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ふるさと納税めぐる法廷対決:千代松大耕(ひろやす)泉佐野市長に聞く

政治・外交 地方

政府は2019年、ふるさと納税制度の規制を強化。高価な返礼品やギフト券を贈り、多額の寄付金を集めていた泉佐野市を新たな制度から排除した。国を提訴し、争っている同市の千代松大耕市長に話を聞いた。

千代松 大耕  CHIYOMATSU Hiroyasu

大阪府泉佐野市長。1973年生まれ。同志社大学卒業後、米国と日本の大学院で経済学を学ぶ。メーカー勤務を経て2000年に泉佐野市議に。11年の市長選に当選。現在3期目。

泉佐野市のマスコット「イヌナキン」は、”ゆるキャラ”とは正反対の、筋肉ムキムキの犬のスーパーヒーロー・レスラーだ。人気漫画「キン肉マン」の作者がデザインし、その名前は近くにある犬鳴山からとった。イヌナキンの口癖は「一生犬鳴(一生懸命)」だという。

それは泉佐野市にふさわしいマスコットと言える。同市は1年以上前から、ふるさと納税制度をめぐって国と闘っている。

ゆるキャラグランプリ/ゆるキャラグランプリの表彰式。ご当地ランキング2位の大阪府泉佐野市「一生犬鳴!イヌナキン!」(左)=2019年11月3日、長野市(時事)
ゆるキャラグランプリ/ゆるキャラグランプリの表彰式。ご当地ランキング2位の大阪府泉佐野市「一生犬鳴!イヌナキン!」(左)=2019年11月3日、長野市(時事)

2008年に導入されたふるさと納税制度は、15年に控除上限が倍の20%に引き上げられたことで、利用者が爆発的に増えた。自治体による寄付金集め競争は激化し、各自治体は簡単に利用できるポータルサイトを通じて、しばしば地元とは関係のない豪華な返礼品を提供するようになった。

泉佐野市は19年、Amazonギフト券や高価な商品を並べた積極的なキャンペーンで500億円もの寄付金を集めた。この額は全国のふるさと納税額の1割近くで、同市の地方税収(約200億円)の倍以上に当たる。

過熱する「返礼品競争」に対する批判の高まりを受け、国は自治体に対し、返礼品は寄付金額の30%を超えず、地場産品に限定するよう通知した。そうしたガイドラインを反映するため法律が19年6月に改正された際、総務省は制度を乱用したとして、泉佐野市など4つの自治体を排除した。

泉佐野市は唯一、これに抵抗する動きを見せた。国地方係争処理委員会に審査の申し立てを行い、その後、大阪高裁に提訴した。高裁は20年1月、同市の請求を棄却する判決を言い渡したが、市は最高裁に上告。千代松市長は「最後まで闘う」と表明している。

筆者は3月13日、市長と会い、国との争いや、地方自治をめぐる訴訟の意味などに関して話を聞いた。ふるさと納税という風変わりな制度は、地方自治体が直面している課題、地方分権の限界、地方活性化で市場競争をあてにするリスクなどについて、さまざまな教訓をわれわれに提示している。

ふるさと納税訴訟/記者会見する大阪府泉佐野市長(左)=2020年1月30日、大阪市北区(時事)
ふるさと納税訴訟/記者会見する大阪府泉佐野市長(左)=2020年1月30日、大阪市北区(時事)

モグラたたき

「国は当初、ふるさと納税の意味について、地方自治体が新たな収入を集めるために知恵を絞ってくれればと考えていた」と千代松市長は振り返る。「だが競争が過熱し、うちのようなえげつない自治体が出てきて、総務省は事態がコントロール不能となりつつあるのではないかと恐れ、パニックとなり法律を改正した」 

菅義偉・官房長官が総務相だった時に主導して始まった同制度は、国民が「ふるさと」など、自分にとって大事な自治体に恩返しできるようにする目的でつくられた。また、大都市から人口減、高齢化、労働者の都市流出に直面している地方に多額の税収を再配分することで、過度の中央集権化を是正する取り組みでもあった。

国の地方交付金が削減される中、各自治体は「ふるさと納税」の寄付金集めで、互いに競争するよう奨励された。2018年度には400万人が、計5100億円を寄付した。それでも、個人住民税収入は総額約13兆円であり、これはすべての日本国民が控除上限いっぱいまで寄付した場合、理論的に控除され得る税収のごく一部にとどまっている。

泉佐野市など、なりふり構わず寄付金集めに走ったいくつかの自治体は、強い批判を浴びた。大阪高裁は判決で、泉佐野市が「制度の本来の趣旨を逸脱する方法で寄付金を集めることによって、他の地方団体に大きな影響を及ぼした」と指摘した。

他の自治体からの苦情と、過度の競争を抑制したいという考えから、総務省はこれまでにない厳しい規制を公表し、最終的には法律を改正した。

千代松市長は「ふるさと納税制度をめぐる国の対応は、地方分権が進んでいないどころか逆に後退していることを明らかにした」と言う。「国が近年提唱してきた地方の自主自立なるものは、基本的に『われわれに頼るな』という意味だった。だが、わが市が創意を発揮すると、彼らはモグラたたきのようにわれわれを殴りつけた。日本の地方分権はきれい事に過ぎないことが分かった」

国と自治体は「対等」

泉佐野市は今年、最高裁への上告に際して、総務省の決定は「恣意的な措置であり、独立した地方自治体の地位を侵害し、憲法に違反する」と主張した。

さらに、総務省は同市などを排除することによって、法律を遡及的に適用したとも論じている。ふるさと納税の法改正まで、自治体の返礼品については種類も額も法的な制限はなかった。実際、同制度は当初そうした「返礼品」を想定していなかった。

さらに、返礼品の額は寄付金の3割以下にするといった同省の一連の通知は拘束力のない「技術的助言」だった。2000年にいわゆる地方分権一括法が制定された後、国と地方自治体は理論上、対等の立場にある。国は自治体に助言できるが、そうした助言に従わなかったからといって罰することはできない。

「だからこそ、日本の地方自治にとって今後、大きな禍根となってしまわないよう、われわれは最後まで闘っている」。千代松市長はこう述べている。

マーケティングの実際的知識

千代松市長が人口10万人の泉佐野市の税収増に全力を挙げたことに疑問の余地はない。国は2009年、同市を財政健全化団体に指定した。それは主として、関西国際空港(泉佐野市と他の近隣の二つの市と町に属してるが、空港に渡る唯一の橋は泉佐野市にある)関連の施設建設による、900億円以上の赤字のためだった。

同志社大学と米リンカーン大学で経済学を学んだ後、京都の堀場製作所で働いた千代松市長は間違いなく、マーケティングの実際的知識を持っていた。彼のリーダーシップの下、同市は市の命名権売却や犬の飼い主への課税、関西国際空港への連絡橋利用税の導入といった型破りの税収拡大策を模索した。

だが、金脈を掘り当てたのはふるさと納税だった。市は2014年、ふるさと納税の人気ポータルサイトを運営するトラストバンク社と包括的な合意を結び、寄付金収入が全国一になれば、社に割増報酬を支払うと約束した。それ以来、同市は例えば地元産のタオルや関西空港を拠点とする格安航空ピーチエアのマイレージポイントなど、幅広い人気返礼品の提供をうたい、最後にはAmazonギフト券もリストに加えた。

千代松市長は返礼品のコストや管理費を除いても、18年度の500億円の寄付金のうち170億円が手元に残ったと説明、「税収がおよそ年200億円の市にとって、これは大きい」と指摘した。

最後まで闘う

泉佐野市は財政赤字の重荷を抱えながらも、空港施設からの税収もかなりあり、地方交付税の配分割合は約6.7%にとどまる。これは比較的小さな数字だ。 

「泉佐野は交付税にあまり頼っていないので、最後まで闘えた」と千代松市長は説明した。その上で、新制度から排除されるとすぐに総務省に謝罪した静岡県の自治体の名前を挙げ、「われわれが彼らと同じ状況にあれば、やはり泣き寝入りせざるを得なかったかもしれない」と付け加えた。

法廷で争いが続く間、総務省は市への助成金を減らすと脅し、実際に19年には2回、特別交付税を減額した。同省が再び減額を決めれば、市は別の訴訟を起こすことを検討するという。

千代松市長は国との争いで、地方分権を強く掲げる日本維新の会の大阪府知事、共感する国会議員らや地元有権者の支持を受けている。19年には連続3期となる当選を果たした。

「ふるさと納税」が抱える構造的問題

ふるさと納税をさらにマクロな視点で考察してみよう。この制度は仕組みそのものに問題点があり、その多くは高裁法廷での応酬では取り上げられなかった。

まず、個々の自治体および国全体の税収減少という問題がある。ふるさと納税利用者の大半は大都市の住民で、横浜市、名古屋市、東京都港区、世田谷区といった自治体は住民税収入の大幅減少に見舞われている。国は失われた税収の4分の3を交付税の交付金増額によって補てんしているが、それは既に切迫した状態にある国家財政にさらなる重荷となっている。

さらに問題なのは、この返礼品の仕組みを維持することで、ポータルサイトへの手数料や宣伝費、返礼品の購入代金・送料に莫大な税収が消えていることだ。新しい法律では、すべてのコストは受け取った寄付金の半分以下に抑えなければならない。半分とすれば19年度では2500億円だが、この金額は本来、公共サービスや地方経済活性化に使えるはずだったものだ。今年度以降、多くの納税者がこの騒ぎに参加すれば、この損失はさらに拡大することになる。

この税控除制度には逆進的性格もある。高所得者であればあるほど多額の寄付を行い、その分を税控除でき、全国各地から「返礼品」が山のように集まる。実際、批判的な人々の言葉を借りれば、これは「カタログ・ショッピング」「国が認めた課税逃れ」の制度となっている。こうした行動は、公の財源であるべきものを私物化している。さらに心配すべきなのは、課税システムの公平性に対する信頼がむしばまれることだ。

短期的な寄付金の急増が、地元経済の本当の活性化につながるかどうかも不透明だ。地方活性化に詳しい社会起業家、木下斉(ひとし)氏はふるさと納税制度について、公共の利益を無視した「やった者勝ち」の行動を後押しする「誤った結果を生む誤った競争」と指摘。「国はこうした一過性の資金獲得競争をあおるべきではなく、むしろ地方への財源移譲を推進し、長期的視点に立った地元経済への投資を行うよう地方自治体を後押しする仕組みをつくるべきだ」と述べている。

持続可能かの検討を

千代松市長は「指導者はうらやましそうに指をくわえて待っていないで、頑張らなければいけない」と強調する。これは確かに正しい。だが、地方の自治体と住民による革新的な取り組みが必要だということを受け入れたとしても、対等な競争の場が確保されるのかどうかは定かでない。

新ふるさと納税制度は、全ての地方にとって公平ではない。返礼品は基本的に地場産品でなければならず、送料を含むコストは受け取る寄付金の50%以下でなければならない。

「人気のある特産品を持つ自治体は、そもそも有利な立場にある」と、千代松市長は指摘した。泉佐野市を含めすべての自治体がブランド米や牛肉、カニ(いわゆるふるさと納税の3種の神器)といった品を提供できるわけではない。それに加え、豊かな人々の大半が住んでいる大都市から遠く離れた自治体は、支払う送料も高くなり、提供する返礼品の額をその分下げざるを得ない。

「地方自治体の方が、自分たちにとって何がベストかを分かっている。ふるさと納税のあるべき姿は自治体が決めるべきだ」と千代松市長は強調する。これも基本的には正しい。だが、日本に1788ある地方自治体の合意によって、より平等で規制の少ない制度が果たして誕生するのか。見通しはそれほど明るくない。 

国は、この制度の持続可能性を真剣に、かつ長期的な視点に立って検討すべきだ。今のところは制度の欠陥を何とか取り繕いつつ、列を乱した者を罰することにもっぱらエネルギーを注いでいるようにみえる。

原文=英語

バナー写真=ふるさと納税訴訟/大阪高裁に入る泉佐野市長(前列中央)ら=2020年1月30日、大阪市北区(時事)

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