進化するニッポンのラーメン文化

いま食べるべきラーメンは何系? 屈指の激戦区・東京で生まれた最新の一杯

暮らし

東京は2000以上もの店がしのぎを削る日本屈指のラーメン激戦区にして、日々新たなトレンドが生まれるラーメン文化の最前線だ。職人たちが技を競い合い、「ネオクラシック系」など新しいジャンルが次々と生まれている。東京のラーメンシーンと、食べるべき一杯を紹介する。

進化した「クラシック」

いま東京で「アツい」一杯は、昔ながらのしょうゆラーメンの持ち味を残したまま現代的に進化させた「ネオクラシック系」だ。見た目こそレトロな風合いながら、スープ、麺、具材すべて素材にこだわり、グレードアップした味わいで近年じわじわと人気が高まっている。冒頭の写真で紹介した荻窪『there is ramen』の「チャーシュー麺」(1200円)は「ネオクラシック系」として知られ、ミシュランガイド東京にも掲載された。ミシュランのサイトには「肉の旨(うま)み、煮干しをスープに利かせ、自然な麺を求めた」とある。

ソーシャルメディア全盛の現代では、おいしさだけでなく見た目も美しく写真映えする一杯を意識しなければならない。その代表格が、2010年代からブームとなり、いまだに根強い人気を誇る、透き通った青湯(ちんたん)スープが特徴の「淡麗系」。ビジュアルにこだわり、麺を1本ずつそろえて盛り付けることできれいな「麺線」を描く。豚や鶏の動物系に魚介を組み合わせるなどして作られる青湯スープは、いわば麺を美しく見せるための手段だ。

麺線が美しく整えられた、祐天寺『Ramen Break Beats』の「特上醤油らぁ麺」(2000円) 写真:山川大介
麺線が美しく整えられた、祐天寺『Ramen Break Beats』の「特上醤油らぁ麺」(2000円) 写真:山川大介

目黒区目黒の祐天寺駅近くの『Ramen Break Beats』は、店主自ら東京の名店を食べ歩きながら試作を重ね、独学で開業した「淡麗系」。オープンした後も味の改良に余念はなく、同店を象徴する美しい麺線は、調布市つつじが丘の名店『柴崎亭』から指南を受け、現在のビジュアルにたどり着いたという。うま味の詰まった淡麗系スープは多くの支持を集め、あっという間に行列店に成長。2022年の創業からわずか2年足らずでミシュランガイドに掲載を果たした。

月30店開業、全国から結集

世界中のグルメを楽しめる東京は、日本の食文化を象徴する場所でもある。ラーメンについてもしかりで、日本中からさまざまな名店や味わいが集結し、日々新たな店がオープンする全国屈指の激戦区となっている。

1都道府県あたりのラーメン店は平均450なのに対し、東京は4倍以上、2000を超える(タウンページ調べ)。さらに月に30店以上が開業し、計算上はほぼ毎日新店がオープンしていることになる。店が集まるターミナル駅周辺のうち、全国一の激戦区として注目を集めるのが新宿エリアだ。200もの店が営業し、その数はコンビニエンスストアにも勝る。

激戦区新宿の人気店『つけ麺屋 やすべえ』の前にできる行列 写真:山川大介
激戦区新宿の人気店『つけ麺屋 やすべえ』の前にできる行列 写真:山川大介

ラーメントレンドの発信地

職人たちの試行錯誤の結果、東京は新たなスタイルを次々と生み出すトレンドの起点となった。それが東京におけるラーメンシーンの魅力のひとつと言える。

つけ汁に麺を浸して食べる「つけ麺」や、麺にタレを絡めた汁なしの「油そば」などは東京で生まれた。スープに着目しても、豚骨スープをベースに豚の背脂を浮かせたコク深い「背脂系」、複数のスープを掛け合わせた濃厚な「ダブルスープ」などのスタイルも東京から全国に広がった。

職人たちの飽くなき探究心はとどまらない。理想とする味に近づけ、店のブランド価値を高めるため、原材料や製法にこだわり自家製麺を使うことも多い。小麦から栽培する職人もいるほどだ。

競争から協力の時代に

さまざまな店が技術とアイデアを競い、ラーメンを進化させてきた結果、東京のラーメン界はいわば戦国時代にある。参入店舗は増加、かつそのレベルは年々高まっている。おいしいラーメンを提供してもすぐに凌駕(りょうが)する店が現れ、パイの奪い合いとなってしまう。リピートしてもらうために、他店との差別化が重要になってくる。

新たな動きも見られる。店同士の横のつながりを重視する傾向が生まれているのだ。相互にコラボメニューを出したり、共同でラーメンフェスなどのイベントを企画したりすることでお店のファンを共有でき、新規客を狙うことができる。門外不出だったレシピを有名店が公開し、業界全体の技術向上に貢献するようにもなった。その結果、さらに新たな味、高品質で多様なラーメンが生まれている。

一方、東京のラーメン文化をしっかりと支えているのはベーシックなラーメンを提供する名店の数々でもある。例えば、創業から半世紀を超える銀座の『萬福』や荻窪の『春木屋』は、長年、東京人から親しまれ、後進の目標となって業界に影響を与えてきた。新たな店やラーメンジャンルが日々生まれる中でも、昔からの実力派の味わいも楽しめるからこそ、東京のラーメンはこんなにも面白いのだ。

そろそろうまい一杯を味わいたくなった人も多いはず。いま食べるべき東京のラーメンをいくつか紹介したい。新進気鋭のラーメン3店と、クラシカルな一杯で愛され続ける名店を2店。5店のラーメンを食べ比べてみれば、東京の豊かなラーメン文化の一端にして典型を知ることができるだろう。

【淡麗系】しじみたっぷりの濃厚塩スープ・西六郷『宍道湖しじみ中華蕎麦 琥珀』

『宍道湖しじみ中華蕎麦 琥珀』の「特製 中華蕎蕎麦〈塩〉」(1700円) 写真:山川大介
『宍道湖しじみ中華蕎麦 琥珀』の「特製 中華蕎蕎麦〈塩〉」(1700円) 写真:山川大介

大田区西六郷の『宍道湖しじみ中華蕎麦 琥珀』は、オープンから5年余りでミシュランのビブグルマン(価格以上の満足感が得られる料理を提供する店)に4年連続掲載を果たすなど、国内でも数々の賞を受賞する実力店だ。

洗練されたルックスの「宍道湖しじみ中華蕎麦〈塩〉」(1200円)は、一杯あたりおよそ80個分のしじみを使用。透き通った淡麗スープを飲んだ瞬間、しじみのうまみが口いっぱいに広がる濃厚な一杯だ。2023年には池袋に待望の都内2店目が誕生し、本店と変わらない味が、より気軽に味わえるようになった。

【ネオクラシック系】中華そばを現代風に昇華・下目黒『えーちゃん食堂』

『えーちゃん食堂』の「ラーメン」(1000円) 写真:山川大介
『えーちゃん食堂』の「ラーメン」(1000円) 写真:山川大介

目黒区下目黒の『えーちゃん食堂』が手がける、東京で愛された昔ながらの中華そばをほうふつとさせるネオクラシックなラーメンも見逃せない一杯だ。

マニアたちをも虜(とりこ)にする「ラーメン」は、サバなどの魚介や昆布と野菜などでダシをとった魚介ベースのスープに細縮れ麺が馴染(なじ)む。メンマや白ネギなどが乗っており、見た目こそシンプルだが味わいは実に奥深い。数々の食通をうならせた一杯を目当てに、早朝から店前には長い列ができる。

【淡麗系】素材を生かす新ジャンル・六本木『入鹿TOKYO』

『入鹿TOKYO』の「KIWAMI ポルチーニ醤油らぁめん」(2000円) 写真:山川大介
『入鹿TOKYO』の「KIWAMI ポルチーニ醤油らぁめん」(2000円) 写真:山川大介

港区六本木の『入鹿TOKYO』は4種類のスープを炊き分け、組み合わせたカルテットスープが大きな注目を集めている。

「KIWAMI ポルチーニ醤油らぁめん」は、鶏、豚、ムール貝、伊勢エビの4種類の具材でスープを炊き分けることで、複雑な味わいを演出する。食材ごとに最適な温度でダシを取り、素材のポテンシャルを最大限生かした極上スープ。一度は味わうべき一杯だ。

【背脂系】東京背脂豚骨の元祖・千駄ヶ谷『ホープ軒』

『ホープ軒』の「ラーメン」(1000円) 写真:山川大介
『ホープ軒』の「ラーメン」(1000円) 写真:山川大介

渋谷区千駄ヶ谷の『ホープ軒』は、屋台時代から60年間愛され続ける東京背脂豚骨ラーメンの名店だ。

創業時から不変の「ラーメン」のスープは、豚骨しょうゆをベースに背脂を加えた屋台時代から変わらない味を提供している。自家製の中太麺は、コシの強さとモチモチの食感が特徴で、スープによく絡んで食べ応えも抜群だ。年中無休24時間営業で、働く東京人を支える。背脂系の元祖はいまも健在だ。

【ザ・王道】東京中華そばのレジェンド店・成増『べんてん』

『べんてん』の「ラーメン」(950円) 写真:山川大介
『べんてん』の「ラーメン」(950円) 写真:山川大介

練馬区旭町の『べんてん』は、東京のラーメンシーンを語る上では外せない。極めてオーセンティックな一杯を味わえるレジェンド店だ。

大判のチャーシューと自家製メンマが存在感を放つ「ラーメン」は、大量の鶏ガラ、豚骨、魚介系の干物から長時間じっくりと抽出した力強いスープに滑らかな喉越しの自家製太麺が絡む。メンマをお供に、冷えた瓶ビールを飲みながらラーメンを待つ。これぞ昔ながらの東京ラーメンの楽しみ方だ。

バナー写真:ネオクラシック系・荻窪『there is ramen』の「チャーシュー麺」 写真:山川大介

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