コラム:私の視点

高市内閣の支持率下落:「前借り」政治資源の返済局面に

政治・外交

今年5月の拙稿で、高市早苗内閣の支持率はなお高いものの、その中身はすでに変質し始めていると指摘した。昨秋の政権発足当初に目立った「政策に期待できるから」などの積極的な支持理由が減り、「他の人よりましだから」という消極的な支持が大きく増えていたからだ。支持率にあまり変化はないように見えても、その強度が落ちていることを示していた。

振り返ってみれば、これが最近の内閣支持率急落の予兆だった。7月は、日本で行われている11の定例世論調査のすべてで、内閣支持率が前月を下回った。中でも読売新聞は12ポイント、日本経済新聞と毎日新聞は各10ポイント、ANNは10.9ポイントと大幅に下落した。

われわれJX通信社と選挙ドットコムの合同調査で見ると、高市内閣からの「支持離れ」には大きく分けて2つの波がありそうだ。

政権発足時からの落ち込みが最も大きいのは、主に40代以下の若い男性である。これに対して、直近2カ月で離反が目立つのは60代以上の女性だ。細かな属性別集計には誤差があるが、方向性は明瞭である。

40代以下の男性は発足時、「強く支持する」の比率が高く、支持理由にも「政策への期待」を挙げる人が多かった。減税や積極財政、物価高対策によって手取りや生活が変わるという期待を、政権に「前払い」していた層である。ところが物価上昇が続き、政策の効果を実感できない時間が長くなるにつれ、その強い支持が少しずつ削られた可能性がある。

一方、60代以上の女性には「人柄が信頼できる」「他の人よりまし」といった理由による支持が比較的多かった。これは特定政策への強い関心や期待よりも、高市早苗という政治家に対する好感や、他の選択肢との比較による緩い支持といえる。特別国会終盤の混乱で、野党との対立が先鋭化した過程で、この層の緩い期待感も急速にしぼんだ可能性がある。

8月に入っても、高市政権には逆風が吹いている。国会が閉じれば政治ニュースは夏枯れの季節になり、支持率も動きにくくなる。ところが、今年はプーチン・ロシア大統領の択捉島訪問や、首相自身が就任前に公言してきた靖国神社への参拝見送り(代わりに「遥拝」をしたと伝えられている)、さらに米国が国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長を制裁対象にしたことなど、外交に関連して支持層との折り合いをつけるのが難しい話題が続いた。いずれも単独で内閣支持率を大きく動かしそうなテーマではないが、高市政権を強力に支持してきた保守的な政治意識の層に、小さな違和感を残しかねない案件である。

政権にとって今後反転材料になり得るのが、食料品の消費税率引き下げである。政府は8月5日、食料品の税率を2027年4月から2年間、現行の8%から1%に下げる方針を決めた。中低所得の勤労者には1%相当を給付し、2029年度から給付付き税額控除を本格導入するまでの「つなぎ」と位置付ける。秋の臨時国会に出す減税法案は最大の争点になるだろう。

これは、恐らく政権発足時に有権者が高市首相に期待した「物価高対策」に最も近い政策である。実際、各社の世論調査では食料品減税への賛成が反対を上回っている。物価高への不満を吸収し、離れつつあった若い世代を支持層に呼び戻す政策になり得る。

ただし、その支持は無条件ではない。FNN・産経新聞の8月調査では、消費税率の引き下げ自体には52.9%が賛成した一方、具体的な財源を示さずに決めたことには61.5%が否定的だった。2年後に8%へ戻すことにも反対が賛成を上回る。減税という「入口」には賛成だが、「財源」と「出口」には納得していないのである。海外の類似事例では、税率を下げた分、同じだけ店頭価格が下がるとも限らないこともデメリットとして盛んに指摘される。議論の推移によっては、食料品消費税率引き下げに対する世論の評価が変わる可能性も否定できない。

臨時国会で、高市政権にとってより大きな政治的負担になりそうなのが、衆院議員定数削減案である。先の特別国会では、この法案の取り扱いを巡って与野党が対立し、野党が一致して審議を拒否する事態に至った。

歴代の自民党政権、特に安倍晋三政権が国会運営で腐心したのは、野党を一枚岩にしないことだった。政策ごとに協力可能な党を探し、個別に取り込む。野党間の利害の不一致を利用し、反対の総量を小さくする。それが長期政権を支えた国会運営の知恵でもあった。

直近では、自民党衆院選挙制度協議会の鈴木馨祐(けいすけ)座長が、比例代表の配分計算式を現行の「ドント式」から「サン=ラグ式」へ改めることや、小選挙区で落選して比例で復活当選する際に必要な最低得票率を引き上げる(小選挙区有効投票総数の10分の1から6分の1へ)こと、さらに惜敗率に30%または50%といった基準を加えることなどを試案として示した。サン=ラグ式は一般に小規模政党へ議席が回りやすく、チームみらいも導入を主張してきた。この提案には、野党を分断する狙いがあるのかもしれない。

一方、比例復活要件の厳格化は、特に中規模の政党にとって脅威になる。小選挙区に、比例票の掘り起こしを狙って勝算の薄い候補を立てる戦略が取りづらくなるからだ。全国に支部組織を張り巡らせるなどしてきた参政党は死活問題と捉える可能性がある。

こうして、秋の臨時国会で定数削減が再び与野党対決のメインテーマになるとすれば、高市政権の政治資源を大きく消耗させるだろう。

来年春には統一地方選があり、同年秋には高市氏の自民党総裁任期が満了する。本来、高市氏にとっては秋の臨時国会を大過なく乗り切って「実績」を作り、統一地方選で勝利した勢いを総裁再選につなげる──というのが政治的な貯金を最大化させるために理想的なゲームプランだろう。だが、現時点での見通しからすれば、高市首相は秋の臨時国会でも相当な政治資源を費消しそうだ。

発足時の高支持率は、政権が自由に使える「貯金」というよりも、有権者から受け取った「前払い」だったとのかもしれない。高市政権はいま、その返済期限を迎えつつある。

バナー写真;飲食料品の消費税率を引き下げる方針を表明した高市首相=2026年7月30日午後、首相官邸(共同)

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