日伊2人の女性首相
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高市早苗首相(64)は南アフリカのG20 サミット(主要20カ国・地域首脳会議)で、イタリアのジョルジャ・メローニ首相(48)とハグする写真をXに投稿した。2人は半月ほど前の11月5日に初めて電話でやり取りし、日伊の国交樹立160周年を迎える来年前半のメローニ氏来日に向けて調整することで合意した。女性首相同士の波長はスタート時からかみ合っているようだ。
メローニ首相は10月で就任から3年を超えた。当初は極右と目されていたが、就任後は現実路線に転換。メローニ氏率いる右派政党「イタリアの同胞」など3党連立政権への支持率、首相自身への支持率ともに40%以上と、マクロン仏首相、メルツ独首相ら多くの欧州首脳を上回っている。多党制で不安定な連立政権が常態化しているイタリアでは、異例の長期安定政権である。
メローニ氏は幼い頃に父が家出して母の手一つで育てられた。職業高校を卒業してウエイトレスなどの職に就いた後、2006年に29歳で下院議員に当選。08年に史上最年少の31歳で、ベルルスコーニ政権の青少年政策担当相に抜擢されて注目を浴び、12年に「イタリアの同胞」を立ち上げた。
彼女が特異なのは、イタリアを第2次世界大戦に導いたムッソリーニの精神を受け継ぐネオファシスト政党「イタリア社会運動」の青年組織に、15歳で加入した経歴を持つことだ。
本人はファシズムからの決別を宣言しているが、選挙戦ではトランプ米大統領ばりの「イタリア第一主義」を掲げて勝利し、排外主義的主張が目立っていた。このため、欧州で勢いを増す右派ポピュリズム政党がついにイタリアで政権の座に就いた、と周辺諸国に警戒心を巻き起こした。特にウクライナ支援を巡り、連立与党の中にロシアのプーチン大統領と個人的に親しい党首がいたことから、北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)分断の火種になるとの懸念が広がった。
ところが、就任後は極右色を抑えて欧米との協調重視の現実路線に転換。ウクライナ支援継続や対ロ制裁を一貫して主張し、主要7カ国(G7)で唯一参加していた中国の巨大経済圏構想「一帯一路」からの離脱にも踏み切っている。
対米関係では、バイデン政権と良好な関係を維持しながら、「次」を見据えて主張の近いトランプ氏との関係強化を画策。今年1月にはフロリダに飛んで就任前のトランプ氏と会談し、第2次トランプ大統領の就任式典に欧州唯一の首脳として出席している。
トランプ関税を巡って米欧関係がここ数十年で最悪の状態に陥っていた4月には、ホワイトハウスで首脳会談に臨み、トランプ氏との良好な関係を維持しながら欧州の利益を擁護する困難な役割を見事にこなしたことで、「トランプ氏はメローニの話なら聞く」との評価が定着。G7指導者の中にあって、欧州首脳とトランプ氏との「橋渡し役」としての特異な立場を確立するのに成功している。
メローニ氏はトランプ大統領との良好な関係をてこに、欧州内での自身のプレゼンスを確立させた。さらに外交分野での成果が、国内での政治的立場固めにつながるという好循環を生み出し、長期政権に結び付いている。
高市氏とメローニ氏は、(1)男性中心の政治の世界で女性保守派としてイメージを確立、(2)世襲ではないたたき上げ政治家、(3)家族を重視する伝統的価値観の持ち主──など共通点が少なくない。トランプ氏との良好な関係を「外交資産」としてフル活用するメローニ氏の手法は、高市首相にとっても示唆に富む。
台湾有事を巡る自身の国会答弁で対中関係は険悪化している今だからこそ、トランプ氏との蜜月関係という「外交資産」を使って、タイ、フィリピン、インドネシアなど、トランプ氏とのパイプを求めるアジア諸国の中で自身のプレゼンスを高め、それを国内における政治基盤強化につなげる「メローニ型循環」を目指すべきではないだろうか?
バナー写真:G20サミットの初日、対面するイタリアのメローニ首相(中央)と高市首相=2025年11月22日、南アフリカ・ヨハネスブルク(ゲッティ=共同)