進化する道の駅:地域のニーズに応える「にぎわいの場」

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ドライバーの休憩施設としてスタートした道の駅。地元の特産品販売に加え、福祉拠点や公共交通の結節点になるなど、それぞれの地域に応じてさまざまな機能が付加されていった。

ドライバーが休憩のために立ち寄る「道の駅」。1993年にスタートし、第1回登録の103駅から2019年には1154駅となり、その数は10倍以上になった。年間利用者数は約2億1000万人(15年)、売上高は約2100億円(同年)に達する。道の駅は主に市町村によって設置され、国に認定された公共施設だが、独立採算を旨としている。運営は、地方自治体、第三セクター、民間企業などが行っている。各駅が創意工夫を重ね企業努力を行った結果が、今日のような隆盛につながったと言える。道路利用者だけでなく、今や地域住民も気軽に立ち寄ることができる「にぎわいの場」となっている。

農産物直売所や温泉が人気

道の駅には、主に以下のような3つの施設がある。

  • 24時間無料で利用できる駐車場、トイレ、休憩所などの「休憩施設」
  • 道路情報を伝える「情報提供施設」
  • 地域活性化の拠点となる「地域振興施設」

「情報提供施設」には案内人が常駐し、周辺の道路情報をはじめ、地元の特産物や観光スポットなどの情報を提供している。こうした施設は高速道路のサービスエリアにはあったが一般道沿いにはなかった。また、ドライバーに対する情報だけでなく、地域住民に対する医療・行政サービス情報も提供している。災害時には、通行可能な道路の情報や被災情報の提供など、防災拠点としても重要な役割を果たす。

道の駅利用者に最も人気があるのは、農産物直売所、特産品販売所、地元食材を用いたレストランなどの「地域振興施設」である。これは道の駅の発足時、山口、岐阜、栃木の3県で実施された社会実験の時から変わっていない。それ以降、道の駅で販売される新鮮な野菜や果物、魚介類などを目当てに、地域内外から多くの人々が訪れるようになった。近年では、農産物直売所を増設拡張する傾向にある。例えば「道の駅 但馬のまほろば」(兵庫県朝来市)では、直売所の売り場面積を2倍に拡張したことで、売上高を3倍に伸ばしたという。しかし経営状況はそれぞれ異なり、利用者が少なく収益が上がらずに赤字に悩む駅が存在するのも事実である。

また、宿泊施設や温泉を設置するなど、「休憩施設」に力を入れる駅も増えている。2018年現在、全国で宿泊施設がある駅は82、温泉入浴施設を備えた駅は143となっている。宿泊、温泉施設を併設する駅は増加傾向にあり、道の駅を拠点にしてその周辺エリアをドライブするスタイルも定着しつつある。

地域活性化の原動力に

ドライバーにとって訪れた地域の魅力を知る窓口となる道の駅だが、来訪者を受け入れる側にとっては地域の中核施設と考えられている。道の駅は過疎化に悩む中山間地域に設置されることが多く、設置する市町村は地域活性化の原動力として大きな期待を寄せている。国では、地域が活力を取り戻す上で大きな役割を果たしている6駅を「全国モデル道の駅」として選定し、その成果を広く周知するとともに、機動力のさらなる向上を支援している。

6駅の中からいくつか紹介しよう。「防災」に対する先進的な取り組みを行っているのが、「道の駅 遠野風の丘」(岩手県遠野市)だ。東日本大震災の被災地の救援、復旧に向かう自衛隊や消防隊、ボランティアの後方支援拠点として機能した経験を生かし、衛星通信設備をはじめとした高度な防災機能が整備されている。また、地元・大船渡の海産物を販売する鮮魚店を新設するなど、被災地の復興にも貢献している。

災害時に自衛隊・救急隊の支援拠点として利用された「道の駅 遠野風の丘」の駐車場(写真提供:道の駅 遠野風の丘)
災害時に自衛隊・救急隊の支援拠点として利用された「道の駅 遠野風の丘」の駐車場(写真提供:道の駅 遠野風の丘)

「道の駅 遠野風の丘」では地元で取れた海産物を販売し、被災地の復興支援に一役買っている(写真提供:道の駅 遠野風の丘)
「道の駅 遠野風の丘」では地元で取れた海産物を販売し、被災地の復興支援に一役買っている(写真提供:道の駅 遠野風の丘)

「道の駅 もてぎ」(栃木県茂木町)では、運営主体が設置した特産品加工所で、地元産のゆずやいちごを使った加工食品や特産のエゴマを使用した「えごまオイル」などさまざまな商品開発を行い、「もてぎ手づくり工房」というブランドで販売。こうした6次産業化(※1)を進めることで町全体の産業振興に寄与している。

「道の駅 川場田園プラザ」(群馬県川場村)は、農業を観光資源として捉え、「農業プラス観光」の視点から農業体験ツアーや郷土料理教室などを開催している。多くの村民が指導者として参加することで、同駅は村民と来訪者の交流の場となっている。人口わずか3700人の村ながら、今や年間約120万人が来訪する、リピート率7割の人気施設となっている。

(※1) ^ 農林水産業などの1次産業が食品加工・流通販売を行うなど経営の多角化を図ること。

地域の生活拠点として

道の駅には、地域の課題を解決するためのさまざまな機能がある。国はそうした機能をさらに高めるため、その課題に取り組み、成果を上げている優れた駅を「特定テーマ型モデル道の駅」として選定し、支援も行っている。第1回のテーマは「住民サービス」(2016年、6駅)、第2回は「地域交通拠点」(17年、7駅)である。

「住民サービス」部門に選定された「道の駅 両神温泉薬師の湯」(埼玉県小鹿野町)は、駅内に高齢者生活福祉センターがあり、1日当たり20人の高齢者がデイサービスを利用している。駅内にバスの停留所があり、交通手段を持たない高齢者も手軽に利用できるという。年間に延べ7万4000人が利用する温泉施設は、旅行者だけでなく地域の高齢者をはじめとする住民にも人気で、地域住民のサロンともなっている。農林産物直売所は住民の買い物の場だけでなく、農林産品を出品する高齢者の生きがいの場でもある。

「道の駅 両神温泉薬師の湯」の温泉施設(写真提供:小鹿野町観光協会)
「道の駅 両神温泉薬師の湯」の温泉施設(写真提供:小鹿野町観光協会)

「道の駅 酒谷」(宮崎県日南市)では、道の駅で販売した農産物や特産品の売り上げ収益を「酒谷地区むらおこし推進協議会」に還元することにより、高齢者の見守り活動も兼ねた弁当宅配や、農作物の集荷代行などの住民サービスを行っている。

かやぶき屋根が特徴的な「道の駅 酒谷」の外観(写真提供:日南市観光協会)
かやぶき屋根が特徴的な「道の駅 酒谷」の外観(写真提供:日南市観光協会)

「地域交通拠点」部門に選定された「道の駅 吉野路黒滝」(奈良県黒滝村)は、路線バスとコミュニティーバスの乗り継ぎ場所となっている。路線バスの利用者には、自治体の補助により往復乗車券を無料で支給。鉄道も路線バスも通っていない地域に暮らす住民は、同駅があることで村外にある病院や高校、スーパーに行くことができる。

「道の駅 吉野路黒滝」の敷地内にあるコミュニティーバス(左)と路線バス(右)の乗り継ぎ所(写真提供:NPO人と道研究会)
「道の駅 吉野路黒滝」の敷地内にあるコミュニティーバス(左)と路線バス(右)の乗り継ぎ所(写真提供:NPO人と道研究会)

「道の駅 上品の郷」(宮城県石巻市)では、路線バスの縮小に伴い、地域住民の代表者で組織する「住民バス運行協議会」が住民バスの運行を開始し、道の駅を中心にバスルートが設けられた。駅のバス停に隣接する待合所には地元の高齢者が集まり、これが地域の憩いの場ともなっている。

「道の駅 上品の郷」にあるバス待合所(写真提供:NPO人と道研究会)
「道の駅 上品の郷」にあるバス待合所(写真提供:NPO人と道研究会)

2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、道の駅にはさらなる役割が期待されている。訪日旅行者に、道の駅を通してそれぞれの地域の文化を知ってもらおうというものだ。温泉に入ってもらうのもいい。特産物を味わってもらうのもいい。道の駅を宿泊拠点にしてドライブを楽しんでもらうのもいい。訪日旅行者向けに、紙すき体験を通じてその地域の文化を伝える取り組みを始めた道の駅もある。道の駅がスタートしてから四半世紀。その“進化”は止まりそうにない。

バナー写真=年間120万人が訪れる「道の駅 川場田園プラザ」(写真提供:株式会社川場田園プラザ)

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