コラム:私の視点

政治改革を経ても、なぜ利益誘導はなくならないのか

政治・外交

自分を応援しなかった首長のいる自治体の道路予算を「大幅にカットした」。この発言が仇(あだ)となり、簗和生(やな・かずお)農水相は発言の撤回と謝罪を経て、10月14日に辞任した。実際に報復的な予算削減が行われたかどうかは、発言の是非とは別に検証されなければならない。ただ、自分への選挙支援と地域への予算配分を結び付ける発想は、日本政治に残る問題を考える手がかりになる。

1994年の選挙制度改革から、すでに30年以上が過ぎた。改革には、地元への利益誘導や個人後援会を中心とする選挙を改め、政党が政策を競う政治へ転換するという期待があった。それなのに、なぜ今もこうした発言が飛び出すのか。制度改革は、結局、何も変えなかったのだろうか。

政治家間の競争は変わった

改革前の衆院選では、1つの選挙区から複数の議員を選ぶ中選挙区制が採用されていた。自民党のような大きな政党は、1つの選挙区に何人もの候補者を立てた。そのため、自民党候補にとっては、野党候補だけでなく、同じ党の候補者も強力なライバルだった。

同じ党に所属する以上、党の政策を訴えるだけでは違いを示しにくい。そこで、「この道路を造ったのは私だ」「地元の陳情を実現できるのは私だ」という個人の実績や働きぶりが重要になる。地元への利益誘導は、同じ党の候補者に競り勝つための有力な手段だった。

改革後、小選挙区では当選者が1人になり、自民党の公認候補も原則1人になった。党内の同士討ちがなくなれば、全国的な政策を前面に出しやすくなる。

実際、その変化を示したのが、2016年に発表された政治学者エイミー・カタリナック(ニューヨーク大学)の研究である。同研究では、改革前後の大量の選挙公報を分析し、自民党候補が地元や特定の集団への利益を約束する割合が減り、安全保障など全国的な政策を論じる割合が増えたことを明らかにした。少なくとも、候補者が有権者に何を訴えるかという点で、改革は変化をもたらしていたわけである。

しかし、公報で何を語るかと、当選後に予算をどう配るかは、同じ問題ではない。全国的な政策を掲げながら、地元への利益配分にも力を入れることはできる。

自治体間の競争は残る

カタリナックは、2025年の著書(Dominance through Division)で、この問題を別の角度から掘り下げている。注目するのは、同じ選挙区の中にある自治体間の競争である。

仮に、ある選挙区に3つの町があり、どの町も道路や施設の整備のために国の資金を必要としているとしよう。地元の有力国会議員が、「私をよく支えてくれた町ほど、予算の獲得で力を貸す」という姿勢を示す。そうした扱いを自治体の側も予想するなら、各町には、他よりも手厚い支持を、その議員に示そうとする動機が生まれる。

ここで競われるのは、どの候補者を当選させるかだけではない。その議員の当選がほぼ確実でも、自分たちの町への配分を有利にするために、さらに票を集める意味がある。他の町より熱心に支援することが、予算獲得につながるかもしれないからだ。

秘密投票なのに、誰が応援したか分かるのか、と疑問に思うかもしれない。しかし、この仕組みに個人の投票先の確認は必要ない。自治体ごとの開票結果が分かれば、町全体としてどれほど支持したかは確認できる。個々人の投票は秘密でも、地域をまとめて評価し、処遇することは可能なのである。

カタリナックは、実際の選挙結果と財政データを分析し、同じ選挙区の中で、自民党の当選議員への支持が強い自治体ほど、国から(住民1人あたりで)多くの資金を受け取る傾向を報告している。

選挙制度改革によって、同じ党の候補者同士の競争は弱まった。だが、それによって地元の自治体同士が有力議員への支持を競う仕組みまで消えたわけではなかったのである。

選挙のルールだけでは変わらない

この仕組みが働くかどうかは、選挙制度だけでは決まらない。1つの選挙区に複数の自治体が含まれているか。自治体別の支持が分かるか。国から地方に配る資金について、政治家が影響力を持ちうるか。そうした条件の組み合わせが問題になる。

逆に、1つの自治体だけで選挙区を構成している場合には、選挙区内の自治体同士を競わせることはできない。全国一律のルールが適用されていても、地域によって政治家の選挙戦略が違いうる理由も、ここにある。

国会議員が地元のために働くこと自体が悪いわけではない。地域の困りごとを国政に届け、必要な道路や防災施設の整備を求めるのは、議員の大切な仕事である。問われるのは、その予算が必要性に基づいて配られるのか、それとも政治家への忠誠に応じて配られるのか、ということだ。

選挙制度改革で、候補者の訴え方や政党間の競争は変わった。しかし、地方が国の資金を必要とし、その獲得に政治家の力を期待する関係は、選挙のルールを変えるだけでは解消しない。利益誘導の問題を考えるなら、制度改革の成否を一括して論じるよりも、予算配分の基準や決定過程に目を向ける必要がある。応援した地域にも、しなかった地域にも、必要な予算が届く。その当たり前を確かめられる仕組みが問われている。

バナー写真:高市早苗首相と面会し、辞表提出後に各社の取材に応じる簗和生農林水産相(中央)=2026年10月14日、首相官邸(時事)

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