介護スナック:超高齢化社会の社交場

社会

スナックを「夜の公共圏」とする視点で真面目に研究する学者集団「スナック研究会」の谷口功一・首都大学東京教授が、超高齢化社会に登場したユニークなスナックを紹介する。

普通われわれがスナックという名称から思い浮かべるのは、ドアを開けるとカウンターがあり、ママ(あるいはマスター)がいて、カラオケのある店である。キープしたボトルで水割りを飲みつつ歌うというのがおなじみの情景だろう。

スナックの誕生が、1964年の東京オリンピック開催時の深夜風俗への法的締め付けに端を発するものであることには、おおむね異論がない。カラオケを備えた現在のような形になるのはほぼ80年代以降であり、爾来(じらい)40年近く、夜の巷(ちまた)にネオンをともしてきた。

近年は昼間のスナック街でカラオケが聞こえてくることがあるだろう。「昼カラ」というやつである。店のほうも昼間に店舗を遊ばせておくよりはということで、場合によってはアルコール抜きで、高齢者を中心とするカラオケ客を受け入れている。私の知り合いの店でも、半ばボランティアのような形で、高齢者施設からバスでやって来た団体を茶菓でもてなし、カラオケを楽しんでもらっているという話を聞いたことがある。

要介護者や末期がん患者も

2065年には日本の総人口の3人に1人が65歳以上、そして4人に1人が75歳以上の高齢者になると推計されており(平成29年度政府統計)、わが国の超高齢化は待ったなしの状態にある。そのような中、最近登場したのが「介護スナック」である。その発祥は、神奈川県横須賀市の「介護スナック・竜宮城」で、市の北端に位置する追浜駅から歩いて2分ほどの商店街の中にある。店の外観は、古びた商店街の中では特に目を引くもので少し奇抜でさえある。中に入ってみて詳細な説明を聞かない限り、その第一印象だけが独り歩きしてしまうかもしれない。

介護スナック・竜宮城
介護スナック・竜宮城

実際、私がスナックについて講演する際に、この店について触れると、必ず以下のような2つの反応に出会う。1つは、笑いである。そんなに年を取っても飲みに出たいものか、といった失笑に近い反応である。もう1つは、介護保険を使って飲みに出ているのではないかと眉をひそめる否定的な反応である。ことわっておくが、お客はみな自費で来ている。これらの反応がいずれも狭量さや無理解から生じていることを、以下で説明したい。

店の経営者は地元横須賀で介護関係の事業を多角的に展開する40代前半の青年実業家・佐々木貴也さんである。もともと鍼灸師としてキャリアを開始した佐々木さんは、介護事業で培ったさまざまなノウハウを、このスナックに活かしている。

お客は原則65歳以上で、介助者も一緒に来店することが多いが、介護車両による送迎サービスもある。店内は完全にバリアフリー化されているのみならず、認知症の人が勝手に外に出てしまわないよう入口に暗証番号式のロックが設置されているなど、細かいところに気配りがなされている。トイレは要介護の人のためにオムツ替えもできるしつらえになっている。しかし、店の内装には福祉施設の要素はみじんも感じられず、むしろ華やかな装飾が施されており、お客を楽しませる創意工夫に富んだものとなっている。

グループでも楽しめるボックス席。天井にはミラーボールが回り、普通のスナックと何ら変わるところがない
グループでも楽しめるボックス席。天井にはミラーボールが回り、普通のスナックと何ら変わるところがない

料金は送迎付き、飲み・食べ・歌い放題で8000円。送迎なしだと2ドリンク、1フード付きで3500円
料金は送迎付き、飲み・食べ・歌い放題で8000円。送迎なしだと2ドリンク、1フード付きで3500円

広いトイレは車いすでも利用しやすい。折り畳み式ベッドは要介護者のおむつ替えに使用
広いトイレは車いすでも利用しやすい。折り畳み式ベッドは要介護者のおむつ替えに使用

店のスタッフは、佐々木さんが経営する介護関連事業で働く看護師、介護士、理学療法士などが出張して入る。お客の来店前には家族や施設(老人ホームなど)の職員などと打合せ、飲ませても大丈夫な酒の種類や量を綿密に決めておく。人によっては、誤嚥(えん)が起こらないように、酒にとろみをつける場合もある。間違いが起きないように十全な管理を行った上で、スナックでのひとときを楽しんでもらっているのである。

店の利用者には、要介護5や末期がんのステージⅣの人たちも少なからずいる。家族や友人とスナックで飲むことは2度とないだろうと思っていたような人たちが、万全な受け入れ態勢の下、諦めていた楽しい時間を再び過ごせる場所なのである。

介護ビジネスの発展形

佐々木さんは、このような業態の店を始めた動機について、もし自分の親が外に飲みに出られないような状態になってしまった時を想像し、そんな風になっても、やはり楽しんでもらいたいから、と話していた。「人の手を煩わせる高齢者なのだから、わがままを言わずにおとなしく家にいろ」と言ってしまっていいのか、と。利用者は毎日毎週というわけではなく、何カ月に1度かこの「竜宮城」にやって来る。その心から楽しげな様子を見ると、やりがいを感じるとのことであった。

佐々木さんは、高齢者を食い物にする悪徳業者を排除するため、「介護スナック」という名称を商標登録している。スナックという形態を取ることから風適法とのからみも発生することが予想されたため、地元の警察署などとも綿密な相談をした。しかし何もかもが前代未聞の試みであり、開店までの道のりは決して平坦なものではなかった。この間の話だけでも、ゆうに一冊の本になるだろうなというほど興味深い話であった。

現在では、地元の商工業者の集まりなどでも、「あの介護スナックの人か」と認知度が格段に高まったという。また、介護スナックが全国的に評判になったことで、本業の介護事業へもプラスのフィードバックが大いにあるとのことだった。単なる口先の善意などではなく、極めてすぐれたビジネスマインドを持った経営者によるこの試み、世間にあふれる凡百の起業やイノベーションを上回る刺激的なものだ思ってしまうのは、私だけだろうか。

バナー写真=神奈川県横須賀市・追浜の駅前大通りにある「介護スナック・竜宮城」(© 2019 介護スナック 竜宮城)

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