台湾ブランドの浸透力

台湾ブランドの浸透力:タピオカと牛肉麺、台湾グルメが日本でヒットする秘密は?

文化 国際

近年日本では、台湾グルメが続々日本に上陸している。なかには常に大行列をなすドリンクや、台湾人のソウルフードとも称されるグルメも。残念ながらすべてがブレイクとはいかない厳しい外食産業で、成功するための秘密に迫る。

過去の小さなブームが、大流行の下地に

パイナップルケーキやふわふわかき氷、魯肉飯、牛肉麵など、台湾グルメの日本進出が相次いでいる。なかでもタピオカミルクティーの大躍進は記憶に新しい。

鼻孔をくすぐるエキゾチックで甘やかな紅茶の香りとコクのあるミルク、もっちりと食べ応えのあるタピオカ。三位一体となったドリンクが2018年あたりから大ブレークして、あちこちに専門店が出店、大行列ができた。なぜここまでタピオカミルクティーがはやったのだろう。実はタピオカは、過去に2度小さなブームがあった。

人気店鹿角巷 THE ALLEYでいちばん人気の、ロイヤルNo.9タピオカミルクティー。香り高いアッサム紅茶とコクのあるミルク、噛んだ瞬間風味が広がるタピオカが絶妙。タピオカは作って3時間以内のものを使用している。
人気店鹿角巷 THE ALLEYでいちばん人気の、ロイヤルNo.9タピオカミルクティー。香り高いアッサム紅茶とコクのあるミルク、かんだ瞬間風味が広がるタピオカが絶妙。タピオカは作って3時間以内のものを使用している。

まずは1990年代。エスニック料理ブームに乗って、小粒のタビオカにココナツミルクをかけたスイーツが、アジア料理の店などで食後に供された。2000年代初頭には、大粒のタピオカミルクティーが登場し、メディアにも取り上げられた。ただ、この時は、一部の新しもの好きが飛びついたものの、大ブレークには至らなかった。

そこから20年近くを経て、大行列を生み出すまでになったのは、1次、2次の小さなブームが下地となり、丸くてぷるぷるもちもちしたタピオカが、日本人にも受け入れやすくなっていたからだろう。

SNS、中でも、インスタグラム(インスタ)の登場も見逃せない。「映える(ばえる)」写真を投稿して、チェックした人の共感を得ることで、承認欲求を満たすめたに、黒い大きなつぶつぶの入ったドリンクは格好の素材となったのだ。しかも、LCC(格安航空機)で、国内旅行するよりも安く気軽に台湾に旅行できるようになったことも大きい。週末に台湾で本場のタピオカミルクティーを飲む写真をインスタに投稿するのが「おしゃれ」になった。

2017年8月表参道店オープンを皮切りに、日本全国に27店舗を展開する鹿角巷 THE ALLEY。アイス、マイルドホット、ホットから温度帯から選べる
2017年8月表参道店オープンを皮切りに、日本全国に27店舗を展開する鹿角巷 THE ALLEY。アイス、マイルドホット、ホットから温度帯から選べる

伝統的なお茶の概念が変わった

さらに、2015年にポッカサッポロフード&ビバレッジ(ポッカ)が15年秋に発売したペットボトルの「加賀棒ほうじ茶」が大ヒット。ペットボトルのほうじ茶飲料自体は1990年代から存在していたが、素材や香にこだわった「加賀棒ほうじ茶」の人気が他のメーカーにも波及し、スターバックスやコンビニのカフェで「ほうじ茶ラテ」といった商品も誕生した。“お茶といえば日本茶”の図式がよい意味で崩壊したのだ。

日本には、コーヒーを気軽に楽しめる専門店やカフェはいくらでもあるが、お茶を楽しむカフェはほとんどなかった。台湾から上陸したタピオカミルクティーの店は、もともと中国茶専門店だったところが多い。紅茶だけでなく、鉄観音やジャスミン茶など、ベースのお茶を選択できる点も、日本人のお茶のイメージを変えたのだ。紅茶以外のお茶にも、ミルクやシロップ、タピオカ等を入れていいのだ、と。

価格はどうだろう。タピオカミルクティーを単なるティードリンクと位置付ければ、高価に感じるだろう。だが、たっぷりのタピオカの存在が、満腹度を上げ、ドリンクでありながらデザートのようなお得感をも与えてくれる。

馴染みの薄い台湾ソウルフード

タビオカミルクティーの大ヒットにはこのようにさまざまな理由があったのだが、最大の要因は、「女子が好む」アイテムだった点だ。

2014年11月、赤坂にオープンした三商巧福。牛肉麵は、醤油ベースの紅焼、出汁ベースの清燉、どちらも味わえる。台湾ビールなどのアルコールのほか、台湾風オムレツや夜市で見かけるイカボールなど、つまみも充実している。
2014年11月、赤坂にオープンした三商巧福。牛肉麵は、しょう油ベースの紅焼、出汁ベースの清燉、どちらも味わえる。台湾ビール、台湾風オムレツや夜市で見かけるイカボールなど、つまみも充実

その前に、台湾発のほかのグルメを見てみよう。

台湾のソウルフードの一つである牛肉麵は、柔らかく煮込んだ牛肉をトッピングした麺料理で、しょう油べ―スの「紅焼」と、出汁ベースの「清燉」という2種類の味がある。台湾では専門店が多く、半屋台のような食堂もあれば、エアコン完備のおしゃれな店もある、老若男女が大好きな麺料理だ。

台湾で約150店舗の牛肉麵専門店のチェーン展開する三商巧福が、2014年日本第1号を赤坂にオープンした。2014年の前後数年は、タピオカミルクティー発祥の春水堂やマンゴーてんこ盛りのかき氷が話題のアイスモンスターなど、台湾の超有名店が日本で次々と出店した頃で、三商巧福の牛肉麵もさぞやブレークするだろうと思いきや、オープンから7年たった今も、店舗は赤坂店のみだ。

この違いは何だろう?

台湾を訪れたことがある人は、好き嫌いはともかくとして、牛肉麺と聞けば、味の想像がつくだろう。だが、台湾のみならず、アジア圏を旅行したことがない人には未知の料理だ。タピオカと違って、過去ブームになったことがなく、料理名に馴染みがないのでイメージがわきづらい。

さらに、赤いスープの紅焼牛肉麵は、煮込んだ肉やスープにたっぷり八角を使っている。八角は、中国料理に欠かせないスパイスで、胃腸の働きを整える漢方である。「台湾を香りでたとえるならば八角」と言っても過言ではないほど、台湾の街ではあちこちの飲食店から八角の香りが漂ってくる。この独特な香りが、苦手な日本人が多いのだ。さらに、トッピングに使われるパクチー(香菜)を嫌がる人が多いことも、浸透を阻む理由になっているだろう。

味だけではない。日本人は、専門店よりも何でも食べられる店が好きだ。もちろん、そば、うなぎ、天ぷらの専門店はあるが、いずれも日本の食文化に深く根付いたものばかりだ。新参者で専門店となると、なかなか広まらない。

そして、タピオカミルクティー同様、いちばんの理由。それが対象の性別だ。

台北市信義区「穆記」の牛肉麺。近隣の病院のスタッフにも愛される老舗(撮影:鄭 仲嵐)
台北市信義区「穆記」の牛肉麺。近隣の病院のスタッフにも愛される老舗(撮影:鄭 仲嵐)

冒険しない男子とブームを作るチャレンジ女子

日本人なら、タピオカミルクティーは女性、牛肉麵は男性に支持されると考えるだろう。

筆者はこれまで、2000軒を超える台湾の飲食店を取材してきた。最初の頃は、「この店を利用する層は?」と質問すると、ほとんどの店のオーナーはきょとんとした顔をして、「全員」と答えていた。日本では、店によって「20代の女性が多い」「40代のカップル中心」といった答えが返ってくる。台湾では、この料理は男性向け、若者向け、という住みわけがないのだ。ぼろぼろの食堂で上品なワンピースを着て食事する女性もいれば、パステルカラー全開のかわいいカフェでお腹の出たおっちゃんがジュースを飲んでいたりする。

牛肉から出る出汁と塩ベーススープの薬膳塩牛肉麵。舌にじんわり広がる旨味は、もう一口とクセになる味わい。トッピングは醤油ベースと同じく牛肉、チンゲン菜、煮卵、ネギ。
牛肉から出る出汁と塩ベーススープの薬膳塩牛肉麵。舌にじんわり広がるうま味は、もう一口とクセになる味わい。トッピングは醤油ベースと同じく牛肉、チンゲン菜、煮卵、ネギ。

では、なぜ女性向けと思われているタピオカミルクティーがウケて、男性が対象と思われている牛肉麵がブレークしなかったのか。それが日本の食に対する男女の大きな差、未知の味へのチャレンジ精神だ。

日本の男性は、特に食に対して保守的な人が多い。食べたことのないもの、味を想像しづらいものには手を出さない。片や女性は、アグレッシブに挑戦する。知り合いの居酒屋のオーナーが言うには、「新たに開発したメニューを薦めて、オーダーしてくれるのはほぼ女性」だそうだ。

牛肉麵を女性向けにアピールすればよいのかもしれないが、大ぶりにカットした牛肉がゴロゴロ入っているため、健康、美容に敏感な女性が飛びつくメニューとは考えづらい。

日本では魯肉飯もなかなかヒットしない。その理由は牛肉麵同様だ。台湾の味ならなんでもヒットするわけではない。牛肉麵や魯肉飯も、日本人に馴染むまで小さなブームを作る、専門店ではなくメニュー数の多い台湾料理店で展開する、女性向けに野菜を多くトッピングするなどヘルシーなメニュー開発をする……。こうした努力を積み重ねることで、タピオカミルクティーのように30年後、大ブームになっているかもしれない。

台北の伝統市場にある滷肉飯(ルーローハン、撮影:鄭 仲嵐)
台北の伝統市場にある滷肉飯(ルーローハン、撮影:鄭 仲嵐)

バナー写真:「三商巧福」の牛肉麺と「鹿角巷」のタピオカミルクティー

東京 食文化 グルメ 台湾