「令和の時代」の万葉集

万葉びとのファッションセンス-「令和の時代」の万葉集(23)

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「おしゃれ」はなにも現代人の専売特許ではない。万葉時代の女性たちも、それぞれ衣装に工夫をこらしていた。当時の流行は、「赤い色」であったという。

立【た】ちて思【おも】ひ
居【ゐ】てもそ思【おも】ふ
紅【くれなゐ】の
赤裳【あかも】裾【すそ】引【び】き
去【い】にし姿【すがた】を
(作者不記載歌、巻十一の二五五〇)

立っていても思い浮かぶよ……
座っていても思い浮かぶよ……
紅の
赤裳をさぁ 裾引かせて
去っていった あの娘の姿をね――

 

「裳」というのは、今日でいえば巻きスカートにあたる。この「裳」をめぐって女たちは、さまざまに贅を凝らし、互いのセンスを競い合っていた。まず、長い裳か短い裳か。次に、どれくらいの幅の襞の裳をつけるか。もうひとつは、フォルムである。細身にフィットさせるか、それともふっくらとボリュームを出すかなどなど、時々の流行、個人の好み、着用してゆく場所の雰囲気などに合わせて、どれを着るのか、どう着こなすか、さまざまなに工夫を凝らし、競い合っていたのである。女たちの衣装対決である。

もちろん、色も大切である。「アカモ」すなわち「赤裳」は、明るい色、ことに赤色や紅色の裳のことをいう言葉であるが、この「赤裳」は万葉時代、人気があった。私は学生たちに、こう教えている。「赤裳」が出てきたら、若い美人だと思え、例外はない、と。

この歌の場合、長めの「赤裳」を着用していたようだ。それも、裾引くように着用していたようなのである。結婚式の花嫁のドレスを思い浮かべてほしい。ドレスの裾をどれくらいの長さのスカートにするか、それはきわめて重大な問題なのである。

ある日、めばえた男の恋心。女の姿が眼に焼きついて離れないというのである。それも、四六時中。赤い裳を裾引く姿が眼に焼きついていて――。

バナー写真:PIXTA

ファッション 万葉集 上野誠