ニッポンの金メダル候補

阿部詩:対外国勢通算59勝1敗。“お家芸”柔道で目指すは兄・一二三との同日優勝―東京五輪の金メダル候補たち(8)

スポーツ 東京2020

いつの大会でも常に金メダルが期待される日本発祥の武道、柔道において、圧倒的な勝率とともに「本命」と目される若き柔道家がいる。女子52キロ級の阿部詩(うた、日本体育大学)である。五輪開幕時に21歳となる彼女は、男子66キロ級に出場する兄の一二三(ひふみ)と同じ7月25日に畳に上がる。目指すは、同一競技では史上初となる“兄妹(きょうだい)”同日優勝だ。

16歳で世界制覇

阿部詩は兵庫県神戸市に生まれ、兄の一二三らが柔道をしているのを見て、幼稚園に通う頃に自分も始めた。

小学生の頃から天才肌を発揮し、全国大会に出場するようになったが、目につくほどの成績は残していない。飛躍を遂げたのは中学生に入ってから。嫌いだった練習に身が入るようになり、また恩師と言える指導者に巡り会ったこともあり、全国中学校大会で優勝するなど急成長を遂げた。

一度火がつくと、その勢いは止まらない。高校1年生のとき、国際柔道連盟ワールド柔道ツアーの一つ「グランプリ・デュッセルドルフ」で優勝し、同ツアーの史上最年少優勝者となった。

2018年、高校3年生で出場した世界選手権でも優勝すると、翌年も制して連覇。まぎれもなく世界女王と呼べる存在になった。

外国人選手は投げやすい

何よりも目を引くのは外国人選手に対する強さだ。中学時代に初めて国際大会で対戦して以来、東京五輪前までの通算成績は59勝1敗。数々の大会での優勝もさることながら、この数字こそ阿部が本命と呼ばれる最大の根拠だ。

「外国人選手の方が投げやすいというか、やりやすいです」

こともなげに阿部は言う。

強さを支えるのは、群を抜く投げ技の切れ味だ。しかも、相手の柔道着をつかんだら容易に放さない強烈な引き手もある。それらのストロングポイントからもたらされる、一本勝ちの多さもまた、彼女の柔道の魅力だ。

常に前へ出る柔道のスタイルそのままに、阿部自身の言葉にも積極性と負けん気の強さが漂う。

例えば、高校2年生で出場したグランドスラム東京で優勝したあとの言葉もそうだ。

「この階級に阿部詩がいるということを知ってもらえたと思います」

「2020年まで阿部詩の時代を続けたいです」

あれからの3年半余りの歩みは、有言実行そのもの。今年になって出場した二つの国際大会も優勝、あらためて強さを見せつけた。

目標は「幸せな家庭を築くこと」

待ち焦がれた東京五輪での目標は、尊敬する兄とそろって優勝すること。

「お兄ちゃんと二人で目標にしたことを実現したいです」

年齢的にも、この先五輪を連覇する可能性は充分。だから、さまざまなメディアのインタビューで「将来の目標」を問われる。おそらくは「〇連覇したい」という答えがほしい質問に対し、阿部は意表を突くようにこう答える。

「幸せな家庭を築くことです」

その言葉は畳の上とは異なる、はにかんだような笑顔とともに発せられる。屈指の柔道家が見せるその素顔も、多くのファンを引きつける理由だ。

バナー写真:2連覇を達成した2019年の世界柔道。準決勝ではリオ五輪金のマイリンダ・ケルメンディ(左)を破った(2019年8月26日、東京・日本武道館)時事

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