ニッポンの金メダル候補

野口啓代:「最初で最後」の五輪で金を目指すプロフリークライマー―東京五輪の金メダル候補たち(4)

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スポーツクライミングが五輪で初めて実施されることが決まったのは、2016年8月の国際オリンピック委員会(IOC)総会だった。背景には、若者に人気の競技を積極的に採用する方針があり、東京五輪に追加された。27歳だった野口啓代はそのころ引退を考えていたが、地元開催の大舞台に立ちたいという思いから現役続行を決意した――。

父親が実家に作った手づくりの壁

垂直にそり立つ壁を、ホールド(突起物)をつたって道具を使わずに登るスポーツクライミング。野口がその魅力に出会ったのは2000年、小学5年の夏。家族旅行に出かけたグアムだった。才能はあっという間に開花し、02年3月には全日本ユース選手権で中高生を抑えて優勝。

19歳だった08年に日本女性では初めてボルダリングのワールドカップ(W杯)を制した。W杯ボルダリングでは09年、10年と連続で年間総合優勝を果たし、これまで4度の総合Vを遂げている。茨城県龍ケ崎市で牧場を経営していた父健司さんが、実家の牛舎を利用して手作りしたクライミング壁が彼女の成長を支えた。

スポーツクライミングには3種目あり、「ボルダリング」は制限時間内にクリアした課題の数を競う。このほか、15メートルの壁を登る速さを競う「スピード」、制限時間内に壁のルートをどこまで登れるかを争う「リード」がある。東京五輪は「複合」で争われ、三つの順位を掛け算した総合ポイントで順位が決まる。それぞれに違った能力が求められ、選手にとってすべてを同じように強化するのは難しい。

課題は「スピード」

W杯の実績からも分かるように、野口はボルダリングを最も得意とする。昨夏の世界選手権複合で2位となったが、内容はボルダリング1位、リード3位で、スピードは7位。順位を掛けた総合ポイントは21で、優勝したヤンヤ・ガルンブレト(スロベニア)は12ポイント(スピード6位、ボルダリング2位、リード1位)だった。この銀メダルで五輪新種目では日本代表の一番乗りを果たしたが、苦手のスピードの克服がライバル打倒へのカギを握る。

野口はプロのフリークライマーとして、競技生活の傍らその活動の場を広げてきた。さわやかな笑顔でクリーンエネルギー事業支援などのCMに登場し、スポーツ紙にはコラムを掲載。2020東京五輪公式ビデオゲームのゲームキャラクターにもなった。

競技人生20年の集大成を東京で

五輪代表を決め「まだ信じられない… 夢が叶った…」とツイートした野口は、東京を「最初で最後の五輪」と明言している。新型コロナウイルスの急激な感染拡大という異常事態で、東京五輪は来年に延期となった。5月に31歳となる彼女にとってこの1年は重たい。「簡単には整理がつかないというのが正直なところ」と戸惑いはみせるものの「大好きな競技生活が一日でも長く過ごせることをポジティブに捉えている」と前向きなコメントを出した。

バナー写真:ボルダリング・ジャパンカップ女子決勝に臨む野口啓代選手(時事通信)

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