太麺、細麺、ちぢれ麺…ラーメンの味わいを決める奥深き「麺」の世界
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麺が生み出すさまざまなスタイル
ラーメン文化の発展に伴い、その味わいは複雑化し、多種多様なスタイルのラーメンが生まれ続けている。構成要素たるスープしかり、そして麺もしかりだ。
今や「麺」とひと口に言っても、その形状や種類は簡単には分類できないほど多岐にわたる。ただ、基本的な要素として挙げられるのは、「太さと形状」「加水率」「小麦粉の配合」の3つ。これらの加減によって麺はさまざまに表情を変える。まずは、麺を理解するための基本から整理していこう。

代表的な麺4種。左上から時計回りに、つけ麺用の極太麺、低加水の細麺、汎用(はんよう)性の高い中太麺、手もみのちぢれ麺
1. 食感を左右する「太さ」「形状」
麺の食感を大きく左右する要素にまず「太さ」がある。スープの絡みやすさや、かみ心地にも影響する。
・細麺~極細麺
あっさり系の清湯(ちんたん)スープ向き。麺が主張し過ぎず、すすった瞬間にスープをまとって香りを引きたてる。
例:博多ラーメン、淡麗醤油(しょうゆ)、塩
・中細~中太麺
最も幅広く使われ、スープとのバランスが取りやすい王道タイプ。
例:醤油ラーメン、魚介系
・太麺~極太麺
濃厚スープに負けない存在感が必要な場合に選ばれる。かみ応えが満足度を左右する。
例:濃厚味噌(みそ)、魚介豚骨、二郎系、つけ麺
「太さ」に次いで食感を決定づけるのが麺の「形状」だ。大別してのど越しのいい「ストレート麺」とスープが絡みやすい「ちぢれ麺」がある。
さらに麺の断面も四角と丸に分かれる。「四角い麺」は歯切れがよく輪郭のある食感でスープの存在感を引き立て、「丸い麺」は口当たりがやさしくスープとの一体感が生まれやすい。麺の太さとともに、スープとの相性を決定づける重要な要素となる。
2. 硬さや弾力を決める「加水率」
「加水率」とは小麦粉に対する水分量のこと。麺の硬さや弾力など食感を決める重要な要素となる。
・低加水麺
歯切れが良く、パツっとした食感。スープを吸いやすい。
例:博多豚骨、濃厚煮干し
・多加水麺
モチモチとした弾力と滑らかな口当たり。小麦の香りが立ちやすい。
例:つけ麺、札幌味噌、喜多方
3. コシや香りを決定づける「小麦粉の配合」
「小麦粉の配合」は麺づくりの土台となる。粉の種類と配合によって、コシ、香り、甘み、スープとの相性まで変わる。さらに産地や銘柄にこだわる職人も多い。
・強力粉
たんぱく質量が多く、グルテン形成が強い特徴を持つため、強力粉が多いとコシと弾力が出やすく、かみ応えのある麺になる。濃厚スープや太麺で一杯を構成する際の軸になる。
・準強力粉
強力粉と薄力粉の中間的な性質を持ち、コシとしなやかさのバランスが良い。香りも出しやすく、清湯から濃厚まで幅広いスープに対応できる万能タイプ。
・薄力粉
たんぱく質が少なく、軟らかく軽い食感が特徴だ。単体で麺を作ればコシが弱くなるため補助的に使われることが多いが、配合次第で口当たりの良さや香りを引き出せる。
このように麺にはさまざまな種類があるが、単体では完結せず、常にスープとの関係性の中で個性を発揮する。例えば、粘度が高く脂のうまみが重層的な濃厚スープには、咀嚼(そしゃく)感と芯のある太麺が合うし、香りとキレを重視する清湯には細麺が最適だ。組み合わせにより、ラーメンには無限と言えるほど多様な味わいが生まれる。
自家製麺と製麺所の違い
ラーメン店が麺を検討する時、大きく2つの選択肢がある。店内で自ら麺を打つ「自家製麺」と、製麺所と組む「委託製麺」だ。
自家製麺は、ラーメン店主の理想をそのまま表現できる。一方、設備や技術、手間のハードルが高い。
委託製麺は専門技術により、品質と量を安定させながら、各店独自の特注麺(オーダーメイド)に対応できる柔軟性もある。ラーメンファンの間では「自家製麺こそ個性」というイメージが根強いが、実際には多くの名店が信頼できる製麺所とともに理想の一杯を作り上げている。
店主の思いをくみ取り、麺という形で具現化する。そんな裏方の職人が「製麺師」という存在だ。その代表格とも言えるのが、東京の食器具などがそろう問屋街「合羽橋」に近い稲荷町にある『浅草開化楼』の製麺師、不死鳥カラス氏である。

トレードマークのカラスマスクをかぶる、製麺師・不死鳥カラス氏
元プロレスラー 異色の製麺師
かつてはプロレス業界で選手兼マネジャーとして活動していたカラス氏。しかし裏方としてスーツ姿で働くことに違和感を覚え、離職した。家計を支えるために始めた製麺所の配送アルバイトが麺づくりの入り口となった。
日々ラーメン店を回る中で店主たちの情熱に触れ、カラス氏はラーメンの奥深さに気づいた。転機は、とある店で食べたつけ麺だ。「太い麺と濃厚スープの組み合わせに衝撃を受け、つけ麺は必ず流行すると確信した」という。そこからラーメンへの関心が一気に強まり、意識は自然と“作り手”の道に向いていった。
時を同じくして製麺所の社員に登用され、工場勤務に。工場での日々を「息が詰まるほどしんどかった」と振り返るが、小麦粉の種類、配合、加水、気温・湿度による生地の変化など、麺づくりの基礎を現場で徹底的に学んだ。
「誰もやっていない麺」への挑戦
製麺の仕事を通じラーメン店と向き合う中で、カラス氏には「自分の手で麺を作りたい」という思いが芽生えた。各店主の理想を聞き、スープを味わうたびに「既存の麺では彼らの思いを実現できない部分がある」と感じるようになったのだ。
「自分に麺を作らせてほしい」──社長に直談判して開発の機会を得ると、「つけ麺専用麺」の試作に没頭した。粉の配合を探り、加水率を微調整しながら、狙う食感をひたすら突き詰めていった。
当時、つけ麺専用の麺はまだ一般的ではなく、工場には強力粉、準強力粉、薄力粉のみ。濃厚スープを受け止められる、もっちりとした弾力と強いコシを出すには、小麦粉の種類や配合をゼロから見直す必要があった。
試行錯誤の末に編み出した強い弾力とコシの麺は、多くの店主の支持を集め、次第に評判を広げた。つけ麺の名店『六厘舎』にも採用され、その存在は業界に広く知られるようになった。やがてこの麺は、つけ麺隆盛を支える1つのアイコンとなっていった。
名声を確立したカラス氏と『浅草開化楼』はそれ以来、店主ごとに理想の麺を聞き取り、オリジナルの麺を提供する体制を実現。多くのラーメン店の信頼を得て、ラーメンファンにも「浅草開化楼なら間違いない」とお墨付きを得る存在となった。
だが、カラス氏の探究心はとどまるところを知らない。ラーメンが日夜進化し、バリエーションを広げるなかで、店主の理想を理解し“翻訳”する製麺師の仕事には終わりがないからだ。
「麺は主役にも脇役にもなれる。そのバランスを決めるのが製麺師なんです」と語るカラス氏。その言葉にはラーメンの根幹を支える気概があった。

創業は1950年と老舗の『浅草開化楼』。東京都台東区の店頭では小売りもしている
カラス氏の「哲学」息づく東京都内5店
カラス氏の「哲学」が息づく『浅草開化楼』の麺。その魅力を深く知るには、実際に店で味わうのが一番だ。ここからは東京都内で『浅草開化楼』の麺を堪能できる厳選5店を紹介する。店ごとに異なるスープや構成要素が、麺の表情にどんな変化を及ぼすのか──。その違いを食べ比べてほしい。
『つけそば神田勝本』(千代田区・神保町)
「つけ麺」に新風を吹き込んだ名店。性質の異なる2種の麺を同時に味わえるカラス氏考案の「2種盛り」で知られる。

『つけそは神田勝本』のつけそば。煮干し清湯スープに細麺と平打ち麺の2種合い盛り。異なるおいしさを味わえる
『銀座 八五』(中央区・東銀座)
フレンチで研鑽(けんさん)を積んだ店主が生み出す「かえし(たれ)」を使わないスタイルが革新的なラーメンとして人気。オープン1年足らずでミシュランの「ビブグルマン」選出。

「八五」の中華蕎麦(そば)。素材のうまみを存分に引き出したスープにパスタのようなコシのある歯切れの良い麺が相性抜群
『ラーメン大至』(文京区・お茶の水)
昔ながらの醤油ラーメンを磨き上げた“完成形”。軽やかなのに深い正統派で、シンプルゆえに、職人の技量が伝わる一杯。
『ど・みそ 京橋本店』(中央区・京橋)
濃厚味噌ラーメンのパンチあるスープをしっかり受け止める太麺が存在感を放ち、小麦の甘みが立つ、麺の形状と役割が際立つ一杯。

国産小麦とタピオカ粉をブレンドしたモチモチの特注麺を使った「ど・みそ」の味噌らーめん
『麺ZINさいとう』(千代田区・秋葉原)
シャキシャキ野菜を引き立てる和牛ベースの白湯(ぱいたん)スープと弾力ある太めの平打ち手もみ麺が、後を引く。“中毒性”がある一杯だ。

和牛をじっくり煮込んだ濃厚な白湯スープに、モチモチのちぢれ麺、シャキシャキの野菜が融合する『麺ZINさいとう』の「和牛白湯タンメン」
※文中の写真は筆者撮影。
バナー写真:麺はラーメン文化の発展に伴い、多種多様に進化を遂げた(PIXTA)

