「歌は世につれ」高市自民の大勝がもたらした教訓
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大瀧詠一は、かつて「歌は世につれ」という言葉を、「ヒットは聞く人が作る」との意味だと解説していた。音楽の作り手はあくまで「作品」を作るのであって、「ヒット曲」は聞く人が作るのだ、という。
高市自民党が1党で3分の2を超える議席数を得た衆院総選挙の選挙結果を見て、筆者の頭にはこの「歌は世につれ」という言葉が浮かんだ。永田町の「作曲家」たちの意図と想像を超える選挙結果が現出したからだ。
今回、ヒットを狙いながら最も当てが外れた「作曲家」といえば、やはり中道改革連合の野田佳彦前代表や安住淳前共同幹事長だろう。
自民党が獲得した議席は316議席。史上最多の議席数である。ただし、比例代表における自民党の得票率は36.72%だった。2021年、岸田文雄内閣発足直後の解散・総選挙で自民党が勝利した際の得票率は34.66%だから、今回はそれを上回っている。だが、05年の小泉郵政選挙で記録した38.18%には及ばない。
つまり、比例代表の得票を見れば、「高市人気」も過去の小泉ブームに及ぶレベルではなかった。それでも自民党が郵政選挙を上回る議席数を獲得できたのは、やはり小選挙区の戦況が極端に自民優位に傾斜した影響が大きい。とりわけ、重要な変数となったのが、中道に向かうはずだった立憲民主党支持層の動向である。
筆者が異変に気づいたのは、1月19日の週に相次いで実施した全国の各選挙区の調査結果を見た時だ。当時、中道は結党前後で、自公連立から離脱して間もない公明党の支持層がどれだけ中道に向かうかが注目されていた。選挙区の情勢を見ると、その時点で対象となったほぼ全ての選挙区で自民党候補がリードする一方、中道候補が全国的に伸び悩む傾向が見てとれた。
各政党の支持層別の動向を深掘りしたところ、総じて無党派層が自民候補に振れる様子が見られた。これ自体はそもそも無党派層で高市内閣の支持率が高かったことから意外ではないのだが、本来立憲の地盤が強いとされる選挙区で、中道候補が党支持層を固めているにもかかわらず、自民候補が一方的にリードしている情勢には強い違和感を持った。そこで、さらにデータを精査したところ、前回25年参院選で立憲に投票した層が中道にあまり移行していないことに気がついた。
いわば、立憲支持層の「メルトダウン」とも言うべき現象が始まっていたのだ。この現象は選挙期間に入るとさらに進行する。
選挙戦中盤を過ぎた2月2日〜4日に実施した、選挙ドットコムとJX通信社の全国調査では、参院選で立憲に投票した層が今回比例で中道に投票するとした割合が55.7%にとどまった。1月17日〜18日の調査では62.2%だったから、実に7ポイント近く下落したことになる。同じ期間に浸透が進んだ公明支持層とは逆に、選挙期間を通じて時が経つほどに立憲支持層の中道からの離反が進んだ。このことで、報道各社の情勢報道でも序盤と終盤を比べると明らかに自民の勢いが加速し、中道は失速する様が見て取れた。
選挙後、中道の落選者や政治ジャーナリストから「野党の分断」、とりわけ「選挙区での国民民主党との競合」に敗因を求める声が上がった。だが、そもそも中道は選挙前から123議席減となった一方で、国民との競合区は46に留まっている。この数字だけでも、中道の大敗の原因を国民に求めるのは無理がある。
加えて、中道と国民がすみ分けていた各選挙区の出口調査を見ると、総じて国民支持層は中道候補よりも自民候補に多く流れる傾向にあった。反対に、国民候補には中道支持層が多く流れた。結果、投票日2月8日の午後8時時点で中道候補に当選確実が出た選挙区はゼロだったが、国民候補には4人の当選確実が出た。また、両党がほぼ完全にすみ分けた埼玉県では自民党が全勝したが、野党の惜敗率が90%を超えたのは埼玉13区と14区のみで、いずれも国民候補が出馬した選挙区だった。
立憲はこれまで野党共闘を主導してきた。中道もその延長で国民民主に「相互不可侵」を期待したようだが、「作曲家」たる政治家の思いだけで小選挙区の選択肢を統一しても、有権者には選ばれないことが明白になった。1人を選ぶ小選挙区制だから、非自民の選択肢が分散しては自民候補に勝てない。一方で、公明にせよ国民民主にせよ、単に野党をまとめるだけでは有権者には選ばれない。選ばれるには「まとめ方」も重要だとの教訓を得た、とも言えそうだ。
かくして、野田氏や安住氏ら「作曲家」が狙った足し算によるヒット曲作りは失敗した。対して「高市早苗」というコンテンツは誰しもの想像を超えるヒット作となった。選挙はもはや、永田町にいる大勢の「作曲家」の思い通りにはいかなくなっている。まさに「歌は世につれ、世は歌につれ」だ。
バナー写真:テレビの開票速報番組の中継に臨むため、登壇する中道改革連合の野田佳彦(左手前)、斉藤鉄夫両共同代表=2025年2月8日夜、東京都港区(時事)