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「体質」が違えば「健康法」も異なる:伝統的な食生活は民族の知恵

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世界各地の民族は、先祖からの遺伝子、生活習慣や気候風土の影響を受けてそれぞれ異なる体質を身につけてきました。長寿大国ニッポンを支え、大きな役割を果たしてきたのは和食ですが、誰でも和食で長生きするわけではありません。人種差医療を研究する内科医・奥田さんは、体質によって、望ましい食生活のあり方も変わってくると言います。

和食が支えた日本人の健康と長寿

和食は「ヘルシーな料理」として世界中で知られています。農林水産省の推計によると、2019年の時点で海外に日本食レストランは約15~16万軒もあるそうです。

そのきっかけとなったのが、日本人の平均寿命が戦後ぐんぐん延びて、1980年前後に世界一になったことです。日本はその後も世界有数の長寿大国の座にあり、現在世界一の長寿者も日本人です。日本人の健康と長寿の秘密を探ろうと、さまざまな研究と調査が行われる中で、世界が注目したのが和食でした。

確かに、日本人の健康には和食が大きな役割を果たしています。

日本人の最大の強みは動脈硬化になりにくいことです。動脈硬化は血管の内側の壁に汚い脂がべったりたまることをいい、血液の流れが悪くなって、ついには詰まってしまいます。これが脳の血管で起きると脳梗塞、心臓の血管で起きたのが心筋梗塞です。日本は心筋梗塞が非常に少なく、昔も今も世界でもっとも発症率が低い国の一つです。

この原因は二つあり、一つは遺伝で、日本人は欧米人と比べて善玉コレステロール(HDL)が約10%多いというデータがあります。

もう一つが伝統的に魚を多く食べてきたことです。魚に含まれるEPAとDHAには中性脂肪を減らして、動脈硬化を抑える働きがあります。日本人は血液にも母乳にもDHAが豊富に溶けていて、その濃度は米国人の6倍弱、中国人の2倍に上ります。

EPAとDHAがとくに多いサバ、イワシ、ブリ、ウナギなどの魚は日本の沿岸で獲れるため、日本人ははるか古代から食べてきました。私たちは魚のおかげで動脈硬化が進みにくい体になり、それを代々受け継いできたのです。

日本人の二つめの強みは腸内環境がきれいなことです。世界12カ国の人の腸を調べた研究によると、ビフィズス菌などの善玉菌がもっとも多く、腸がきれいだったのが日本人でした。意外なことに、同じアジアでも中国の人は腸内環境があまりきれいではなく、日本人より米国人に似ていました。

日本人の腸がきれいなのは、昔から食物繊維をしっかりとってきたからと考えられます。食物繊維は善玉菌の餌になり、悪玉菌が作る悪い物質を体から追い出してくれます。腸内環境は数十年単位でゆっくり変化するため、現代日本人の腸がきれいなのは祖父母や親の世代の食生活のおかげといえるでしょう。

人種によって異なる体内環境

けれども、和食を食べれば誰でも健康で長寿になれるかというと、それはちょっと違います。なぜなら、世界各地の伝統的な食生活は、本来、その土地に暮らす人の体を作り、健康を守るために発展したものだからです。受け継いできた遺伝子と生活習慣や気候風土の影響を受けて、世界の人はそれぞれ異なる体質を身につけました。

例えば日本人と欧米人の違いを見てみましょう。異なるのは髪や瞳の色だけではありません。筋肉のつきかたや脂肪の質、体温、食べた物を消化する力、アルコールを分解する力、ホルモンや酵素の量、胃の形から腸内環境まで、人種による違いは体の中にもたくさんあります。

日本人の胃は穀物を食べるようにできている。
日本人の胃は穀物を食べるようにできている。

図1は日本人と欧米人に多い胃の形です。なぜこんなに違うかというと、食べてきたものが違うからです。

日本人の主食は米をはじめとする穀物です。穀物は優れたエネルギー源ではあるものの、食物繊維が多いので消化に手間がかかります。そのため日本人の胃は縦に長くなり、食べたものをためて、十分に砕いてから腸に送り出すようになりました。そして腸には穀物の消化に役立つ腸内細菌がたくさんすんでいて、栄養をしっかり引き出すことができます。

これに対して欧米人の食生活は肉と乳製品が中心でした。つまり、脂肪と蛋白質です。脂肪と蛋白質はおもに腸で消化されるため、胃から腸に早く届ける必要があります。

そのため、欧米人の胃は胃酸を大量に出して胃での処理を手早く終えると、胃の筋肉をしっかり使って食べたものをスムーズに腸に送れる形に進化しました。腸では脂肪と蛋白質を消化するための酵素が十分に分泌されています。

このほかに、牛乳を消化する力も人種による差が大きいことが知られています。図2は、牛乳を分解するのが苦手な人が多い地域を濃い色であらわした世界地図です。牛乳を分解する力は酵素の働きによって決まり、英国と北欧諸国では大部分の人が牛乳を楽に分解できるのに対して、日本を含む東アジア、東南アジアなどは9割近い人が牛乳の分解が苦手です。

牛乳を消化する力には人種差がある。色が濃いほど、牛乳の消化が苦手な人が多い地域。
牛乳を消化する力には人種差がある。色が濃いほど、牛乳の消化が苦手な人が多い地域。

さらには、体質の違いが困った問題を引き起こすこともあります。ビタミンDには骨を強くする働きがあり、食品から摂取するだけでなく、紫外線を浴びることで体内でも合成できます。アフリカは紫外線が強いので、アフリカ人はビタミンDを体内で盛んに作っていますが、それと引きかえに、食品からビタミンDを吸収する力があまり発達していないという指摘があります。

そのため、紫外線が弱い米国で暮らすアフリカ系米国人はビタミンDが不足しがちで、これを補うために、ビタミンDを他の人種よりたくさん摂取する必要があると言われています。体質が違えば望ましい食生活も変わるのです。

伝統食には先人の知恵が詰まっている

日本人の最大の弱点は、おなかに内臓脂肪がつきやすいことです。内臓脂肪は悪い物質を作って高血圧、糖尿病、脳梗塞や心筋梗塞など生活習慣病全般の原因となり、大腸がん、肝臓がん、膵臓がん、乳がん、さらには認知症の発生にも関わっています。

これに対して欧米人は、体につく脂肪の大部分が皮下脂肪です。図3に示すように、皮下脂肪は体の浅いところにつく脂肪で、悪い物質を少ししか作りません。欧米には体重が200キロを超える人がいますが、元気に暮らしていられるのは皮下脂肪が中心だからでしょう。

おなかの断面の写真。上がおへそ、下が背中。
おなかの断面の写真。上がおへそ、下が背中。

どんな脂肪がつきやすいかは遺伝で決まります。けれども、実は昔の日本人には内臓脂肪がほとんどついていませんでした。その証拠に、内臓脂肪と関係が深い糖尿病や乳がん、大腸がんなどの発症率が低かったのです。

それが変化したのが1960~80年代のことです。食の欧米化が進み、脂肪の摂取量が増え、米を以前ほど食べなくなって、食物繊維の摂取量が減るにつれて日本人の内臓脂肪が増えました。そこにデスクワークや自動車の普及で運動不足が重なったことで、近年、日本人の健康に黄色信号がともっています。

最近になって、人種による体質の違いに関する研究が進み、2016年には日本人の標準的な遺伝子配列が解明されました。膨大な研究から明らかになったのは、脂肪を含む肉や乳製品を少ししかとらず、魚と大豆を多く食べ、穀物と野菜、海藻から食物繊維をしっかり摂取する日本の伝統的な食生活は、内臓脂肪を増やしにくいということでした。

和食は日本人の体質の強みを伸ばし、弱みから守ってくれます。昔の人は自分たちの健康に役立つ食べ物とか食べ方を見つけると、理屈は分からなくても、これを守り、大切に受け継いできたのでしょう。

主食は精米していない玄米がお薦めです。玄米は食物繊維が白米の7倍も多く、内臓脂肪の燃焼を助ける成分も豊富に含まれています。大豆と小魚、そして日本で昔から食べられている緑黄色野菜は骨を強くしますし、豆腐などの大豆製品を多く摂取する女性は乳がんの危険が3分の1になることも示されています。

現代の私たちは、日本にいながら世界各国の料理を楽しむことができます。しかし、日本人の健康の礎は日本の伝統食、和食にあることを心に留めて、これからも健やかでありたいものです。

バナー写真= © Pixta

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