Netflix『ザ・クラウン』を観る幸せ

王室への忖度のない虚実ないまぜの巧みなストーリー

94歳のいまもなお、英国女王であり続けるエリザベス2世を描くNetflixオリジナルドラマ『ザ・クラウン』。現在、シーズン1～3（30話）が配信されており、シーズン6まで製作されることが決まっている。王室への忖度（そんたく）なし、事実とフィクションを織り交ぜた展開は巧みで、数々の賞を取った傑作だ。製作総指揮は映画『クィーン』で知られる脚本のピーター・モーガンと、映画『リトル・ダンサー』などの監督、スティーヴン・ダルドリー。

王室や政界の面々を演じる俳優たちの「なりきりぶり」が話題だが、セットや小道具、衣装の素晴らしさもずば抜けている。本物のバッキンガム宮殿？と思わせる豪華なセット、ため息が出るような美しいドレス、多くのエキストラを使ったロケなど、莫大（ばくだい）な製作費（一説にはシーズン1、2だけでも100億円以上）がかかっているというのもうなずける。

Netflix『ザ・クラウン』シーズン1

ドラマは1947年、エリザベスとフィリップの結婚から始まる。1952年、父・ジョージ6世の死により25歳で即位。エリザベスは問題を抱える家族と向き合いながら、着実に女王としての責務を果たしていく。1977年、即位25周年の式典に臨むシーンでシーズン3は締めくくられた。

『ザ・クラウン』には、およそドラマに期待されるすべてのものがある、と言えるだろう。主人公自身の葛藤と成長はもちろん、兄弟姉妹・親子・夫婦の間の愛や憎しみ、嫉妬が渦巻く人間模様、老いと死、王室の華麗な生活とスキャンダル、激動する世界情勢、政治家の権力闘争、社会の変化が描かれる。これでもかとドラマの要素を詰め込みながら、主人公エリザベスを揺るぎなく形作っていく力業（ちからわざ）だ。

エリザベス女王を描くことは英国の戦後史を描くのと同義

エリザベスを演じるのはクレア・フォイ（シーズン1、2）とオリヴィア・コールマン（シーズン3、4）。若き女王の気品と、どっしり構える君主の貫禄が、それぞれ見事だ。そして、もうひとりの主役ともいえるのが、夫・フィリップ（マット・スミス、シーズン3からトビアス・メンジーズ）だ。ギリシャで王子として生まれるが、治める国はなく、家族の愛に恵まれず、〝根無し草〟のようなフィリップが英国の軍人となり、やがてエリザベスと結婚。だが、「女王の夫」という役割を受け入れていくのは簡単ではない。その道のりが彼の人生とともにじっくりと描かれ、見ごたえがある。

さらに、妹・マーガレット（ヴァネッサ・カービー、同ヘレナ・ボナム＝カーター）とエリザベスの関係は、胸が締め付けられそうになるほど切ない。また、女王と首相たちの〝対決〟も見逃せない。中でもチャーチル（ジョン・リスゴー）とウィルソン（ジェイソン・ワトキンス）は魅力的で、大いに楽しんだ。

Netflix『ザ・クラウン』シーズン2

ドラマの中から印象的なシーンをいくつか挙げてみる。

シーズン1からは老いに直面するチャーチル。肖像画を描く画家との対話が心に染みる。シーズン2では、米ケネディ大統領の妻・ジャッキーに〝ライバル心〟をみせるエリザベスが愛らしい。感情を表に出さない女王の、心の奥を垣間見るような場面だ。シーズン3からは、炭鉱の街アバーファンで起きた大惨事のエピソード。この事故と真摯（しんし）に向き合う作り手の姿勢が画面からもうかがえる。 

Netflix『ザ・クラウン』シーズン2

エリザベス女王を描くことは、英国の戦後史を描くことにほかならない。政治や軍事、社会の出来事と女王は無縁ではいられないからだ。ドラマを楽しみながら、視聴者は何があったのかを知り、見る目を養っていくのだろう。翻って日本には、同時代の皇室を知るよすががない。映画やドラマの一場面として天皇が登場することはあっても、その一代記が描かれることはなかった。政治向きの話もあまり好まれない。『ザ・クラウン』のようなドラマを共有できる幸せについて、考えさせられた。

11月15日からはシーズン4の配信がスタートする。いよいよダイアナ（エマ・コリン）が登場だ。首相はサッチャー（ジリアン・アンダーソン）。時代は大きく変わろうとしている。

バナー写真：『ザ・クラウン』シーズン2
Netflixオリジナルシリーズ『ザ・クラウン』シーズン1～3独占配信中
11月15日(日)よりシーズン4独占配信開始