子ども3人引き連れて 軽井沢移住つれづれ日記

美しい紅葉を見て思う、東京の「普通」は「特別」

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引っ越して半年、軽井沢は美しい秋を迎えている。今日か明日かと初雪を楽しみにする子どもたちを見ながら改めて思う、軽井沢と東京の暮らしの違いとは――。

あ、山が赤く染まっている。

そう思ったのは、身が縮こまるほど冷え込んだ11月初旬の朝、子どもを学校に送った帰り道のこと。車の運転席から毎日眺めている山が、前日に比べて赤みを帯びたように見えた。

山から始まった彩りが軽井沢の町に降りてくると、どこにいても、はっと目を奪われる景色に出会う。もみじは紅に近く深く濃く、ドウダンツツジは穏やかに赤く色づいている。東京に比べるとイチョウはそれほど多くないが、青空に映える黄色は美しい。

真っ青に広がる秋の空は、いつ眺めても気持ちがいい
真っ青に広がる秋の空は、いつ眺めても気持ちがいい

常緑樹のマツやシイの緑に赤や黄色が重なり、子どもたちの口からも「わあ、きれい」という言葉が自然と飛び出す。そんなとき、引っ越してきてよかったとしみじみ感じる。

この見事な紅葉をフィナーレに、軽井沢の短い秋が終わり、冬が始まる。

「あれ、東京で暮らさなくてもいいかも?」

長野県・軽井沢町に家族5人での移住を決めたのは、昨年(2021年)の夏。

コロナ禍で夫婦ともにテレワークが中心になったこと、長男が次の春に小学生になること、子どもが3人になり、東京の家が手狭になってきたこと。週末が近づくたび、どう乗り切ろうか考えてしまうこと。

そんな悩みが重なり、ふと、「あれ、もしかして東京で暮らす必然性ってないのかも?」と感じたのがきっかけだった。

ではどこへ?
交通の便、東京への距離(テレワークといっても、上京の機会は少なくない)、子育て環境、買い物や病院事情。

あれやこれやと考えて、ちょうどよかったのが軽井沢だった。

21年、東京の人口は1975年以降ではじめて減少。コロナ禍に伴うテレワークの普及もあり、地方への移住が増えていると報道されている。千葉や神奈川といった首都圏とならび、軽井沢町や御代田町、佐久市など長野県の東部エリアは移住先として人気が高い。

20年から21年にかけて、軽井沢町の人口は595人増加している。これは日本の町村のなかでトップであり、我が家も住宅探しにはものすごく苦労した。お世話になった不動産の担当者によると、家族向けの賃貸物件はそもそも数も少なく、サイトに出た瞬間に問い合わせが殺到、内覧なしで申し込みが入ることも多いそうだ。

子どもの数も増えていて、町内に4つある保育園はどこも定員いっぱい。うちの2人は年度の変わり目で運よく入園できたが、“ママ友”によると、年度内に移住してくると希望通りの園に入ることはほぼ不可能で、待機児童となることも珍しくないらしい。

ただ広い芝生があるだけで、子どもには最高の遊び場に
ただ広い芝生があるだけで、子どもには最高の遊び場に

軽井沢へ移住したと話すとキラキラしたイメージを持たれることが多いのだが、現実はいたって普通。いや、むしろ地味だ。未就学児を含む子どもが3人もいると、マスコミで話題になるようなおしゃれなレストランに外食にいくこともないし、5つ星ホテルに泊まることもない。

子どもを学校へ送って1日働き、迎えに行って、ご飯とお風呂。なんとか子供を寝かしつけてほっと一息つく。窓の外に目をやれば緑豊かな景色が広がっているのに、これじゃ東京の生活と何も変わっていないな、と苦笑する日も多い。

「東京が普通」からの脱却

引っ越してきてしばらくは、とにかく慣れないことばかりだった。

地元の友だちや先生たちと離れた子どもたちは驚くほど不安定になり、小学生になった長男はしょっちゅう「東京に帰りたい」と口にしていたし、年少になった長女は「保育園でおともだちできた?」と尋ねるたびに「誰もいない!」とかたくなに首を振り続けた。

「子どもはすぐに慣れるよ」という励ましの言葉は嘘だったかと胃が痛くなる日が続いていたが、半年という時間はすごい。

いまでは息子は靴からランドセルまで泥だらけにして帰ってくるし、娘はあの頑固さをすっかり忘れて友だちと楽しそうに遊んでいる様子だ。0歳児の次男は、優しい先生たちに愛されて健やかに育っている。

家の前の道で栗を拾い、公園に行けばポケットをどんぐりでいっぱいにして帰ってくる。この前は、生まれて初めて霜を踏んだと嬉しそうにしていた。

ドングリ拾いに夢中になる娘。同じドングリでもたくさんの種類があるらしい
ドングリ拾いに夢中になる娘。同じドングリでもたくさんの種類があるらしい

振り返ってみると、この半年は「東京が普通」から「東京は特別」へと自分の感覚が変わる期間だった。

歩いてすぐ行ける24時間営業のコンビニ。時刻表を見なくてもすぐ来る電車。早朝から夜まで預かってくれる保育園。困ったらふらりと寄れるお総菜屋さんやファストフード。悩みを解決する多種多様なサービス。

引っ越して、これまで当たり前だった存在がなくなり、最初は不便さにイライラしていた。

流れる時間のスピードも、当たり前と思うものも違うなかで、これまでのように働き続けられるのか。不安と恐れは、気が付くと「何が普通なのか」という問いへと変わっていた。

そうか、東京はとても便利で大好きだけど、「日本の普通」ではないんだな。そのなかで自分がどんな生活を望み、何を選択するのか、もう一度考える機会がこの移住だったんだ。

そう腑に落ちると、いろんな焦りや不満が少なくなっていったように思う。

「本当に寒いから気を付けて」の恐ろしさ

「浅間山が3回雪をかぶると、町にも雪が降るよ」

軽井沢に住んでから、何回かそう教えてもらった。すでに2回冠雪しているので、Xデーは近い。スタッドレスタイヤにも交換済みだし、子どもたちのスキーウェアも買った。床暖房のための灯油も補充した。

準備万端と言いたいところだけど、自分の気持ちが準備できていない。

なにしろ、会う人会う人に「冬の寒さにおびえています」と告白するたび、「うん、本当に寒いから気を付けて」と言われるのだ。「初めての冬ですよね?」と眉をひそめて心配されることすらあった。

子どもたちも歓声を上げて喜ぶ軽井沢の夕焼け
子どもたちも歓声を上げて喜ぶ軽井沢の夕焼け

最高気温が零度前後という寒さのなかでの生活は、人生で初めて。雪道の運転もほとんど経験がない。もうしばらく、美しい秋が続いていてほしいと願ってしまう。

今年の2月、ドカ雪が降った東京で嬉々として雪だるまを作っていた子どもたち。彼らにとって、めったに出会えない雪は特別で楽しみなものだった。

それが日常に変わったとき、どんな風に雪と触れ合うのだろう。

「明日は雪かな」と、到底まだ降りそうにない天気予報には見向きもせずに期待する兄妹の会話を聞きながら、移住1年目の冬の始まりをおびえつつ待っている。

バナー写真:「東京の紅葉と違う!」と感じた(写真は全て筆者撮影)

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