到来!タピオカドリンクブーム(上)——目指せ台湾の誇り、東京・自由が丘で創業

暮らし

タピオカドリンクブームが席巻する中、メイドイン台湾にこだわる「MR TAPIOCA」と舞台裏の「台湾」に注目する。

日本中がブームに沸く

人口減の日本では、昔のようにあまり行列をみかけなくなった。ところが近頃、街のあちらこちらで行列を見かけることが多い。学生ら若者たちが街に繰り出す夕刻ごろになると、警備員が交通整理を始めるほど道路に行列が溢れ出す。土日や祝祭日はさらに、人の列が長くなる。

長蛇の列の先にあるのは、今話題の「タピオカドリンク店」だ。

店から出てきた人は、液体の入ったプラスチック製の透明なカップを片手に、通常よりも倍くらいの太さのストローから黒くて丸い粒を吸い上げ、口をもぐもぐとさせている。携帯を取り出し、店前でカップと一緒にポーズを取る人も少なくない。みんな嬉々としていて、どことなく誇らしげに見える。

日本中に広がったタピオカドリンクブームは、雑誌やネットで紹介されるだけでなく、人気テレビ番組「マツコの知らない世界」でも、「タピオカドリンクの世界」というタイトルで特集が組まれるほどの加熱ぶりだ。

東京は、多くの若者が集まる新宿や渋谷付近を筆頭に、子育て世代が増えている新小岩や町田でも、オープンラッシュが続いている。私の自宅近くには、カフェや雑貨屋が多く、おしゃれスポットとして有名な自由が丘という街がある。新宿や渋谷に比べれば街の規模はだいぶ小さいが、タピオカドリンクの波は押し寄せている。「こんなところにも!」と、ビルの合間の驚くような狭いスペースに店ができたと思えば、駅近くの立地の良い場所に、堂々と店を構えるチェーン店もあり、タピオカドリンク店は百花繚乱だ。

メイドイン台湾にこだわる「MR TAPIOCA」

その自由が丘の裏通りで、たまたま移動販売のキッチンカーを見つけた。目に飛び込んできたのは、ブラックボードに記された店名の「MR TAPIOCA」と「台湾」の文字だ。近づくと「台湾式バブルティー 味はとても牛逼(ニュービー)です」とも書いてある。「牛逼」とは、ネットスラングで“超”や“すっげー”のような意味として使われる言葉だ。

「店長さんですか?」

牛逼を使いこなせる日本人なら、かなりの中国語通に違いない。買う予定のなかったキッチンカーの横に立っている若者の男性に声をかけた。

「僕は違います。キッチンカーの中にいる人が店長で、台湾人です」

のぞき込めば、大きな容器からタピオカをすくい出している男性が一人いる。なかなかのイケメンだ。

「MR TAPIOCA」の謝文森店長と筆者(筆者提供)
「MR TAPIOCA」の謝文森店長と筆者(筆者提供)

少しはにかみながら自己紹介してくれた店長は、今年30歳になる台湾の苗栗出身の客家人・謝文森さん。最初に応対してくれた日本人の友人が接客を担当し、2人で店を切り盛りしていると言う。

謝さんは台湾で薬学部を卒業し、薬剤師として病院で勤務した経験もあるが、日本好きが高じて、日本に語学留学にやってきた。語学学校での勉強を終え、そのまま台湾に戻るのが惜しくなり、「もう少し日本に滞在したい」と願った。一般企業に勤務できるほど、日本語は流ちょうではない。台湾らしい何かで起業しようと考え、「タピオカドリンク」にたどり着いたという。

実は謝さんが「タピオカドリンク」の店を開こうと考えたのは、現在のタピオカドリンクブームよりも2年も前のことだった。一日も早くオープンしたいとは思ったが、素人でもあり、真面目な性格なので、いったん故郷の台湾に戻り、お茶とタピオカについて専門家に師事を仰ぐことにした。

台湾ですら、多くのチェーン店はコスト削減のため、安価な東南アジア産の茶葉やタピオカを使用していることにがくぜんとした。だから、すべてメイドイン台湾にすることが、謝さんのポリシーになった。

「茶葉は全て台湾のものを使い、タピオカは台湾から冷蔵品を輸入しています」

薬剤師としての謝さんの血が騒いだのだろう。体に取り入れるものなら、より安全で、体にいいものを揃えることにした。

話を聞いていると、続々とお客さんが集まってきてオーダーが入った。謝さんは慌ててキッチンカーに戻り手際よく作り始める。

店名シールが貼られたプラスチックボトルの口に漏斗を刺し、準備したタピオカを入れていく。オーダーに合わせ、ミルクや台湾烏龍茶、台湾緑茶、台湾紅茶などを注ぎ入れ、完成だ。話しかける隙もないほど真剣なまなざしで作業する姿は、薬剤師が調剤を行なっているようにも見えた。

全ての工程を一人でさばく。一日の生産量には限界があり、量産できないのが悩みだと言うが、手作りこそ、謝さんのこだわりでもある。

店の看板メニューは今流行中の黒糖タピオカミルクティー。早速注文し、出来たてを味わってみた。おお、と唸ってしまった。芳醇(ほうじゅん)な黒糖の香りが口全体に広がり、ストローから放出されるタピオカは良質な材料であることが分かる豊かなモチモチ感で、とても濃厚な味わいだ。

正直、私にはちょっぴり甘いが、育ち盛りの若者なら、これくらいの甘さがないと物足りないのだろう。体重計が気になる私には、台湾緑茶のタピオカドリンクがいいかもしれない。クリアなお茶色のはずが、ボトルの中の液体は白濁している。お茶と氷がしっかりとシェイクされた結果、細かい泡がたくさん生み出され、いわゆる「泡沫茶」状態になっている。

口に含むと茶葉の渋みと甘みが程よくブレンドされ、すっきりとした喉越しでゴクゴクと楽しめる。個人的にこれからの暑い季節には、お茶本来の味がより強く出ている、ミルクなしのタピオカドリンクをすすめたい。

目標は台湾を象徴するようなタピオカドリンク店になること

「全てのドリンクは黄金比で作っています」

多くのタピオカドリンク店は、アイスを注文する場合氷入りだが、「MR TAPIOCA」のタピオカドリンクはアイスなし。甘さの調整も規定の一種類のみ。一切のカスタマイズ不可に少し不満を感じたが、これも謝文森さんのこだわりだった。多くのタピオカドリンクを飲み比べた結果、茶葉やミルクティーとして一番おいしく感じられる濃度と糖度に調合してあると言うのだ。

「親からは大反対されました。資金援助もないから、路面店を持つことはまだまだ先になりそうです。でもいつかもっと大きな店にしたいです。」

私も歯科医師でありながら、役者や作家として活動している。周囲からは「なんで?」「もったいない」などと言われ続けた時期もあり、理解を得るのに苦労した。謝さんも私と同じ気持ちに違いない。仕事はやりがいと好き嫌いが最も大切。しかも、タピオカドリンク作りは理系の謝さんに合っているのかもしれない。一心に仕事に打ち込む彼の姿に、私は自分の思いを重ねた。

「MR TAPIOCA」は2019年の2月にオープンしたばかりだが、周囲には11軒(19年6月末時点)もの同業者が林立している。そのうち6店舗が「MR TAPIOCA」同様、今年に入ってから自由が丘に出店した。毎月1軒のペースで増えていることになる。自由が丘はタピオカドリンク店の激戦区だ。

謝さんはタピオカドリンクブームの到来に驚きつつも、日本における台湾の食文化の広まりを実感し、喜んでいた。

自由が丘にあるタピオカドリンク店は、日本で最も多くの店舗数を持つ行列の絶えない人気店「貢茶(Gong cha)」やインスタ映えで有名な「THE ALLEY鹿角巷」 「茶咖匠」のような話題の店もある。自由が丘にしかない「茶工廠」など、バラエティー豊かだ。どこも行列ができているが、私は行列に並ぶのが苦手なため、その時々に列がいちばん短い店のタピオカドリンクを買うようにしている。

「THE ALLEY鹿角巷」(筆者撮影)
「THE ALLEY鹿角巷」(筆者撮影)

謝さんの「MR TAPIOCA」は、いまのところ1日70杯が精一杯だと言うから、原価割れしていないか心配だ。それでも、近所に住む子連れの親御さんらの間では、成長期の子供のために、ノンカフェインの「タピオカミルク」をわざわざ買いにくるなど、徐々に認知度は広まってきている。

「路面店を開き、台湾を象徴するようなタピオカドリンク店にしたいです」

謝さんと「MR TAPIOCA」の挑戦は始まったばかりだ。

「MR TAPIOCA」のキッチンカーと謝文森店長(筆者撮影)
「MR TAPIOCA」のキッチンカーと謝文森店長(筆者撮影)

バナー写真=「MR TAPIOCA」の看板とタピオカドリンク(筆者撮影)

台湾 流行 タピオカドリンク