旧統一教会とニッポン

スクープよりもメディアみんなで取材したかった : 孤軍奮闘で旧統一教会と自民党の蜜月を暴いたジャーナリスト・鈴木エイト氏

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日本の憲政史上、最も長く首相を務めた安倍晋三元首相が2022年7月8日、選挙演説中に銃撃されてから1年が過ぎた。事件を機に、自民党を中心とする政治家と旧統一教会の関係がクローズアップされるようになった。その端緒となったのが、ジャーナリストの鈴木エイト氏がコツコツと積み重ねてきた調査報道だった。長年、孤軍奮闘だった鈴木氏は、大手メディアが教団の問題を取り上げなかったことについて、どう見ていたのだろうか。

教団に対する解散命令の行方は⁉

旧統一教会(世界平和統一家庭連合)の「解散命令」をめぐる動きは現在、表面上は静かだが、鈴木氏は水面下でずっと動きがあり、この夏からいよいよ本格化する可能性が高いと見ている。

「文部科学省はちゃんと動いているので、あとは岸田文雄首相の決断だけにかかってきますね」

文科省はこれまでに宗教法人法の質問権を計7回行使し、教団側から資料を提出させてきた。だが、裁判所に解散命令請求を提出するには至っていない。

鈴木エイト氏(本人提供)
鈴木エイト氏(本人提供)

「文科省の質問権の行使に対し、教団側が、自分たちが不利になるような資料を出してくるわけがないので、文科省側が独自に入手した資料と照らし合わせ、念には念を入れているために時間もかかっているのでしょう。私は、岸田首相は決断すると思っています。今秋までには、解散命令請求をし、政府は一歩踏み出すと見ています」

もし、解散命令が出れば、教団は宗教法人格を奪われ、税制上の優遇措置も受けられなくなる。

振り返れば、安倍氏が銃撃された翌週、メディア関係者の間で、ある文書の存在が話題になった。そこには、旧統一教会の関連団体が主催するイベントに出席、あるいは祝電を送っていた国会議員の名前がリストになってまとめられていた。名前が書かれていた政治家は100人以上。一部に野党議員もいたが、その多くは自民党に所属する国会議員だった。

リストの作成者名には「鈴木エイト」と書かれていた。他のメディアの記者たちは、このリストをもとに各議員への取材を開始した。すると、議員たちは判で押したように「(旧統一教会の関連団体とは)知らなかった」「記憶にない」などの苦しい弁明を繰り返した。これが国民の反発を招くことになる。同時期には、安倍氏を銃撃した山上徹也被告(42)の母親が旧統一教会に1億円以上の献金をしていて、家族が崩壊していたことが報道されていた。教団の広告塔となっていた自民党の国会議員に対して厳しい目が向けられるようになった。

コツコツ取材してきたリストを記者たちに公開

一方、鈴木氏が主筆を務めるニュースサイト「やや日刊カルト新聞」には、このリストそのものは公開されていない。その理由を、鈴木氏はこう説明する。

「自分たちが運営するサイトに掲載するよりも、大手メディアの記者たちにリストを渡したほうが動きやすいだろうなと思ったんです。旧統一教会の問題を私一人で抱え込み、スクープを連発しようなんて野心はありませんでした。それは今も同じです。情報はどんどんオープンにして、みなさんで一緒に取材しましょうよ、というスタンスでした」

その影響は鈴木氏の予想を上回るものだった。朝日新聞の調査によると、事件直後に57%あった岸田政権の内閣支持率が、わずか1カ月で10ポイントも急落し、その後も下がり続けた。批判にさらされた自民党は、所属する政治家と旧統一教会の関係について点検を開始。2022年9月8日、旧統一教会と何らかの関わりがあった所属国会議員は半数近くに当たる180人だったと公表した。ちなみに、点検はアンケート形式で実施されたため、結果はあくまで自己申告である。旧統一教会と関係していた自民党の国会議員はさらに多いとみられている。

「私が調べきれていなかった部分を、記者の人たちが次々に解明してくれました。その点でも、リストをみなさんにオープンにしたのは良かったと思います」

今でこそこう言えるが、鈴木氏が地道に重ねてきた取材が実を結ぶまでには、長い時間がかかった。旧統一教会の調査を始めたきっかけは02年にさかのぼる。大学時代はアルバイトとバンド活動に明け暮れ、卒業後はビル管理会社の契約社員として働いていた。その頃、旧統一教会の信者が、教団の名前を隠して、道ゆく人に声をかける「偽装勧誘」の現場を目撃した。

「JR渋谷駅の改札を出たところでした。『手相の勉強をしています』『顔に気になる相が出ています』などと言って、声をかけている勧誘員が多数いました。興味を持ったり、不安に思ったりして応じた人に『今、あなたは人生で最大の転換期です』などと言う。次々にいろいろな言葉をかけて、最後には教団系の施設へ連れていくという手口でした」

熱心な信者は善意ある人が多い

「手相の勉強」のほかにも、「意識調査のアンケート」の場合もあったという。いずれも、興味を持って話を聞いた人を教団が信者に運営させる「ビデオセンター」に連れていくのが狙いだった。ビデオセンターでは、教義に関心を持たせるための映像を視聴させていた。

「そのあとは勧誘を毎日のように続けて、徐々にマインド・コントロールをかけていく。最後は教団主催の合宿に参加させて、新たな信者を育てていました」

これは問題だと感じた鈴木氏は、偽装勧誘を阻止する活動を始めた。基本的に単独の活動で、時には、偽装勧誘を阻止された信者から暴行を受けたり、尾行されたりすることもあったという。その一方、活動中に新たに気づいたこともある。会話を交わした信者は、優しい人が多かったことだ。

「そもそも、手相の勉強に善意で協力する人に悪い人はいないですよね。むしろ、善意のある人のほうが信者になって、勧誘活動も熱心なんです。そのことは、信者の人たちと話をして初めて知ったことでした」

善意のある人ほど新興宗教にはまってしまうという現実。そこに至るまでの知られざるマインド・コントロールの手口。信者引き留めの内部統制の手段として使われる有力政治家の存在。鈴木氏は、これらの事実を広く知ってもらうためにメディアに何度も企画書を出した。ところが、結果は散々だった。

「当時はほとんど相手にされませんでした。編集者は『政治家のネームバリューがない』とか『統一教会は旬じゃない』と言うばかり。ずっとそんな扱いでした」

そんな中、興味を示してくれたのが、「週刊朝日」だった。14年4月11日号に「安倍帝国vs.宗教」というタイトルで掲載され、当時の安倍政権と自民党議員、統一教会について詳述した。

「その後も1年に1回ぐらいは週刊朝日で書かせてもらいました。でも、編集部には記事に対するクレームのほか、『フェイクニュースを書いている鈴木エイトに書かせるのはおかしい』などという意見が寄せられていたそうです」(鈴木氏)

訴訟の連発が報道を萎縮させていた

メディアが新興宗教に関連する社会問題を取り上げなくなったのには、別の理由もあるという。

「旧統一教会に限らず、問題が指摘されるほかの宗教団体でも記事が出るとすぐにクレームが入る。訴訟も多い。次第にメディア側に『面倒くさいニュースは取り上げたくない』という空気が生まれてしまった」(鈴木氏)

一方で、多くの新興宗教は、豊富な資金を背景にメディア対策を強化していた。記者にお中元やお歳暮を贈る。海外で開催されたイベントに日本のメディアを招待する。そんな中で、旧統一教会の問題が報道で取り上げられることはなくなっていったという。

それでも、鈴木氏はジャーナリストの藤倉善郎さんが09年に立ち上げた「やや日刊カルト新聞」で調査報道を続けた。

追及の手を緩めない鈴木氏に対し、怪文書が出回ったこともある。〈ハゲタカジャーナリスト 鈴木エイト〉とタイトルが付けられた文書には、こう書かれていた。

〈本業は大工? 普段の彼はジャーナリストらしからぬ風貌で、作業服を着、古くさい軽トラに乗って朝早く現場に向かう。『取材』の時はスーツに着替えるが〉

〈もう八十歳を過ぎた実母を……働かせている〉

すべて事実無根の作り話だ。

「軽トラに乗って朝早く出かけたのは、不動産の仕事もしていて、賃貸物件をいくつか持っているためです。当時、保有する物件のリフォームをしていたので、木材を積んで早朝出ていったところを見たのでしょう。母親も自分の好きなように働いているだけです。給料の一部を私がもらうこともありませんよ」(鈴木氏)

鈴木氏は、文書を作成した人物が誰かも、その目的も分かっているという。

「そのビラが作られたのは3年ほど前です。安倍氏の事件後に私がテレビに出演するようになったので、一時期、永田町にも出回るようになりました。私が信用できない人物だと触れ回りたかったのでしょう」

国は事件の調査と正式な報告書の作成を

岸田内閣は、22年末に旧統一教会の問題を受けて被害者救済を図るための新法を成立させた。しかし、「新法ができたからといって根本的な解決になったわけではない」と鈴木氏は言う。また、事件が起きた背景について、国が正式な調査を実施すべきだと訴える。

その鈴木氏が、次に追及する政治家は誰なのだろうか。

「自民党には、安倍氏にすべてをおっかぶせて逃げようとしている政治家が複数います。そこはきっちり検証していきたい」

そして、メディアの責任についてこう語った。

「再び、メディアが報じなくなったら、元のサヤに収まるのは明白で、こうした教団を生き永らえさせてきた政治家の問題はまったく報道されなくなってしまう。教団も政治家も報道が沈静化すれば元に戻ると思っている。幕引きさせないのがメディアの責任だと思います」

取材・文:三方九、西岡千史、POWER NEWS編集部
バナー写真:全国霊感商法対策弁護士連絡会で話ジャーナリスト鈴木エイト氏(2022年9月、東京都千代田区)(時事)

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