コラム:私の視点

人気政策の実現で政治不信が高まるパラドックス

政治・外交

自民党と日本維新の会の共同提案である定数削減法案が終盤国会を大きく揺らした。法案は衆議院の定数465議席の1割削減を掲げるもので、与野党協議で1年以内に結論が出なければ、比例代表だけを45議席自動的に削減するという内容だ。

野党各党は「与党に有利な制度変更だ」などと反発し、全野党が審議拒否で足並みをそろえるという異例の事態に発展した。結局、この法案の今国会での成立は見送られ、秋の臨時国会へと先送りされた。

実は、議員定数削減は、長年の「人気政策」である。例えば、テレビ朝日系のANNが2012年8月に行った世論調査で「衆議院の議員定数(当時480)を次の衆院選からさらに減らす必要があると思いますか」との質問には、80%が「思う」と答えた。直近でも、今年6月に読売新聞が実施した世論調査では、与党がまとめた定数削減を含む選挙制度改革の方針について「賛成」が67%に達した。

ここ10年ほど、多くの世論調査で同様の質問は幾度となく繰り返されてきたが、常に半数から8割ほどの有権者が賛成してきたのが議員定数削減という政策だ。

定数削減はなぜ支持を集めるのか。JX通信社と選挙ドットコムが7月に実施した電話調査によれば、賛成する理由で最も多かったは「議員にかかる経費が多すぎる」で35.8%に上り、次いで「今の政治家や国会への不満・不信感がある」が20.7%と続いた。国会議員の働きや議会制民主主義に対する信頼が弱く、費用対効果を疑問視している意見が半数以上に上ることがわかる。

ここにパラドックスが存在する。

定数削減への賛成意見の中心にあるのは、改革への期待や社会の変化の対応を求めるものではなく、国会議員の数や議会制民主主義にかかるコストそのものに対する負の評価だ。しかし、仮に賛成者の望み通り、定数削減が実現したとしても、コストの削減効果は30億円程度に過ぎず、122兆円に上る国家予算に照らせば微々たるものだ。したがって「膨大な社会保障経費が減る」といった、有権者の実感につながるものにはまずなり得ない。むしろ、減らしたことによる政治の「質」の向上を実感できなければ、「結局、何も変わらない」「議員はもっと少なくてよい」と不信感がさらに強まる可能性が高い。

当然、定数削減に反対する有権者にも政治不信が広がるだろう。同じJX通信社・選挙ドットコム調査で定数削減に反対する有権者にその理由を聞いたところ、最多は「特定の政党に有利になる可能性がある」の37.1%、次いで「多様な民意が国会に届きにくくなる」の29.8%だった。比例代表だけを削減すると、比例依存度が高い中小政党ほど相対的な打撃が大きい。それゆえ、制度変更後の選挙で中小政党が議席を減らせば「自分の意見は政治に届かない」という不信感を強める。

このように、定数削減は賛成する人、反対する人の両方にとって政治不信を高める燃料となってしまう蓋然(がいぜん)性が高い。「人気政策」なのに、実行するとかえって政治不信を強めてしまうというパラドックスである。

それでも維新が定数削減にこだわる背景には、大阪での成功体験がある。

橋下徹知事時代、大阪府では財政非常事態宣言のもと、行政サービスや職員給与に踏み込む行財政改革を推し進めていた。職員や住民にも不利益が及ぶ改革であるため、推進する政治家の側も当然「身を切る」ことが求められた。2011年、結成間もない大阪維新の会が主導した大阪府議会の定数削減では、議席が109から88へと21議席も削減された。府議会では抵抗する他の党派の議員が深夜までバリケードを築いたが、それを突破しての条例改正によって橋下知事と維新政治は有権者の支持を得た。これが重要な原体験になっている。

2010年の橋下知事支持率は朝日新聞の調査で79%、読売新聞の調査では83%に達していた。「身を切る改革」が、その後の維新の大阪での支持基盤を確立する契機になったと言えよう。

ひるがえって、維新が国会にも持ち込んだ定数削減案は、それと引き換えに何の改革を進め、何を実現するのかが有権者には見えていない。先に紹介したJX通信社・選挙ドットコム調査で定数削減に賛成する理由として「改革のため政治家がまず身を切るべきだ」との理由を挙げた人は、わずか5.2%に過ぎなかった。「人口減少に合わせて議員も減らすべきだから」と、別の目的のための政策手段として定数削減に賛成する人を合わせても2割ほどにとどまっている。

目的より手段が先に立てば、支持を当て込んだ政策がかえって不信の増幅装置になりかねない。そして、政治不信が議会制民主主義といった制度そのものに向かえば、長期的には極右・極左政党の台頭や権威主義的なリーダーの誕生を招き寄せる危険性すらある。

世論調査の表面的な数字だけでなく、定数削減を求める国民の深層心理に注目し、「何人減らすか」だけでなく「何のために減らすか」「削減の効果をどう検証するのか」を明らかにする──次の国会には、そんな議論が求められている。

バナー写真:橋下徹知事時代の2011年、多くの会派が欠席する中、議員定数削減に関する条令を可決した大阪府議会。日本維新の会は、これを大きな成功体験と認識している=2011年6月4日、大阪市中央区(時事)

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