「令和の時代」の万葉集

宴会で説教するやつは最低だ!-「令和の時代」の万葉集(25)

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古来日本人は酒好き、宴会好きである。万葉の時代より、日本社会は泥酔に対して寛容であったようだ。ここに紹介された歌から、酒の飲み方について学ぶべし。

賢【さか】しみと
物言【ものい】ふよりは
酒飲【さけの】みて
酔【ゑ】ひ泣【な】きするし
優【まさ】りたるらし
(大伴旅人、巻三の三四一)

偉そうに
物を言うやつより
酒飲んで
酔い泣きするやつが
(まだ)まし

 

 『万葉集』を通じた宴の文化論のようなものを書いているので、私のことを大酒飲みのように思っている人もいるが、それは違う(『万葉びとの宴』講談社、二〇一四年)。私の身体には、アルコール分解酵素がなく、酒は飲めない。が、しかし。宴は大好きである。人の和を作るすばらしい方法の一つだと思うからである。

 日本にやって来た宣教師ルイス・フロイスは、日本人が酩酊にきわめて寛容であったことを次のように記している。

 「われらにおいては、だれかが酩酊すると、それは大いなる恥辱であり不名誉(のに)、日本ではそれが自慢の種である。そして『殿【トノ】はいかがなされたか』と問われると、(家臣たちは)『お酔い遊ばされた』という」(イエズス会司祭、ルイス・フロイスの一五八四年六月十四日付「日本覚書」より、松田毅一/Eヨリッセン『フロイスの日本覚書―日本とヨーロッパの風習の違い―』中央公論社、一九八三年)

 私の乏しい国際経験からいっても、日本社会は泥酔に対して、寛容な社会であるような気がする。

 大伴旅人は、酒の徳を誉めたたえる「讃酒歌」という歌のなかで、このように歌ったのである。江戸っ子風にいうと、

 いちばんいけねぇ酒飲みはね。そりゃあ、酒の場で、人に偉そうに説教を垂れるやつだね。酒の場で説教くらうほど、いやなもんはないさね。そんなことをするやつより、酔って泣くやつ、泣き上戸の方が、まだましだね。よっぽど。

ということになろうか。

バナー写真:PIXTA

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