到来!タピオカブーム(下)「台湾発」の飲料なのに、日本で台湾の影が薄い理由

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タピオカドリンクブームに沸く日本。小籠包やパイナップルケーキのように台湾を代表する「食」として定着するのだろうか。タピオカとドリンクの歴史、日本との関わりについて紹介する。

台湾人の柔軟さと大胆さがタピオカドリンク開発にも反映

日本ではタピオカドリンクについての話題に事欠かない。テレビのワイドショーなどほとんどが好意的にブームとして取り上げているが、最近ではドリンク1杯につきご飯1膳分ぐらいあるカロリーの高さや、路上に捨てられるゴミ問題を指摘する報道も見かける。それだけ、日本人にとっては、タピオカドリンクとの出会いは驚きに満ちた「未知との遭遇」だったのだろう。

タピオカドリンクの元祖は、台湾で発案された「タピオカミルクティー」だ。タピオカ自体はもともと台湾で食べられてきたが、「タピオカ」と「ミルクティー」を合わせたころが大ヒットとなった。最初に考案したのは、台中の飲料店「春水堂」と言われているが、台南の飲料店「翰林茶館」という説もある。いずれにせよ、そのスタートは1980年代中期と意外に新しい。

私が台湾で暮らしていた1970年から80年代初頭には、どこにも見かけた記憶がない。ところが、現在の台湾では、一本の通りに、タピオカドリンクを販売するスタンドが何軒も連なっている。いつでも、どこでも、誰でも気軽に注文して飲むことができる国民的な飲料になっているのだ。

多くの店舗が共倒れにならず、共存共栄が可能になっているのは、商品開発における台湾人の発想の柔軟さと大胆さがあるからだろう。定番のタピオカミルクティーだけではなく、タピオカ関連のドリンクメニューが驚くほど多彩で、店同士がいかに特徴や個性を出すかで競い合っている。

ベースとなるお茶の種類だけでも、紅茶や鉄観音、龍井茶、普洱茶、烏龍茶などさまざまな中国茶を選ぶことができる店もある。レモン、パイナップル、オレンジ、イチゴなど、お茶以外の生ジュースをベースにしたタピオカドリンクも多い。

トッピングもバラエティに富んでいる。一番人気のタピオカ以外にも、ナタデココやアロエ、こんにゃくゼリー、仙草ゼリー、小豆、緑豆なども選ぶことができる。季節よってはマンゴーやタロイモも出現する。

私は台湾を訪れるたび、未知なる味にチャレンジしているが、最近注文したのは「檸檬多多綠加珍珠和布丁/微糖/去冰」だ。日本語に訳せば「緑茶ベースにレモンジュースとヤクルトを入れ、トッピングはタピオカとプリン、甘さ控えめの氷なし」となる。「緑茶」「レモン」「ヤクルト」の組み合わせは決しておいしそうには思えないが、実際に飲んでみると、レモンとヤクルトの酸味が合わさり、緑茶がいつもよりさわやかな味わいになっている。ストローから吸い上げるもっちりとしたタピオカとつるっとしたプリンの食感も病みつきになる。

プリン入りのタピオカドリンク(筆者撮影)
プリン入りのタピオカドリンク(筆者撮影)

こうした複雑な注文は、日本人からするとメニューの前で思わず考え込んでしまいそうになるが、台湾人は慣れたもので、自分好みにカスタマイズしたオーダーを繰り出し、注文を受ける方もテキパキとさばいているからすごい。

タピオカビジネスが急成長

実はタピオカ自体は日本に1990年代に上陸していた。当時は、小粒の白いタピオカをココナッツミルクのなかに入れ、スプーンですくって食べるデザートの一品だった。その後、日本における台湾旅行ブームやインスタグラムなどのSNS効果が相まって、今日のブームとして一気に開花している。

タピオカの売りであるモチモチ食感の正体はどこにあるのだろう。タピオカの原料は、中南米原産で16世紀にアフリカから世界に広まった「キャッサバ(和名:芋の木)」だ。熱帯地域で栽培されるキャッサバの根茎の部分から製造したでんぷんがタピオカの元になる。

現在、全生産量の半分がアフリカで、残りの4分の1ずつが東南アジアと中南米で作られている。アフリカでは「フフ」と呼ばれるキャッサバのでんぷんを餅状にしたものが伝統的な主食となっている。ブラジル生まれで、私も大好きなポン・デ・ケージョもキャッサバのでんぷんを材料としている。

製造直後のタピオカはほぼ無味無臭の半透明だが、黒糖やフルーツシロップで甘味を出したものや、ピンクや青色の食用色素を加えてカラフルに仕上げたものなどが登場している。タピオカドリンクは、空いた小腹を埋めるおやつにもなる。モチモチした独特の食感に多くの人が感動し、人気は台湾国内から香港や中国、米国へと海を渡って広がり、とうとう日本にもやってきた。

成長するタピオカビジネスの裏側で、心配なことも起きている。キャッサバに加工でんぷんを加えたタピオカも少なくないという。工業用に使われる添加物を混ぜる業者が過去に台湾で摘発された。中国でCTスキャンを受けた中国人の胃から映し出された白い粒の正体が、ゴムやタイヤを原材料として作られた偽のタピオカだと判明したこともある。いずれも一部の悪質な業者がやったことではあるが、タピオカのイメージを低下させる不祥事が今後増えないことを願いたい。

日本では、タピリスト、タピラー、タピ活、タピオカ女子など、タピオカに関する造語が続々と誕生している。タピオカドリンクを飲むことを表現する「タピる」という言葉は、「JC・JK(女子中高生)流行語大賞2018」コトバ部門で1位を獲得している。

スーパーで売られているタピオカ(筆者撮影)
スーパーで売られているタピオカ(筆者撮影)

日本に根付くタピオカ文化

タピオカドリンクの流行には台湾に対する良好なイメージが大いに関係しているのではないだろうか。日本では2011年の東日本大震災以来、巨額の義援金を送ってくれた台湾への関心が高まり、台湾ブームが続いている。現地で味わったタピオカドリンクのおいしさを忘れられない人も多いだろう。ただ、台湾の思い出に支えられたタピオカドリンクも、いつかは飽きられてしまう。一過性のブームに終わらないように日本向けの商品開発も大切だ。

(筆者提供)
(筆者提供)

日本の和菓子でも、クズやワラビ、カタクリの根などから製造されるでんぷんが利用されてきた。もち米を原料とした求肥や白玉、すあまのような、モチモチした食感の和菓子は少なくない。そうした和菓子の素材もタピオカドリンクのトッピングにしてはどうだろうか。ベースのドリンクには抹茶や煎茶など日本のお茶を加え、抹茶ラテのように和風のタピオカドリンクの登場を期待したい。

台湾で生まれたタピオカドリンクだが、現在、私の見たところでは、日本全国で大々的に展開しているタピオカドリンク店の半分以上が実は台湾資本ではない。台湾で創業されたブランドを韓国企業が買収し世界展開しているチェーン店や、中国大陸資本の店、日本資本の店が多数を占めている。

2000年代初頭に台湾の大手チェーンが日本進出を試みたが失敗し、撤退したこともあった。タピオカドリンクを生み出した本家の台湾には、まだまだおいしいタピオカドリンク店がたくさんある。台湾のお店こそ、今のブームにうまく乗り、日本進出を頑張って欲しい。小籠包やパイナップルケーキのように台湾を代表する「食」として、タピオカドリンクが日本に定着することを願っている。

バナー写真=学生らがタピオカドリンクを携帯電話で撮影(筆者撮影)

台湾 流行 タピオカ