台湾問題の原点、日中共同声明にあり
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台湾をめぐる高市早苗首相の言動に中国政府が反発して、日中関係に波紋を投げかけている。
「複雑な事態の時は、原点に戻って考えよ」とよく言われるが、台湾問題についても、現在の日中関係の原点に返って考える必要がある。すなわち、1972年の日中国交正常化にあたって両国政府が発表した共同声明を、あらためて思い出さねばならない。今から約半世紀前に発出された共同声明は、その第3項で、次のように述べている。
中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する。
この宣言に従えば、日本は、中国の主張を理解するのみならず、「尊重」せねばならない。したがって、中国の立場に反するような言動を日本政府は行うべきではないことになる。
このことは、日本政府として、台湾が中華人民共和国の領土ではないかのような振る舞いをしないことを意味しており、具体的には、国際的に台湾を、別個の政治的エンティティ(実体)として公的に認めるかのような言動を慎むべきことを意味している、
したがって、民間レベルの経済、文化、スポーツ交流などは別として、高度に「政治的」意味を持たれがちな言動については、日本政府関係者としてこれを控えることが含意されていると見るべきであろう。
こうした観点からすれば、公式の場で日本政府の高官が、台湾の政治指導者と会談することも含め、その言動自体、時と場所と態様をよくわきまえねばならないことになる。
そうだとすれば、最近の高市首相の公的場所での言動には、中国としていささか眉をひそめるものがあったとしても不思議ではない。日本政府は、あくまで、台湾について中国の立場を「尊重する」姿勢を貫かねばならない。
他方、中国側も、この点に続く共同声明の別の部分の意味をよく理解しておく必要がある。すなわち、日本政府は、「ポツダム宣言第8項」の立場を堅持する、と述べていることである。この項目は、平たくいえば、「日本は、(降伏にともない)台湾を領土として放棄しただけであって、それがどこに帰属するべきかは、国際的に(「連合国」側が)決めることである」という意味にほかならない。このことは、台湾問題は、中国が一方的に決められる問題ではなく、国際問題であるという認識を含意している。日本のこうした立場を、中国政府はよく理解しておかねばならないであろう。
加えて、日中共同声明、および、その後締結された日中平和友好条約は、日中両国は「相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力又は武力による威嚇に訴えないこと」に合意している。したがって、「国際問題」たる台湾問題について紛争がある時、中国は、武力による解決をはかるべきではないのである。そして日本もまた、武力行使を慎み、平和的手段で紛争を解決せねばならないのである。
もし、高市首相の言動あるいは、それに関連した中国政府の対応において、こうした、日中共同声明の趣旨に悖(もと)る点があれば、両国は、共同声明の精神に基づいて反省せねばならないであろう。
バナー写真:1972年9月29日、北京の人民大会堂で日中共同声明に調印、中国首相の周恩来(右)と文書を交換する首相田中角栄(共同)