ラグビーワールドカップ2019日本大会、キックオフへ

「日本らしさ」を楽しむラグビーW杯:チケットデザイン発表

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ラグビーW杯日本大会のチケットデザインは、躍動感溢れるプレーを武者絵で描いた3パターン。「今まで見たことのない」会心のデザインは、どのように生まれたのか——。

2019年9月20日に開幕する、ラグビーワールドカップ(W杯)2019日本大会のチケットが発表された。
デザインは、青、紫、赤をベースにした3種類。ステップを切る、ハンドオフでタックルを交わす、パスを送る。そんな躍動感あふれるプレーを、浮世絵の一種「武者絵」の手法で描いている。

チケットは3種類。青は「規律」、紫は「尊重」、赤は「情熱」を表現している
チケットは3種類。青は「規律」、紫は「尊重」、赤は「情熱」を表現している 写真:ラグビーワールドカップ 2019 組織委員会

「2019年大会は日本だけでなくアジア初のラグビーW杯であり、大会キャッチコピーも『4年に一度じゃない。一生に一度だ』です。このコピーにふさわしいチケットを作りたいと考えました」

ラグビーワールドカップ2019組織委員会チケッティング部の三好美紀子部長は、そう振り返る。

テーマを検討する過程で、過去のラグビーW杯のチケットはもちろん、サッカーのW杯やオリンピックなど、国際的なスポーツイベントのチケットデザインも調べ、参考にした。

例えば前回イングランド大会のチケットは、ジョニー・ウィルキンソンなどラグビー界のレジェンドの写真をモチーフにしている。品がいい一方で、肖像権をクリアするのには苦労したという。多くのチケットを知るほど、これまで見たことのないものを作りたいという気持ちが強くなったと三好部長は言う。

チケットデザインについて語る三好部長
チケットデザインについて語る三好部長

チケットのデザインにこだわる理由が、実はもう一つあった。
「以前、トップリーグの試合のもぎりで、『チケットがちぎれてしまった』とクレームを受けたことがあったんです」

聞いてみると、その男性はこれまで観戦した全ての試合のチケットを大切に保存しているという。彼にとっては、チケットショップで発券された“普通の”チケットも、1枚1枚が大切な宝物だったのだ。

「その時初めて、チケットをこれほど大切な思い出にされている方がいらっしゃると知りました。ましてや今回はW杯です。ぜひ記念に残しておきたくなるチケットを、と力が入りました」

そして2018年の夏、デザイナーも加わって本格的にチケットの制作がスタートした。三好部長がまずリクエストしたのが、「日本らしさ」だった。
「“一生もの”になるような、伝統と革新が感じられるユニークなデザインをお願いしました」

日本らしいチケットを——。
その願いは三好部長だけでなく、スタッフの総意でもあった。

明治記念館で行われたチケットデザイン発表会
6月17日に明治記念館で行われたチケットデザイン発表会

富士山、水引、ゴールポスト

チケットのデザインに携わるのは、大会の組織委員会とデザイナーだけではない。
ラグビーW杯を主催する「ワールドラグビー」と綿密に連携を取り、制約を守りながら基準をクリアして承認を受ける必要がある。

いくつか挙げると、

  • 開催国のチームや選手に特化してはいけない。
  • 1チームに偏ってはいけない。
  • 偽造防止のホログラムなど、セキュリティー要件を満たす。
  • 対戦国や会場など必要情報は、日英2カ国語を併記する。

など、かなり細かい。

使用できる色や模様も、大枠が決められている。
メインとなる色は、ラグビーの核(コアバリュー)とされる規律、品位、尊重、情熱、結束を象徴する青、水色、紫、赤、黄色のいずれか。アクセントに用いる地紋は、唐草や亀甲、鹿(か)の子などの文様をアレンジした12種類の「ラグビーパターン」と、大会ロゴにもあしらわれた富士山とライジングサンを融合させた「ユニティグラフィック」を使うことが推奨されている。

屏風(びょうぶ)をイメージして、ラグビーのピッチと日本伝統の文様、富士山と太陽を融合させたユニティグラフィック。ラグビーW杯日本大会のキービジュアルとなっている 写真:ラグビーワールドカップ 2019 組織委員会
屏風(びょうぶ)をイメージして、ラグビーのピッチと日本伝統の文様、富士山と太陽を融合させたユニティグラフィック。ラグビーW杯日本大会のキービジュアルとなっている 写真:ラグビーワールドカップ 2019 組織委員会

すでに大会ポスターやオフィシャルグッズなどで見慣れたユニティグラフィックも、一つ一つのデザインに意味がありおもしろい。
例えば富士山の上、デザインの中央に配置された日の丸は、2019年のラグビー界で日本が中心になることを示し、富士山の内側には結束を意味する日本の伝統的な帯紐「水引(みずひき)」があしらわれている。

日本らしい文様には、ゴールポストやピッチ上の各種ライン、皮で作られていた頃のボールの縫い目など、ラグビーに関連したアイコンがさりげなく使われており、一つでも多く見つけようと目を凝らしたくなってしまう。
もちろん、今回のチケットでも散りばめられている。

歩道の配電地上機器を飾るラグビーW杯のポスター。公式マスコット「レンジー」の背景にも、ユニティグラフィックが使われている。
歩道の配電地上機器を飾るラグビーW杯のポスター。公式マスコット「レンジー」の背景にも、ユニティグラフィックが使われている

「見た瞬間、これだと思った」

プロジェクトがスタートして数カ月後、2018年が終わろうとする頃に、デザイナーからいくつかの素案が組織委員会に届けられた。

筆で書いた文字を使ったもの、アニメをイメージしたもの、日本らしさを抑えたオーソドックスなものなど数種類あったが、三好さんはじめ、チケッティング部のメンバーが「見た瞬間、これだと思った」のが今回の武者絵だ。
「日本の伝統文化を表現しつつ、ラグビーの躍動感や迫力が伝わってきましたし、日本らしい浮世絵のタッチもすてきでした」(三好部長)

もともと、武者絵は戦国時代の英雄を描いたもの。W杯で戦う代表選手たちはそれぞれ自国のヒーローであり、大会イメージに重なった。
一見日本人を描いたように見える選手も、ダイバーシティの視点を取り入れ、デザインごとに髪や肌、目の色が少しずつ異なっている。なかでも髪の毛は、1本1本デザイナーが細かく描きこんだというこだわりぶりだ。

デザイナーはラグビーの経験はなかったが、試合のビデオを繰り返し見るなど研究を重ね、武者絵で表現するのにふさわしいシーンを選んだという。

その後、当初は青色のみだったベースの色に、赤と紫が加わり、デザインは3種類に増えた。
金色の雲も、金屏風をモチーフに後から取り入れられた。
「日本では、金屏風は晴れ舞台で使われるもの。W杯も世界の晴れ舞台ですからぴったりです。金色が入って、デザインの完成度がより高くなったと感じました」(三好部長)

チケットは「オリジナルウォレット」に入れて発送される。こちらにも金屏風の雲やユニティグラフィックがあしらわれている
チケットは「オリジナルウォレット」に入れて発送される。こちらにも金屏風の雲やユニティグラフィックがあしらわれている 写真:ラグビーワールドカップ 2019 組織委員会

「金なんですか!?」

紙や印刷にもこだわっている。
初めは日本らしく和紙でと考えたが、大量に印刷し、試合当日は機械で読み取るというオペレーションの観点からは難しい。できる限り和紙のテクスチャーを残しつつ、機能性も満たす紙を見つけ、印刷会社にはデザインに対する思い入れを徹底的に伝えた。

「金なんですか!?」
デザインを見た瞬間、印刷会社の担当者はそううなったというが、デザイナーやスタッフが納得するまで何度も試し刷りを繰り返し、会心の出来に仕上がった。

最終決定には組織委員会やワールドラグビーだけでなく、他にもさまざまな関係者の承認が必要だが、大きな反対はなかった。日本人だけでなく外国籍のメンバーからも「これはいい」と声が上がるほどの支持を得て、この春、武者絵のチケットが完成した。

チケットの配送は7月下旬から順次始まる。
残念ながら電子チケットで申し込んでいた場合、紙のチケットに変更はできない。
「その場合は、ぜひもう1枚申し込んでください」と三好部長は笑う。
3種類、どのチケットが発券されるかはお楽しみだが、複数枚購入すれば、別の種類が手に入る可能性は高いという。

電子チケットは持っているけど、追加で紙のチケットを買おうか——。そう逡巡する声が聞こえてきそうな、日本らしいすてきなチケットのお目見えだ。

武者絵タッチのチケットと連獅子がモチーフのレンジーが共演
武者絵タッチのチケットと連獅子がモチーフのレンジー

写真=ニッポンドットコム編集部
(バナー写真=武者絵のタッチで描かれたラグビーW杯のチケットデザイン 写真:ラグビーワールドカップ 2019 組織委員会)

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