国連が直面する課題と改革の必要性:日本のリーダーシップに期待―フェルナンデス=タランコ国連事務次長補に聞く

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ニッポンドットコムの赤阪清隆理事長が、来日したオスカル・フェルナンデス=タランコ国連事務次長補(開発調整担当)に、開発をめぐる諸問題と国連改革、国連の場における今後の日本の役割などについて聞いた。

オスカル・フェルナンデス=タランコ Oscar FERNÁNDEZ-TARANCO

国連事務次長補(開発調整担当)。1957年アルゼンチン生まれ。コーネル大学で経済学、マサチューセッツ工科大学で都市計画を学ぶ。国連で開発、平和構築、人道支援に従事し、平和構築のための国際組織インターピースの役員も務める。

SDGsと気候変動問題

赤阪清隆 開発調整担当の事務次長補就任、おめでとうございます。一貫して開発、特に気候変動と密接に関係する「持続可能な開発目標」(SDGs)(※1)に取り組んでこられた。今まさにCOP28(気候変動枠組み条約締約国会議)が開かれているが、(編集部注:インタビューは12月7日に東京で行った)会議の成果に期待することは。

オスカル・フェルナンデス=タランコ COP28がどのような対応をとるか、世界が注目している。超大型台風や酷暑、繰り返される洪水、長引く干ばつ、山火事発生など、急激な変化を感じる。気候変動は、後発開発途上国から途上国、先進国に至るすべての人々に大きな影響を及ぼす。包括的な対応が必要だ。

科学的にみて、われわれの気候変動への取り組みはあまりにも遅い。迅速な行動を起こす合意を望んでいるが、それだけでなく、前回のCOP27で設立が合意された「損失と被害」基金(発展途上国の被害に対する支援基金)の詳細なルールが決まることも希望している。

決まったことをどれだけ素早く行動に移せるかが重要だ。まだ手遅れではないが、時間は限られている。世界の温室効果ガス排出量を劇的に抑えるための政策をつくり、そこに資金を投入しなければならない。技術革新のリーダー的存在である日本をはじめとする国々は、その科学的な知見をエネルギー問題の解決に向けた成果につなげてほしい。

これは「気候正義」(化石燃料をこれまであまり使ってこなかった途上国の方が、気候変動による被害をより被っているという不公平さ)の問題でもある。いかにあらゆる人にクリーンエネルギーをもたらすことができるか。世界全体が再生可能エネルギーにシフトしていくことは不可欠だが、早く進めれば進めるほど将来の世代により良い世界を残せるだろう。地球上の飢えや貧困をなくし、SDGsを達成するためには、気候変動に取り組まなければいけない。実在する脅威だからだ。

赤阪 気候変動への取り組みはもちろん、SDGsの一部分だ。いま、われわれはどのあたりにいるのか? 正しい道にいるのだろうか?

フェルナンデス=タランコ 日本ではSDGsは教育カリキュラムというだけでなく、政策の重要な一部である。SDGs目標は単なる国連の計画ではなく、加盟各国がその政策を通じて達成すべき課題なのだ。それらが貧困問題や気候変動、排除の終結といった現代社会でまさに対応が迫られている課題そのものであることは注目に値する。誰も置き去りにしないことが最も重要だ。女性が対等なパートナーであること、若者にも発言の機会が与えられることは当然だ。

世界で緊張が高まっている現在、国連加盟国がSDGsの重要性を再認識していることはとても大切だが、われわれが良い状態にあるとはとても言えない。目標の半分は達成しているべきところを、わずか15%しか達成できていない。政治的決断や科学的根拠に基づき、勇気を出して実際に行動を起こすことが必要だ。また、迅速・効率的に動く国連が、希望のメッセージを発信し続けることが大事だ。これがわれわれの仕事だ。SDGs達成には、これまでの取り組み方を根本的に変えていかなければならない。

包括的な開発と国連の役割

赤阪 ミレニアム開発目標(MDGs)(※2)では、中国やインドで貧困撲滅がかなり進んだ。SDGsではどこが今、先頭に立って取り組んでいるのか?

フェルナンデス=タランコ インドでいい取り組みが見られるほか、インドネシアやブラジルでも進展している。経済的な成長だけでなく、気候変動の影響に対応できる経済へと変革を遂げている。

SDGsはMDGsと比較するとかなり複雑な構成で、教育や貧困、女性のエンパワーメント、グッド・ガバナンス(よき統治)についても扱う。包括的で持続可能な開発という概念は非常に重要だ。単なる開発ではない。実際のところ、包括的にやればやるほど急速な発展を遂げることが可能になる。民間セクター、財団、市民社会、地方行政、政府といった組織の関係者をテーブルに着かせ、全体を調整する国連の役割がますます増えている。

世界がダイナミックに変化している中、国連はこの役割を果たしていくためにどう変革に取り組むのか、やるべきことは分かっている。国連安保理や世界銀行に変革がなぜ必要なのか? それはこれらの組織が戦後直後に設立されており、現在社会に特有の問題―平和への脅威や気候変動、紛争などさまざまな原因で起きる人の移動など―に、もはや対応できていないからだ。

赤阪 ウクライナ戦争やイスラエルとハマスの戦闘への対応に追われ、国連が進めるべき開発施策は後回しになってしまっているのか? 戦争終結の見込みはあるのか?

フェルナンデス=タランコ 世界は今、地政学的に分断されている。しかし、国連憲章は変わらない価値があり、国連の根幹を成し、国際規範と権利を支持するものだ。国連は人々にとっての希望の光だと私は信じている。加盟国が分裂したとしても、国連は全ての国をひきつけることのできる唯一の機関だ。

一方で、国連は加盟国がこれらの原則を尊重し、自身が署名した協定を順守してこそ存在できる。

戦争の惨害から市民(非戦闘員)を守ることは加盟国の全てが同意しており、この原則は戦争のどちらの側にも適用される。公平であり続けなければならないし、全ての人にこれらの権利があるという事実に注目すべきだ。

国連改革を考える

赤阪 国連の重要性や事務総長の役割は欧州で高く評価されているようだ。米国での評価も高い。米シンクタンク、ピュー研究所の今夏の調査発表によると、国連への好感度は欧州で60~80%、米国で58%。日本はかなり低く40%で、数年前は29%という数字だった。日本では、国連の役割と安保理はイコールと考える傾向にある。安保理が機能不全に陥っているという見方が多いが、日本では安保理改革への期待や恐らく準常任理事国を目指す希望もあると思う。この分野での国連改革の見通しは。

フェルナンデス=タランコ 改革が未実施のままにあるいくつかのテーマについて、国連は再検討を始めている。政府間組織として、開発や人道的対応、平和と安全保障、人権など、どれか一つだけに注目するのではなく、統合的に捉えていく。いま、われわれが対処すべき、より規模の大きい課題に対しては、従来とは異なるやり方が必要だ。

安保理の改革に当たっては、より包括的で、より世界全体を代表する場としてふさわしく、より責任のある場にしていくべきだ。いまの安保理はこれら3つすべてで遅れをとっている。安保理で解決できない問題が、国連総会に送られてくるというのが実態だ。

来年開催予定の「未来サミット」は、安保理改革だけでなく、戦後まもなく作られたブレトンウッズ機関(※3)を改革する重要な機会になるだろう。これらもまた、現在のニーズに対応していない。

世界の多くの国々で国連への評価はかなり低いが、それは人命を救い人権を守るといった国連の活動に価値がないからではない。「加盟国が集まる国連」というのがイメージとしてあり、現場での活動があまり知られていないのだ。実際には、国連にはその両面が存在する。組織としての国連は、変化に向けた選択肢やその展望を示すことしかできない。安保理の機能をまひさせるような相違がある場合、それを埋めることができるのは日本のような加盟各国の動きにかかっている。

日本と国連の今後

赤阪 私自身は、日本はまだ国際社会でより大きな役割を果たせると期待している。しかし、日本人の多くは人口減少と、その影響が経済に及ぶ将来を不安視している。日本は国連の場で、重要な加盟国として認知されていると考えるか?

フェルナンデス=タランコ 戦後の日本が平和を重視し、国連を支援してきたことは、多国間主義に重きを置いてきた外交姿勢を明確に示している。国連は加盟各国と知識、開発経験、技術を共有したいと考えており、気候変動のような課題解決の重要なリーダーとして日本を見ている。日本が国際社会で常に示してきた寛大さや連帯を、現在の世界は必要としている。

これから、世界における効率的な開発目標達成に向けて、日本は重要な役割を担うだろう。国連総会や安保理、経済社会理事会、どの場においてもリーダーシップをとることが重要なことだ。

国連予算の多くが平和維持活動や特別政治ミッションに使われている。これらの平和維持、紛争対応を必要のないものにしなければならない。国連が開発投資を長期的、戦略的に行っていくことができれば、高価な平和維持構築の仕組みを作り上げる必要はなくなっていく。

今、国連の開発調整システムに十分な資金が提供されていない。国連常駐調整官制度への支援や開発システムへの柔軟な資金投入がなければ、各国が一致団結し、効率よくものごとを進め、戦略的な組織へと国連が変化を遂げることは難しい。多国間主義やSDGsを推し進め、平和への対話を図り、紛争を防ぎ、開発を進める上で、日本はさまざまな面において重要なリーダーである。

「人間の安全保障」や「包括的開発」アプローチを通じ、われわれは衝突や不安定さを生み出す要因にあらかじめ対処し、問題の顕在化を招かないよう努力している。そのためには開発へ注力し人々の基本的な生活状況を向上させること、つまり飢えや貧困を終わらせて生計を立て、公平な機会を提供できるようにすること──。それらを念頭に置いた予算執行や決断がぜひとも重要なのだ。

(原文英語。インタビューは東京・虎ノ門のニッポンドットコムで、2023年12月7日に行った。写真撮影:ニッポンドットコム)

(※1) ^ 2015年に国連総会で採択された「30年までに達成するべき」17の世界的目標。この下に169の達成基準が示されている。

(※2) ^ 国連が2001年にまとめた、極度の貧困と飢餓の撲滅など世界が「2015年までに達成すべき」だと掲げた8つの目標

(※3) ^ 国際通貨基金(IMF)や世界銀行などを指す。

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