21世紀のスプートニク・ショック

中ロの脅威に備える米国の宇宙監視網|宇宙作戦隊とはなにか(2)

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今年5月、航空自衛隊に宇宙作戦隊が新たに創設された。もはや宇宙はファンタジーだけでは語れない、「スター・ウォーズ」時代に突入している。来るべき脅威に対処すべく、最先端のシステムを完備しているのが米国の統合宇宙軍である。斯界の第一人者に、その現状を解説してもらう。

2020年5月18日、宇宙領域専門部隊として、航空自衛隊に宇宙作戦隊が新たに編成されました。今後、2023年度の本格運用を目指して、さしあたって20名程度の人員で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米国などと協力して任務を遂行していくことになります。

宇宙作戦隊とはいかなるもので、どのような任務があるのでしょうか。

なじみのない一般の方には、宇宙作戦隊というと宇宙での戦闘行為を任務とするかのようなイメージが浮かぶと思いますが、いまだ宇宙で戦闘が行われたことは一度もありません。宇宙を対象とする軍事組織といっても、独立した宇宙軍をもつ国、空軍内に宇宙部隊をもつ国、ミサイル部隊が宇宙も管轄する国など、国によってその組織形態はさまざまです。

これら宇宙軍事を担当する部門で共通するのは、宇宙状況監視(SSA)が当面の主たる任務になっていることです。具体的には、①どの国が ②どこに ③どのような機能をもつ衛星などの物体を運用しているのかを監視すること ④それが自国の軍事的な脅威なのかどうか ⑤脅威であるとすれば、どの程度の脅威なのか、ということを評価することにあります。

日本の宇宙作戦隊でも、これが任務の出発点となります。

それでは、その任務はどのように遂行されているのでしょうか。

監視の方法は、一般的には地上に設置した光学望遠鏡(静止軌道を監視することが多い)とレーダー(低軌道を監視)を用いて行われています。

米国などSSA衛星を運用している国では、自国の重要な軍事衛星の周辺を航行し、不審物(敵国の対衛星攻撃⦅ASAT⦆衛星など)や危険な物体が近づいてこないかを監視していますが、これはわずかな数しかありません。

最も完備された米国の宇宙軍

このように、世界で最も完備したSSAシステムをもつのは、2019年8月に創設された米国の統合宇宙軍(SPACECOM)です。それ以前は戦略軍と呼ばれる組織が運用していました。

米国は、同盟国、友好国とともに宇宙監視ネットワーク(SSN)を築きあげており、SSNはさまざまな地域での30以上の光学望遠鏡、レーダーで構成されています。

そして米国が運用する衛星としては、米軍の宇宙配備宇宙監視衛星(2010年打ち上げ)やSSA計画 衛星(2014年、2016年に2基ずつ打ち上げ。現在4基体制。2020年中にさらに2基打ち上げ予定)、かつて米空軍のミサイル防衛システムに用いていた宇宙追跡監視システム衛星(2009年に2基を同時打ち上げ)の3種類が公表資料から確認されています。

カナダの防衛省が運用するサファイア衛星(2013年打ち上げ)からも、SSNに情報提供がなされています。

少し歴史を紐解いてみます。

宇宙の監視自体は第二次大戦後、常に行われていました。1961年6月には、すでに米空軍は、北米航空防衛司令部(NORAD)や海軍宇宙監視システムなどを用いて115基の宇宙物体の大きさ、軌道、任意時刻における物体の位置を確定し、物体に番号をつけて記録しています。

NORADの主要な業務は、かつてはソ連の発射する弾道ミサイルの監視でしたが、冷戦後、次第に宇宙物体の監視に重点が移っていきました。

宇宙監視ネットワーク(SSN)の重要な構成要素となっている宇宙追跡監視システム衛星も、ミサイル防衛局が2009年に打ち上げた衛星です。その2年後、ミサイルではなく地球周回物体を監視するために、その任務は空軍宇宙司令部に移管されました。

地上からの監視では、静止軌道近辺の不審な物体の詳細な状況までは観察しきれないので、宇宙から静止軌道を監視することとしたのだろうと考えられます。

そして近年では、宇宙での台頭著しい中国に対する監視の目が強化されていることはいうまでもありません。前回に紹介したストーカー衛星の出現により、米国の宇宙軍の存在と役割は非常に重要なものになっているのです。(その点については次回に詳しく紹介したいと思います)

米中ロ日の軍事衛星数(2020年4月)

国名 軍事衛星数
米国 192
中国 113
ロシア 102
日本 2

出典:Union of Concerned Scientists Satellite Database(2020年4月1日更新版)を含むさまざまな公開情報

ところで、宇宙の監視任務が中心であれば、天体観測の実力がある国ならば宇宙作戦隊をすぐにでも創設できるということになるのでしょうか。そうであると答えても間違っているわけではないところに、原子力やAIなどと比べても軍民両用性が高いという宇宙利用の特色が存在するといえます。とはいえ、概して宇宙の軍事利用にこれまでまったく縁のなかった国で、天体観測の実力が突出しているという国はほとんどありません。

天体観測の実力がある国は、強い軍隊をもち、軍事衛星の保有数なども多い場合が一般的です。例外であるのは、宇宙の平和利用にこだわった日本だけ、といえるかもしれません。日本には、軍事利用はともかく、民生での天体観測では技術的に他国とひけをとらない能力があります。(この稿続く。次回9月10日掲載予定)

バナー写真:トランプ米大統領が宇宙軍の旗を披露。2020年5月15日(AP/アフロ)

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