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創刊25年の雑誌『声優グランプリ』が見てきた声優業界の変化

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1994年に創刊された、グラビアとインタビューテキストで声優の人となりを届ける月刊誌『声優グランプリ』(主婦の友インフォス)。歌って踊る声優が活躍するようになるなど、近年激変する業界を見つめてきた。2012年4月から編集長を務める廣島順二さんに、これまでの声優業界、そしてその未来について聞いた。

声優専門誌、その始まりは

『声優グランプリ』(以下、声グラ)は1994年に季刊として始まった。97年から隔月刊に、そして2000年に月刊となり、毎月10日に発売している。約2万部を発行。声優のもっとも魅力的な「声」を伝えられない活字媒体というハンデがあるが、その代わりに濃いインタビューとグラビアで見せるところに最大の特徴がある。どのような経緯で始まったのか。

「それまで声優が登場するのは、主に徳間書店の『アニメージュ』、KADOKAWAの『ニュータイプ』などの老舗月刊アニメ誌でした。ときどきインタビューが掲載され、アニメ好きのコアな人たちが声優に興味を持ち始めていた。そのころ、創刊編集長のお子さんが小学生で、クラスに声優に興味のある子が40人中2人くらいいるという話から、それなら日本に10万人以上はいるのではないかと推計し、雑誌を創刊しました。それまで知られていなかった声優のパーソナリティーを伝えるということで反響を呼び、今に至ります」

読者はコアなアニメファンで、下は10歳くらいから上は50歳代と幅広い。メインは大学生や社会人1、2年目くらいの10代後半から20代前半だという。今は、中学生くらいの時にこの雑誌の読者だったという若い声優が表紙を飾る。

伊藤美来さんを表紙、巻頭特集に据えた『声優グランプリ』の2019年10月号
伊藤美来さんを表紙、巻頭特集に据えた『声優グランプリ』の2019年10月号

「創刊から、男女ともに声優の仕事を幅広く取り上げるというコンセプトは変わりませんが、90年代は男性のアニメファンが中心の時代だったので、登場するのは女性の声優が多かった。その後、男性と女性の声優がグループで表紙になることは何回かありましたが、男性の声優がソロで表紙を飾るようになったのは、創刊から13年後くらいからです。それが、3年ほど前からは年12号のうち、6、7号の割合で男性が表紙に登場するようになりました。男性が表紙の号は、読者は女性が7、8割で、逆なら読者はほとんどが男性になります。女性読者が増えたのは、アニメやゲームが一般的になり、『アニメや声優が好き』とオープンに言える時代が来たからだと思います」

ところで、声グラには声優のプロフィールに生まれた年の記載がない。なぜなのか。

「キャラクターとの乖離を起こさないためです。小中高生の役を30代以上の声優が演じるようなことは一般的だったので、年齢による先入観を少しでもなくすように、イメージを壊さないように、記載しないということになったと聞いています」

編集長の廣島順二さん
編集長の廣島順二さん(撮影:今村拓馬)

ネット時代の到来で激変した声優の仕事

しかし昨今は、声優とアニメのキャラクターは同一視されることが多く、キャラクターと同じような年齢の声優が演じることが多くなった。時代が変わって、声優の仕事も大きく変化したという。

「これまで深夜アニメは3カ月間テレビで放送し、その後のDVDの販売で売り上げを伸ばしてきました。しかしインターネット動画配信の普及やファンの嗜好の変化で、そのビジネスモデルは徐々に崩壊して、声優が歌う主題歌などのCD販売や、声優によるアニメのライブやイベントで収益を上げるようになりました。そのため2010年くらい以降から、声優が歌ったり踊ったり、ライブをすることが当たり前になりました。同時に、スマホのゲームが爆発的に増えるなど、声優の声の需要は高まり、仕事の幅が広がりました。もともと声優のアニメ出演料は安く、新人は1本1万5000円で、レギュラーが週4回あって6万円くらい。そのためアルバイトをしないとやっていけませんでしたが、今は他に仕事がありますから、その限りではないようです」

声優は、もはや声の仕事だけではなくなっている。そのため求められることは、かつてに比べてずっと多くなっているという。売れている声優とは、一体どういう人たちなのか。

「大学に行きながら声優の仕事をしている人も多くなっています。取材していて思うのは、売れている声優は、自分の出ている作品の世界観を咀嚼(そしゃく)して話すことができるということ。そして人間的な深みがあり、話も面白い。また、人間として社会人としてちゃんとしている人が多い。アニメ制作の現場はたくさんの人と関わるので、また仕事をしたいと思ってもらえる人であることは大事だからです。そしてもちろん必要なのは、イベントなどへの動員力です」

また、声優に必要不可欠なのは、「自己プロデュース力」だという。

「芸能界と違い、基本的に声優業界では事務所の売り込みによって仕事が得られることは少なく、作品ごとにオーディションを勝ち抜く必要があります。弊社では雑誌の付録として『声優名鑑』を毎年作っていますが、2001年くらいに始まり、当初は300人ほどだった掲載人数が、19年版では1430人になりました。爆発的に増えた声優に対してマネージャーの数が十分に足りていないこともあって、現場に本人が一人で行くことも多いです。そして自分の売り方は自分で考える必要がある。今はインターネットで動画配信やSNSを通じて個人で発信できる時代ですから、ファンのニーズを的確につかみ、自分でプロデュースしていく。そのため逆に、声優養成所や専門学校に入ることなく、個人的な配信からフォロワーを得て、そこから声優になる人もいます」

芸能界と違うところは、まだある。

「声優は、自分が声を担当したキャラクターたちを背負って活動しています。そのため、どんなにきれいだったりカッコ良かったり、歌が上手かったりしても、作品がヒットしてそのキャラクターが愛されないと、その声優の人気はそれほど出ません。だから声の演技以外の一芸に秀でていて、それでどれだけ人気になっても、軸足は声優の仕事に置くという人が多いです。『個』の魅力で戦う芸能界と違って、声優の魅力は『個』だけではない。背負うキャラクターの力で何倍にも増幅されるのです」

声優のニーズはさらに広がる?

最近、人気の声優が海外でライブを開催したり、イベントに出演したりもしている。海外への声優の進出は、これからもっと盛んになっていくのだろうか。需要はどれくらいあるのか。

「声優の連載をまとめて書籍にし、発売記念イベントを行うと、200人のお客さんのうち10人くらいは外国人です。応募の倍率は10~20倍ほどなので、外国人のファンはもっといるんだと思います。2年ほど前に上海とシンガポールに行き、どれくらい声優のマーケットがあるのか調査したところ、アジアの国々では小さいころから日本のアニメを見ているので、日本のアニメファンは当たり前にいる感じでした。ただ、言語の壁もありますし、声優単体の人気が高まっていくのはまだこれからという印象です」

とはいえ現在、声グラのフェイスブックを見ているのは、7割が外国人だという。

「個人的には、これから声優の需要はますます増えると考えています。例えば、スマートスピーカーなどの家電がもっと普及すれば、その声を好きな声優の声にカスタマイズしたいという人も出てくるのではないかと思います。そうしたニーズが高まって、さらに声優の仕事が広がるのではないでしょうか。また、海外で日本のアニメを見て育った人たちが、今後はアニメを自ら作るようになる。そうやってニーズが増え、海外の人や資本がアニメ市場にもっと流れてくるようになったとき、またこの業界に新たな変化が訪れると思います」

取材・文:桑原 利佳、POWER NEWS編集部

バナー写真:創刊25周年を迎えた雑誌『声優グランプリ』(主婦の友インフォス)

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