21世紀のスプートニク・ショック

「ストーカー衛星」出現による宇宙空間の危機|宇宙作戦隊とはなにか(1)

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今年5月、航空自衛隊に宇宙作戦隊が新たに創設された。まだ一般にはなじみが薄いこの部隊、これまでSFの世界だったものが、ついに宇宙空間も戦場になるのかと思われるむきもあるだろう。いまや宇宙の現実はわれわれの想像を超えている。斯界の第一人者に、4回にわたってその現状を解説してもらう。

いまなぜ宇宙作戦隊なのでしょうか。

そこでまず、近年に宇宙空間で起こっている、わたしたちの想像を超えた「スター・ウォーズ」の現実について見てみることにします。

航空自衛隊「宇宙作戦隊」に授与された隊旗。2020年5月18日代表撮影(時事)
航空自衛隊「宇宙作戦隊」に授与された隊旗。2020年5月18日、代表撮影(時事)

中国のストーカー衛星問題

現在、もっとも気になるのが中国とロシアの動向です。

他国の衛星を監視するために、ストーカー行為をはたらく衛星がいます。2008年以降、中国とロシアの不審衛星が、米国の重要な軍事衛星と同一軌道に入り、長い時には数カ月間接近して監視を続け、標的衛星の能力の把握を行うようになったという事態が起こっているのです。その先には、対衛星攻撃(ASAT)も視野に入ってきます。

まず、中国について紹介します。

2007年1月に中国が行ったASAT実験は衝撃でした。これは自国の老朽化した気象衛星に対してミサイル攻撃を加え、破壊したというものです。おかげで3300以上の破片(デブリ)が軌道上に放出され、この実験が高度約865キロで行われたことにより今後1世紀は周辺にデブリが滞留することが予想されます。このことは、世界でデブリへの懸念と、中国への不信が高まった事件でありました。

1986年以降、米ソ(ロ)間では、物理的破壊を伴うASAT実験は行われていなかったので、世界は2度とこの方向には進まないと楽観視しているところがありました。しかし、中国の実験で、その期待も潰えてしまいました。いざというときに他国の衛星を破壊するという選択肢を手放していない国が21世紀に出現してしまったことで、宇宙空間での戦闘が始まるかもしれないという懸念が国際社会に広がったのです。

その後、物理的破壊を伴う実験を中国は行っていません。しかしASAT実験をやめたわけではありませんでした。2008年以降、運動兵器、レーザー兵器、ロボットアームなどさまざまな兵器を搭載したASAT衛星を開発しています。そして、標的とする外国衛星とほぼ同一の軌道に入ってストーカーし、攻撃のシミュレーションを行ってきたことが確認されています。

具体的に見てみましょう。

2008年9月には、中国は、小型衛星を国際宇宙ステーション(ISS)と同軌道に打ち上げ、ISSに45キロという距離まで近づく実験を行いました。また、2010年6月には実践12号衛星を打ち上げ、自国の実践6F号衛星に軽く衝突、あるいは結合させ実践6F号の軌道位置を変えたといいます。さらに、2013年7月20日には創新3号、試験7号、実践15号の3基の衛星を同時に打ち上げ、ロボットアームを搭載したそのうちの1基が他の2基のうちの1基を捕獲したともいわれています。

2014 年7月23日に、中国が自国の地上配備型弾道ミサイルを高度約3万6000キロの静止軌道上衛星も狙うことが可能な軌道に発射した実験について、米国はASAT(対衛星攻撃)実験であると報道しました。

中国はそれに対して、ASATではなくミサイル防衛実験だったと回答しています。安価で高性能なASAT兵器といえる弾道ミサイルを用いて、宇宙に置かれた標的を迎撃すれすれのところまで接近させ通過させる行為は、はたしてミサイル防衛実験といえるのでしょうか。これがASAT実験なのかどうかは、状況証拠によって判断するしかありません。しかし、この実験で中国の弾道ミサイルが描いた軌道に向けて発射する弾道ミサイルを保有する国は存在しない、という専門家の一致した評価からいえば、ASAT実験であったと考える方が合理的といえそうです。2013年5月13日にも中国は静止軌道近傍に向けて弾道ミサイルを発射しており、米国は静止衛星に向けたASAT実験の可能性を疑っていました。 

ロシアの「マトリョーシカ」衛星

ロシアもストーカー衛星を用いた実験を、中国にやや遅れて実施し始めました。ロシアの場合は中国と異なり、自国の活動について逐次公表することが多く、婉曲な表現ながら、ASAT(対衛星攻撃)実験の一種であることを示唆する場合もあります。

ロシアのASAT兵器は、その形態から「マトリョーシカ」衛星とでもいい得るものが多いです。最近の興味深い例を挙げてみます。

2019年11月25日に打ち上げられた軍事衛星コスモス2542は、12月6日に子衛星コスモス2543を放出しました。その後、親衛星コスモス2542は、米国の軍事偵察衛星USA-245の軌道に接近し、数カ月近傍を飛行し続けました。USA-245もしばしば軌道を変えて監視を回避したにもかかわらず、2020年1月23日にはそれぞれの衛星が地球を一周する速度が約1秒しか違わないところまで2基は接近したとされています。

6月になると子衛星コスモス2543は、自国の軍事衛星コスモス2535(2019年6月打ち上げ)と同一軌道に入り接近して飛行を続け、6月17日には2つの衛星は、間隔100メートルまで接近する形で軌道を周回したと報告されています。

さらに7月15日には子衛星コスモス2543は、孫衛星かまたは何らかの物体を放出し、それを自国の他の衛星に向けて発射したことが米国人研究者により確認されています。ただし、物理的破壊はみられなかったといわれています。

こうした状況下にあって、それでは宇宙作戦隊とはいかなるもので、どのような任務があるのでしょうか。それについて、次回以降で考察していきたいと思います。(この稿続く。次回8月28日掲載予定)

バナー写真:Payless Images

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