葛(くず): 「古事記」の時代から奈良吉野の名産―良質な水と冬の寒さが最高級品を生む
食 文化- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
嫌われ者の雑草の根から精製
葛(くず)は、マメ科の多年性のつる植物。日本、中国、朝鮮半島などの東アジアの温暖な地域の山野や河原に自生する。
繁殖力が強く、周囲を覆いつくすように広がるので、現代においては “やっかいな雑草” のイメージが強いが、奈良時代の歌人・山上憶良は、「萩の花 尾花 葛花 瞿麦(なでしこ)の花 女郎花 また藤袴 朝貌(あさがお)の花」と詠み、秋の風情を感じさせる七草に挙げている。確かに、夏から初秋にかけて咲く赤紫色の穂状花は近づいてみるとかわいらしく、ブドウの果汁のような甘い香りを漂わせる。
食材になるのは、葛の根から抽出した「でんぶん=葛粉」。奈良時代に編さんされた『古事記』には、大和国(現在の奈良県)の吉野国栖(くず)の地域の人が葛の根を売り歩いたという記述があり、この地名にちなんで「くず」の名が生まれたとされる。
寒い冬の時期に掘り起こした葛の根を叩いて細かくし、冷たい水に何度もさらしてでんぷんを沈澱させ、自然乾燥し、真っ白できめ細かな葛粉を精製する。吉野地域は良質な水源に恵まれ、寒冷な土地であることが葛粉の精製にも適しており、今も「吉野葛」は最高級ブランドとして知られる。
葛湯に代表されるように「とろみ」をつけることに利用するほか、和菓子にもしばしば使われる。一般的に、料理の「とろみ」つけにはジャガイモでんぷんを主成分とする片栗粉を使うことが多いが、マメ科の葛は血行を促し身体を温める働きがあるという。
この性質を生かして、中国では葛の根を薬用植物として使用している。漢方薬「葛根湯」はその代表的なもので、発熱や頭痛など風邪の初期症状の緩和に効果があるとして日本でも広く知られている。
葛の定番料理をこちらにまとめました
→「吉野の山の白いダイヤモンドは限りなく透き通る : 葛のお料理コレクション」
取材・構成:イー・クラフト
バナー写真:葛粉と葛湯(PIXTA)
