知ればもっとおいしくなる にっぽん食べ物図鑑

海苔(ノリ):東京から始まった養殖が戦後に拡大─潮の香りと栄養、うま味が凝縮

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日本人は海藻類をよく食べるが、なかでも海苔の存在感は特別。おにぎりや海苔巻きだけでなく、ラーメンや和風パスタのトッピングとしても人気だ。

将軍家に献上するため、江戸前で養殖が始まる

ご飯のお供としておなじみの「海苔」。海藻のスサビノリを細かく裁断して、四角いシート状に加工したものだ。

シート状に加工する技術が確立されたのは比較的近代のこと。それまでは、海から採取したままの形で食用にしていた。「ヌルヌルする」という意味の「ぬら」がなまって、「のり」と呼ばれるようになったとの説がある。苔(こけ)のように岩に貼り付いて生息することから、「海苔」の文字が当てられている。平安時代には公家や貴族のごちそうに、鎌倉時代には僧侶の精進料理にも用いられた。

変化が訪れたのは江戸時代。将軍家に新鮮な海苔を献上するため、東京湾に面した大森海岸(東京都)で養殖が始まる。中期になると、紙すきの技術を応用して薄く四角くすいて天日で干し、乾物として利用するようになった。これに伴い、さまざまな具を芯にしてご飯を巻いた「海苔巻き」が庶民の間で大流行。幕府の保護を受け、海苔は江戸の特産品となった。

戦後になって養殖業は全国に拡大した。昭和初期までは海苔の生産量は東京が全国1位だったが、戦後の工業化で東京湾の埋め立てが進むと養殖漁場は激減。現在、江戸前海苔の生産を担うのは千葉の養殖だ。また、九州北西部の有明海(佐賀県)は良質な漁場で、有明海苔は高級ブランドとして知られる。

新富津漁港に陸揚げされたノリ(写真提供:千葉県観光物産協会)
新富津漁港に水揚げされたノリ(写真提供:千葉県観光物産協会)

ミネラルやビタミン豊富な「海の野菜」

海苔の入札の様子(写真提供:千葉県観光物産協会)
海苔の入札の様子(写真提供:千葉県観光物産協会)

スーパーなどで販売されているのは、干した海苔を高温でパリッと焼き上げた「焼き海苔」。縦21センチ、横19センチが基本サイズだが、おにぎりや手巻き寿司(ずし)など用途別に裁断したものなどバリエーションが豊富。

海苔はカルシウムや鉄などのミネラル、ビタミンが豊富で「海の野菜」とも呼ばれる。うま味の三大成分(グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸)を全て含むので、そのまま食べても口の中にじわりとおいしさが広がっていく。

ちなみに、みそ汁の具材として人気の「あおさ海苔」や、お好み焼きなどに振りかける「青海苔」は、黒い海苔とは別の種類の海藻。食べ比べると、香りや味わいの違いがきっと分かるはず。

写真左:三重県産の乾燥アオサ(提供:農林水産省「にっぽん伝統食図鑑」)、フレーク状の青海苔(PIXTA)
写真左:三重県産の乾燥アオサ(提供:農林水産省「にっぽん伝統食図鑑」)、フレーク状の青海苔(PIXTA)

さまざまに姿かたちを変える海苔のお料理をまとめました

→「巻いて、包んで、振りかけて:海苔のお料理コレクション

取材・構成:イー・クラフト

バナー写真提供:佐賀県観光連盟

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