「令和の時代」の万葉集

エンドレスの宴-「令和の時代」の万葉集(9)

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万葉人は酒好きだったのかもしれない。おおらかに飲み、かつ歌う。雪が降れば、帰ろうとする客人を引き留めてまで飲み続けるのだ。

ここに、諸人【もろひと】酒酣【たけなは】に、更深【よふ】け鶏【にはつとり】鳴く。これに因【よ】りて、主人【あろじ】藏内伊美吉【くらのいみき】縄麻呂【なはまろ】が作る歌一首

打【う】ち羽振【はふ】き
鶏【とり】は鳴【な】くとも
かくばかり
降【ふ】り敷【し】く雪【ゆき】に
君【きみ】いまさめやも
(藏内伊美吉縄麻呂、巻十九の四二三三)

ばたばたと羽ばたいて
にわとりが夜明けを告げて鳴くけれど……
こんなにも
降り積もった雪の中をですね
あなたさまがたよ どうしてお帰りになることなどできましょうや
(ここは、また落ち着いて、飲み直しましょうよぉー)

  

 私は九州育ちだ。それも、博多の商家に生まれた。今、思い起してみると、昔の博多の宴会というのは、大変だった。とにかく、時間がエンドレスなのだ。昼から飲みはじめて、翌朝まで。朝風呂、朝めし付きなどということも、ざらにあった。というよりは、主人が客を帰さないのである。早く帰ろうとすると、それでは主人の顔が立たないと言うのである。とにかく、客を酔いつぶして泊めようとして大変なのだ。というのは、盛会を催すことで、宴の主人の顔は立つのであり、早く客を帰したとあっては、主人の沽券に関わったのである。

 たしかに鶏は鳴きましたよ。でもね、この雪のなか、お帰りになるのも野暮なこと。飲み直しましょうよ、と客を留める歌なのである。

 この歌は、「女歌風」にできていて、早く帰ろうとする共寝をした男を女が足止めする歌かのごとくに作られている。この歌をもとにお座敷歌を作ると、

 なんでばたばた羽ばたいて にわとりのやつめは鳴くのかぇ わたしたちゃこれからよいところ―― 朝は朝でもこの雪じゃあ どうしてお帰りになどなれましょう さぁさぁ おたのしみは これからよ さぁさぁ おたのしみは これからよ

となろうか。

 個々人の私生活が重んじられる今日、こんな宴会は流行らない。でも、田舎の宴会といえば、昔はみんな、こんなものだったのである。

バナー写真:PIXTA

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