「にほんご」教育をどうする

6割が外国ルーツの生徒の公立高:岐阜・東濃高校が教える日本で生き抜くスキルとは

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公立ながら外国にルーツがある生徒が全校の6割以上を占める教育の場がある。岐阜県立東濃(とうのう)高校だ。就職や日常生活に役立つ日本語を演劇を通して学ぶといった実践を重視し、希望にかなった進路実績を出している。独自の教育環境を探った。

社会的な自立を目指す授業

教室内では日本語のほか、英語、タガログ語、ポルトガル語など、さまざまな言語が飛び交っていた。

「雪女のアレンジバージョンです。雪女のストーリーなので、男の人が1人最初に死にます。この人が最終的にゾンビに復活する話です」

「『桃太郎』と『シンデレラ』の組み合わせです。エンディングを作るのが難しいですね」

東濃高校で、日本語指導を必要とする2年生が学ぶ「日本語Ⅱ」の授業。テーマは「多読演劇」。グループごとに脚本を作っている最中だった。

東濃高校の外国人の生徒が作った脚本
東濃高校の外国人の生徒が作った脚本

生徒は1、2年生の日本語の授業で読んだ昔話や小説をベースに物語を再構成し、オリジナルの脚本を作る。既存の物語に独自のストーリーを加えるのが決まりだ。生徒は見る人に面白がってもらえるよう試行錯誤しながら言語能力を磨く。教員はそれぞれのグループの状況に応じて、アドバイスしていく。

脚本を仕上げたグループは劇の練習。最終的には劇を撮影して、動画にもする。作品は校内の教員や他高校の生徒の評価も受ける。

担当する和田さとみ助教諭は「日本語で脚本を書き、自ら演じることで主人公の心情を想像する力を付けます。劇を見る人の立場に立ち、わかりやすく伝える態度や、日本語で物語をまとめる力も授業で大事にしています」とねらいを説明する。

劇や動画は期間内に完成させることも徹底している。日本社会で重視される「期限までに仕事を終える」意識の育成にもつながるためだ。演劇づくりを通し、日本社会への適応と自立を促すプログラムになっている。

日程に沿って劇や動画づくりに取り組むことで、日本社会の規範も学ぶ
日程に沿って劇や動画づくりに取り組むことで、日本社会の規範も学ぶ

自然と増えた外国ルーツの生徒

東濃高校はかつて中山道の宿場町として栄えた御嵩町にある、1896年(明治29)年創立の伝統校だ。定員は3学年計360人。「人文社会」「国際」「日本文化」「生活」「理数探究」「地域探究」「ビジネス」「ものづくり」の8類型の単位制を導入し、生徒の興味や関心、将来の進路希望に応じて、授業を選択できる。

外国ルーツの生徒は2006年度に初めて3人、以後、毎年のように受け入れてきた。24年度は189人、25年度は200人を超え、全校の62%を占めた。国籍の最多はフィリピンで、ブラジル、ネパールなどが続く。どの国の出身の生徒もそろいのブレザーの制服を着て、学校生活をしている。

近隣の大手自動車関連工場で働く外国人が多く、外国ルーツの子どもの支援体制を充実させたことで、入学希望者が増えたとみられる。土本繁教頭は「学校側が働きかけて受け入れたわけではなく、地域の特性によって自然に需要が高まり、県教委からの支援も充実してきた」と分析する。

東濃高校の校舎
東濃高校の校舎

日本社会で自立できるスキルを

外国ルーツの生徒の受け入れ体制は手厚い。

1年生に2クラス、2年生に1クラスの「国際クラス」を設置し、日本語指導が必要な生徒をサポートする。3年生には国際クラスは無く、どの生徒も一緒に学ぶ編成になっている。高校3年間で日本語で日常生活が送れるように育て、国内での進学や就職を目指す。

職員体制は、外国ルーツの生徒の支援に特化した「国際部」が2022年度に設置され、日本語の授業のマネジメントや保護者連絡などを担う。専任英語教諭は1人、日本語指導の資格を持つ教員1人が在籍する。岐阜県派遣の支援員5人(ポルトガル語2人、タガログ語2人、中国語1人)は1年生を授業中に支援する役割を主に担う。

日本語の授業は、文法や言葉だけではなく、日本で社会的に自立できるスキルを学ぶのが特徴だ。大学の専門機関にも助言を仰いでプログラムを作成し、東濃高校独自の日本語教育を日々模索している。

1年生の「日本語Ⅰ」は日本語の物語の多読を通じて読み書きを学び、2年生の「日本語Ⅱ」は演劇・動画をつくる。3年生の「日本語Ⅲ」は、動画作品を地元の小中学校で披露し、日本語で交流する。外に向けて発表することで、日本社会の一員としての知識と態度を育む効果をねらう。

東濃高校の日本語多読演劇の授業で使うテキスト。学んだ物語を演劇や動画づくりにつなげていく
東濃高校の日本語多読演劇の授業で使うテキスト。学んだ物語を演劇や動画づくりにつなげていく

3年生の授業には、より具体的なキャリア形成を見据えた実践も盛り込まれている。就職活動や進学の際に必要な日本語での志望動機の書き方はもちろん、在留管理局の職員などを面接官に迎えた模擬面接は本番さながらの緊張感で行われる。

生徒の声を反映することもある。和田助教諭は「生徒が学びたい人気のトピックの中に自動車の運転に関する日本語があります」と説明する。「事故を起こした時に日本語で状況を説明できるようになりたい」「片側車線や一方通行などの交通用語を学びたい」。そんな切実な要望から、警察官役の教員を相手にした実演形式の学びも生まれた。

東濃高校の日本語の授業。和田さとみ助教諭(中央奥)が生徒の声に耳を傾ける
東濃高校の日本語の授業。和田さとみ助教諭(中央奥)が生徒の声に耳を傾ける

生徒は「友達みんながそれぞれ国のルーツが違い、いろいろな意見があるから面白い」と笑顔で話す。校内では母語と日本語が日常的に交錯し、生徒たちがお互いに興味や関心を持って学び合う。それが表現や語彙(ごい)を身に付ける近道になっている。

二村文敏校長は「東濃高校はさまざまな国や文化の背景をもつ生徒たちが集い、異なる言語、異なる習慣、異なる考え方が交差しています。この環境が、生徒にとってかけがえのない学びの場であり、大きな成長へとつながる力となっていくと考えています」と力強く語る。

85%が進学か正規職に

教育効果は数字にも表れている。外国ルーツの生徒の卒業後の進路は、進学と正規職への就職が85%。進学と就職はそれぞれ約半数ずつだ。進学は大学の外国語学部や専門学校、母国の大学など幅広い。全国的には日本語指導が必要な外国ルーツの高校生は就職も進学もしないケースが1割、非正規雇用が4割、中退も1割弱とのデータもあるが、東濃高校では多くが希望の進路をつかみ取る。親の勧めで非正規労働に就いたり、中退や帰国したりする生徒もいるが、少数だ。

土本教頭は「外国ルーツの子たちは高校卒業により、日本で正社員として就職できたり進学の道が開けたりします。そうなるように育てるのが、私たちの目標でもあり役目です。高校の教育を通して多文化共生を実現しているのです」と語る。

言葉の壁を越え、日本の社会への適応や進学、就職し、自立した生活を後押しする。こうした先進的な教育内容は2019年度に文部科学省のキャリア教育優良学校表彰を受けた。

外国にルーツを持つ住民が増え続ける日本社会において、同校が実践する実践的な日本語教育は、共生社会づくりを進める他の地域や学校にも参考になる取り組みだろう。

※写真は筆者撮影

※校内の体制、生徒の学年などは2025年度時点

バナー写真:演劇づくりの授業を通して日本語の表現力を磨く東濃高校の生徒たち

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