犬山紙子対談「この女性(ひと)に会いたい」

信田さよ子(公認心理師): 「あと何人死ねばDVへの対応が変わるのか」: 犬山紙子対談 第5回

社会 家族・家庭

コラムニストの犬山紙子さんが各界で活躍する女性と、さまざまな問題について語り合う本連載。今回ご登場いただいたのは、公認心理師・臨床心理士の信田さよ子さん。長年DVや親子問題に取り組み、数々のメディアに登場。2021年5月、親子問題を取り上げた「クローズアップ現代」の「親を捨ててもいいですか? 虐待・束縛をこえて」にゲスト出演すると、Twitterでトレンド入りするなど、大きな反響を呼んだ。今回は児童虐待に取り組む犬山さんとDVについて語り合った。

信田 さよ子 NOBUTA Sayoko

公認心理師・臨床心理士。原宿カウンセリングセンター顧問、NPO法人RRP研究会代表理事。DV加害者プログラムやAC(アダルトチルドレン)・DⅤ被害者グループカウンセリングを行うなど、多方面で活動。著書に、『加害者は変われるか? DVと虐待をみつめながら』(ちくま文庫)ほか。最新著「家族と国家は共謀する、サバイバルからレジスタンスへ」(角川新書)。

遅々として進まないDVに関する法整備

犬山 2021年5月に信田さんが行われたオンライン講義(公開講座「ドメスティック・バイオレンス(DV)の被害者について」)を聴講して、ぜひお話を伺いたいと思っていました。

信田 ありがとうございます。

犬山 私は児童虐待防止のボランティア活動をしているのですが、先生は虐待とDVは密接な関係があるとおっしゃっています。ただ、縦割り行政で連携がなされていない分野だと。

信田 そうですね。まず現在日本の法律ではDVは親告罪です。性暴力と一緒で、黙っていたら罪にならない。警察がDVだと思ったら逮捕できる法律体系にしてほしいと、私たち被害者支援団体は20年以上訴え続けています。法整備ができれば、裁判所命令で加害者プログラムを受けさせることができるからです。でも日本では今後も変わる見通しはありません。

犬山 世界とはほど遠いですね……。

信田 100分の1mmぐらいは進みましたけどね。DVは内閣府の管轄ですが、2019年のある報告書に「被害者支援には加害者プログラムが欠かせないかもしれない」という文言が入りました。

犬山 「かもしれない」なんですね。一方で児童虐待の管轄は厚生労働省です。2つの省庁で連携は取れているのでしょうか。

信田 野田小4女児虐待事件と目黒女児虐待事件は覚えていらっしゃいますよね。私も委員として参加をしたのですが、2つの事件を受け、2020年、1年かけてDVと虐待の対応者連携協議会が発足し、手引書ができました。児童相談所で保護した児童のお母さんがDVを受けていた時などにどうしたらいいかが書かれています。ただ、これも強制ではありません。

信田さよ子さん 撮影:上平庸文
信田さよ子さん 撮影:上平庸文

犬山 なるほど。でも先生方が長いこと活動されてきたことが、世間にちょっとずつ浸透してきたということですね。

信田 そう願いたいです。あと何人死ねば変わるのだろうかと思いますから。まるで人柱みたいですよ。

バッシングすべきは母親ではない

犬山 少女が死なないと動かない。そして、このような事件があると、DVについて誤解が多くあると、報道に対して思うことも多いです。「母親は何故逃げなかったのか」「簡単に逃げられるはずだろう」と。誤解されたままだと、DV被害者が結局責められてしまい、その先の子どもを守ることも本当に難しいと感じます。
話は変わりますが、私は先生がセミナーでおっしゃっていた「高機能パワハラ」「高機能セクハラ」という言葉にすごく納得しました。

信田 私の造語ですけどね(笑)。「高機能DV」もあります。例えば、巧妙に妻を孤立させ、イライラするように仕向けて、子供に対して大声を上げさせるように追い詰める。それを録音しておいて「虐待だ」と言って、離婚時に親権を奪うのです。大量の録音テープが全て文字に起こされていたりして、用意周到です。

犬山 被害者の声を封じるように根回しされるのですね。ところで身近にモラルハラスメントやDVを受けている方がいたら、どうやってアプローチしたらいいのでしょう。私たちに何ができるのか、悩んでいる人がとても多いのです。

信田 私たちは主訴別一覧というものを作っています。例えば暴力問題では、加害者、被害者の他に「心配者」というカテゴリーがあります。当事者ではないけれど、周囲で「何ができるか」と心配している人。とても大事な存在で、この方たちにはDVやモラルハラスメントに対する知識を深めてほしい。「別れなよ」と言いたくなる気持ちは理解できますが、自分がDVを受けていると認識しないと、次につながりません。まずは「経済的なことでもDVと言うらしいよ」と情報を与えてあげる。

犬山 確かに被害者なのに否認する人もいますよね。

信田 「DV=別れなきゃいけない」が常識になっているからです。専業主婦で子供がいたら、別れられないと思うのは当然です。だから「夫は発達障害だから仕方ない」と理由をつけて諦めてしまう。

犬山 なるほど。そうやってDVを受け続けてしまうのも怖いですし、発達障害の方はDVをする、という間違った決めつけにもなってしまいますし、どんな理由であれ、自分がDVから守られる必要がありますね。

犬山紙子さん 撮影:上平庸文
犬山紙子さん 撮影:上平庸文

信田 おっしゃる通り。だからDVを受けたからといって、別れなくてもいいと知ってほしい。夫が加害者プログラムなどを受けて変われば、別れる必要はありません。心配者の方にはこういう情報を与えてもらい、信頼のできる第三者機関につないでいただくのが良いでしょう。

犬山 とはいえ、自ら「俺はDV加害者だ」と来る人はいませんよね。

信田 もちろん(笑)。嫌々来ているし、むしろ被害者意識が強い。「本当は妻の方が加害者なんだ。でも自分が来ないと妻も戻ってこないし、子供にも会えないから仕方なく来ている」という人が9割。

過剰に論理的であろうとする被害者の意識

犬山 加害者であると認識していない。虐待もしつけだと思い込んでいる人が多いですね。

信田 だから頭ごなしに「加害者でしょ」と言うと決裂します。例えば「俺がこんなに稼いでいるのに」と言う人もいます。そういう時は「え? 年収2億ぐらいですか?」と聞くの。そうすると「いやいや」みたいな。「じゃあ、よくそんなこと言えますね」……とは言わないけど、目で言います(笑)。

犬山 (笑)。私の知人にも専業主婦の方がいて、自分は熱を出していて、子供も泣いているのに、それでも全く夫が家事をやらない。

信田 それ令和の話?

犬山 はい(笑)。それでも「私がお金を稼いでいないから、家事や育児をしなきゃいけない」と思っている。

信田 それは違いますね。

犬山 私も「違うのよ」と言うのですが、なかなか伝わらなくて。自分の中でそうやって折り合いをつけているんだろうなと。

信田 そうですね。経済力は関係ないし、そもそも彼女たちにも学歴も知識もありますから。

犬山 DV被害者の女性の特徴として、実は明るく雄弁で、論理立てて話す人が多いと聞いて驚きました。

信田 彼女たちは、夫からいつも言われているんですよ。「何でそうなんだ、説明しろ」と。だから過剰に論理的です。「大丈夫、分かりますから」とお伝えしても、「私の言い方が下手なんです。私の説明じゃ分からないんです」と言う。夫に言われ続けてそう思い込んでいる。それに、最近は経済力のある女性でも、モラハラを受けている人もいます。このようなケースでは、なぜか女性が罪悪感を持っていて、家庭裁判所も経済力のある女性には厳しい。

犬山 そうなんですか!?

家庭裁判所の家族観は旧態依然のまま

信田 家庭裁判所の家族観は昭和のままです。経済力がある女性には、よほど夫が支えているのだろう、育児は粗雑だろうという先入観がある。日本は家庭裁判所の保守性みたいなもので夫の立場が(過度に)守られていると感じます。夫婦別姓についての政治家の答弁を聞いていても分かります。「夫婦は一体だろ」なんて。

犬山 理解度が低いですよね。そうなるとやっぱり「加害者プログラムに行かないと帰りません」と宣言して別居するのが良さそうですね。

信田 そうですね。だいたい「離婚だ!」と言う夫に限って別れたくないので、本当に困ったら彼らは動きます。だから私はカプセルホテルに1泊できるぐらいのお金と、置き手紙を常に用意しておくことをおすすめしています。『加害者は変われるか? DVと虐待をみつめながら』(ちくま文庫)という著書にフォーマット(書式)を書きました。「あなたの行為をDVだと思います。これ以上今はそばにいるとつらいので、しばらく家を出ます。もし私と次に会いたいと思うならば、ここに電話してDVの加害者プログラムを受けてください。受けたことが分かったら、私はあなたと家の外で会えるかもしれません」と。何人もの人がこれを実行していて、成功率は8割です。

犬山 すごい!

信田 家の中で会うのはダメ。戻ると言うのもダメ。会えるかもしれませんと語尾を濁すとか、いくつかのテクニックが潜んでいます。それでもDVシェルターに入った半分以上の人が夫の元に戻ります。「反省しています」と丸坊主の写真を夫が送ってきて「そんなに反省したなら……」って。

犬山 してない、してない!

信田 でも戻ってしまう。それで1年後ぐらいに同じことになる。でも二度とシェルターには入れません。

犬山 理不尽ですね。

妻が我慢した余波は子供にいく

信田 もうひとつ覚えておいていただきたいのは、妻が我慢した影響は子供にいくということ。子供の前でDVが行われることを「面前DV」と言うのですが、この5年ぐらいで子供にとても影響を与えることが分かってきました。加害者プログラムでも、多い時で9割、少ない時でも6〜7割の参加者が、父から母へのDVを見て育っています。彼らは「父親と同じことをしている」とどこかで気付いている。だけど「親父とは仲がいいし、あれは母親が父を挑発していたんだ。俺は変じゃない」と落としどころを作る。

犬山 父親を肯定することで自分を肯定するんですね。

信田 「子供の頃はひどいと思っていたけれど、男として今は分かる」とね。私は「手を結ぶ」というのですが、ホモソーシャル(男性間の結びつき)的な手打ちをする。親の虐待はとてもシンプルで、絶対にやり返さない相手にしか行われないから、男の子の場合は身長が父親を超えると虐待が止みます。一方で娘はいつまでもやられる。

親を捨てるということ

犬山 そう言えば、2021年5月にNHK「クローズアップ現代」の「親を捨ててもいいですか?」に出演され、とても反響があったそうですね。

信田 Twitterの反応がすごかったですね。

犬山 虐待をされてきたのに「娘は私しかいないから、結局介護しなきゃいけない」と。

信田 意外だったのは親世代からの相談があったこと。「何年も(子から)連絡がないのですが、私もあんなふうに捨てられるのでしょうか」と。

犬山 自分が介護してもらうためという動機がちょっと悲しいですね。

信田 介護に法的義務はありません。親子の縁を切るというのは、結局お金の問題なのですね。弁護士さんのお話しをうかがった際、「親子の縁を切りたいのであれば、相続権の放棄ですね。それだけで済みますよ」と言われて。「親子の縁は結局お金なんだ」と目からうろこが落ちました。意外と日本はドライですよ。ただ踏み出す勇気は必要ですよね。

犬山 そうですね。今日は困っている人にどうやってアプローチをしたらいいのかを知ることもできてよかったです。心配者としてできることをやっていこうと思います。ありがとうございました。

対談まとめ:林田順子
写真:上平庸文

DV 加害者プログラム 児童虐待事件 モラハラ