれな再開発地域だ。

新天地と隣接する一角に、中国共産党が1921年7月23日に第1回全国代表大会(党大会)を開いた建物が残っている。「記念館」として一般に開放されており、筆者は2002年7月3日、入場料3元を払って見学した。

「消滅資本家私有制」――。館内には創立当時の党綱領が展示され、第1項にはこう明記されていた。中国共産党は労働者や農民の「前衛」としてスタートした。資本家や私営企業の経営者は階級闘争の“敵”だった。

第1回党大会に出席したのは、若き日の毛沢東を含めて13人とされる。創立当初の党員は57人だったともいわれている。

中国・上海に開館した共産党第1回党大会記念館(新館)=2021年6月17日(時事)
中国・上海に開館した共産党第1回党大会記念館(新館)=2021年6月17日(時事)

それから80年余…。世紀をまたいで、中国共産党は微妙に変化を遂げた。江沢民総書記時代の2002年11月8-14日の第16回党大会。筆者も北京で取材したこの党大会で、党規約を改正し、入党資格を従来の「満18歳以上の中国の労働者、農民、軍人、知識人」などに「その他の社会層の先進者」を追加したのである。これにより、民営企業経営者らも入党できる道を開いた。

いわば「資本家の入党」が認められた形だ。この結果、入党者が急増したわけではないが、党員は現在約9200万人。欧州連合(EU)加盟国で最大の人口を擁するドイツ(約8300万人)を上回る規模の集団だ。

国・軍隊・企業も「党が指導する」

中国国家統計局によると、中国の人口は既に14億人を超えた。中国共産党の党員が総人口に占める割合は6.5%程度にすぎない。逆に言えば、党員は中国社会のエリートであり、ある意味で特権階級だといえる。

中国共産党は国家を統治しているだけではない。党規約には人民や人民解放軍などを「指導する」ことが列挙されている。憲法にも「共産党による指導」が明記されている。

指導の対象は企業も例外ではない。企業内には経営組織の董事会(取締役会に相当)と並行して党組織「党委」が置かれる。党委トップの書記が経営トップの董事長を兼任することも少なくない。人事権も事実上、党が握っている。

党員が経営者になること自体は何ら問題ない。だが、共産党が経営まで「指導する」のであれば、本来の企業統治とは相容れない。

習体制で加速する「国進民退」

現在の習近平体制になってから、当局の企業への圧力や関与が顕著になっている。とりわけ巨大民営企業が「党の指導」の標的にされているようだ。

中国ネット通販最大手のアリババ集団とネットサービス大手の騰訊控股(テンセント)の2社に対し、中国政府が突如として独占禁止法違反で罰金刑を言い渡したことは記憶に新しい。

南京生まれで中国経済に詳しい在日エコノミスト、柯隆(か・りゅう)東京財団政策研究所・主席研究員は5月15日発行の新著『「ネオ・チャイナリスク」研究』(慶應義塾大学出版会)で、国有企業を優遇して、民営企業を圧迫する「国進民退」について次のように解説する。

「国有企業の市場独占は罰せられることがなく、大成功を収めた民営企業が罰せられるのはなぜなのか。民営企業の大規模化は共産党の指導体制を脅かす恐れがあると思われているからであろう」

「巨大民営企業の国有化は、資本の国有化ではなく、人事権の国有化から始まると思われる。だからこそ、アリババの創業者・馬雲(ジャック・マー)、テンセントの創業者・馬化騰は相次いで引退した。否、引退したというよりも、引退させられた。このことは『改革・開放』政策の終焉を象徴する出来事である」

改革・開放と市場経済の堅持を

中国は鄧小平が指揮し、1978年にスタートした「改革・開放」政策で経済の自由化を進めてきた。中国共産党は92年10月の第14回党大会で、「社会主義市場経済」を改革目標として採択した。共産党が初めて正式に「市場経済」を認知したのだ。従来の「計画経済」を放棄した画期的な路線転換だった。

社会主義と共産党の指導を維持する一方で、市場経済メカニズムを活用して経済改革を推進するという矛盾をはらんではいるものの、改革派が保守派に勝利した意味合いもあった。

民営企業が着実に成長してきたのも事実である。中国経済で民営企業は雇用の8割以上、国内総生産(GDP)の6割以上を占めるとの試算がある。中国の税収のうち民営企業の比率は2015年の約5割から2020年は約6割に上昇した。

「改革・開放」政策から逆戻りしたかのような習近平体制下で、民営企業の経営者らは今、不安にかられているのではないか。柯隆氏は先の著書で「巨大化した民営企業は究極的な選択を迫られている。解体され、空中分解するか、このまま国有化されるかである」と指摘する。

今こそ「市場経済」化を目指すべきだ。健全なマーケットを育成するには、投資家らに正確で客観的、公正な情報を幅広く提供する必要がある。それには「知る権利」の拡大、言論や報道の自由などメディアの大胆な改革が不可欠である。

つまり、政治改革にも踏み込まなければ、透明性のある市場経済メカニズムは機能しない。2世紀目を迎える中国共産党にとっては新たな難しい挑戦であり、5年、10年単位の長い時間がかかるだろう。

しかし、国際標準の市場主義政策は日米欧との関係改善に役立つだけではない。中国企業のイノベーション力や経営意欲を高め、ひいては世界経済にも貢献する。「改革・開放」政策も終わらせてはならない。なぜなら、中国共産党規約にこう書かれている。

「改革・開放を堅持することは、われわれが国を強大にするにあたって必ず経なければならない道である。生産力の発展を束縛している経済体制を根本から改革し、社会主義市場経済体制を堅持し、それを充実させなければならない」

バナー写真:中国共産党創立100年を記念して北京で行われた野外での写真展に訪れたカップル=2021年6月11日(AFP=時事)

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