これが最新の「日本流バレンタインデー」 小中の女子たちは“友チョコ”作りで勝負!

社会

2月14日は「バレンタインデー」。日本のそれはお隣り中国や欧米のような「恋人たちの日」とは違い、ほとんど「チョコレートの日」だ。なぜそうなったかというと、1950年代後半に日本の有名メーカーがチョコの販売拡大のため「バレンタインデーには女性から好きな男性にチョコを贈ろう」というプロモーションを仕掛け、これが定着したためというのが有力だ。(デパートが仕掛けたなど諸説あり。)

年に1度の告白チャンスから“変質”

かつて、日本の女子たちの間でバレンタインデーは「好きな男の子にチョコを贈り、好きだと告白する日」を意味した。その頃の様子を人気アイドルグループAKB48のプロデューサーとして有名な秋元康が作詞し、1986年に当時の人気アイドルが歌った“神曲(かみきょく、優れた楽曲を称賛する意味で使われるネット用語)”「バレンタイン・キッス」は、今でもバレンタインデーネタのテレビ番組などで大いに使われる。

その歌詞にあるように、あの頃、バレンタインデーはシャイな日本の女の子が「一年に一度、女の子から好きな男子に告白するチャンス」の日だった。本命の男の子にあげるチョコは「本命チョコ」。その他、男の友達やお世話になっている人に仕方なくあげるチョコは「義理チョコ」と呼ばれて区別され、学校だけではなく社会人の間でも女性社員が会社の同僚や上司などに「義理チョコ」を用意することも定着した。ちなみにバレンタインデーにチョコをもらった男子は3月14日のホワイトデーにお菓子などをお返しするのが定番だ。

ただこうした日本流バレンタインデーの形は最近になって大きく変化し、小中学生の女の子たちの間では、仲良くしている同性を中心とした友達にチョコ、またはクッキー、タルトなどのチョコ系菓子を配る「友(とも)チョコ」の市場がぐんと広がった。普段はお菓子作りをしない小さな女の子でも母親などの手を借りつつ、一生懸命「友チョコ」を作る。いまや、日本の女の子たちは「友チョコ」経験でお菓子作りを覚えるといっても過言ではない。かわいらしい見栄えが勝負なので、子供たちをサポートする親も必死だ。

スーパーマーケットでは1月半ばからバレンタインデー商戦が始まり、出来合いの箱入りチョコと並んで「友チョコ」手作り用の材料や華やかなリボンや箱と言った包装グッズなどが大量に販売される。女の子たちはあれこれ工夫を凝らして、オリジナルの「友チョコ」作りを目指す。必要な材料がそろった「簡単手作りキット」も人気だ。

もちろん、小中でも好きな男の子がいる女の子たちはその人だけに特別なチョコを用意し、「友チョコ」や「義理チョコ」との違いをアピールする。日本では幼稚園や小学校でも“彼氏”“彼女”がいる子がちらほらいて、そういう子たちは周りから「あの子は“リア充(りあじゅう)”だから……」なんて言われたりする。“リア充”とは「リアル生活充実派」の意味、元々は引きこもりがちでリアル(現実)とアニメなど2次元世界に乖離(かいり)が大きいオタクの世界の用語だ。日本の小さな子どもたちも水泳、ピアノ、そろばんなど習い事にはそこそこ忙しいが、“彼氏”“彼女”と浮ついた時間を過ごす余裕がある、といった感じか。

バレンタインデーのチョコレート売り場=撮影編集部
バレンタインデーのチョコレート売り場=撮影編集部

バレンタインデーのチョコレート売り場=撮影編集部
バレンタインデーのチョコレート売り場=撮影編集部

学校では手渡すタイミングに難しさ

しかし、幼稚園や小中学校に通う子供がこの日に友達や好きな子にチョコを渡すには難題がある。「幼稚園や学校はチョコの持ち込み禁止」だからだ。

子供たちは普段から「学校や幼稚園に関係ないものは持ち込んではいけない」と先生にも親にもきつく言われている。それでも、一度家に帰ってからまた友達に会いに行ったり、呼び出したりするのは大変なので、この日だけはこっそりとチョコを持って行き、親や先生たちもそれを黙認する。いかにも建前と実際が異なる日本的なやり方だ。

幼稚園ではお迎えの親がチョコを持参して、園の近くの公園や路上で「友チョコ」交換会が大々的に繰り広げられることもある。そのスタイルを知らない親子は取り残され、気まずい思いをするという。

ちなみに私には小学5年生の娘と中学3年生の息子がいる。娘の担任の先生は20代のイケメンで一昔前だったら先生に憧れてチョコを渡そうとする女子がたくさんいそうだが、そんな先生でも今どきの学校ではチョコをあげる子がいないらしい。「友チョコ」が普通になった今、女の子同士のイベントにわざわざ大人、しかも先生を絡めるのは面倒だ、ということだろう。

息子の中学校は校則が厳しいことで有名で、学校にチョコを持ち込むことはもちろん禁止。担任の先生がわざわざ「え~、明日はバレンタインデーだけど、くれぐれも学校にチョコを持ってこないこと!」と釘を刺すらしい。持ち込んだことがバレたら最後、せっかく頑張って作ったチョコが没収されてしまう。そもそも、この中学校では毎年バレンタインデーのあたりに定期テストが組まれているので、真面目な生徒たちは友チョコを作る余裕がない。この辺は「浮かれてんじゃないぞ!」と生徒たちを戒める先生たちの策略だろう。

小中学生など若い子たちの世界における最新バレンタインデー事情を紹介してきたが、大人の世界のバレンタインデー市場もなお健在だ。デパートやスーパーのバレンタインコーナーにはさまざまなメーカーの箱入りの高級チョコや趣向を凝らしたチョコが大量に並ぶ。価格はトリュフやデコレーションしたチョコが3つほど入った小箱で300円程度から。素材にこだわった生チョコや、抹茶入り、日本酒入り、味噌入り(!)といった和風の個性派もあって見ているだけでもワクワクする。

「自分へのご褒美」として「自分チョコ」を買う女性も少なくない。男性から女性に贈るパターンは「逆チョコ」と呼ばれている。納豆や醤油、栄養ドリンクや薬をまねたパッケージにしゃれの利いた言葉が添えられた「おもしろチョコ」は昔から一定の「義理チョコ」需要がある。仲のいい男子やおやじギャグ好きな上司などに贈ってネタにしてもらうといった感じだ。

世界とは全く違うガラパゴス的進化を遂げた日本のバレンタインデー。デパートやスーパーでの商戦は毎年ほぼ「春節」(旧正月)前後に繰り広げられるので、外国人観光客の最大勢力である中国の人たちにも、日本を訪れる際にはぜひその雰囲気を味わってもらったらどうだろう。和風なデザインに加えて国際的な人気キャラクターであるポケモン、ドラゴンボールなどの絵が入ったチョコも多数ある。時期的にも、国際的なユニークさから言っても、日本土産として渡すのにピッタリかもしれない。

バナー写真:女性でにぎわうチョコ売り場=2019年2月(時事)

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