日本の禁煙運動、地方が前進の原動力に

医療・健康

国の受動喫煙対策法が骨抜きとなったことによって、日本の禁煙運動推進派の希望は打ち砕かれた。ただ、地方レベルでは、公共空間における喫煙を禁止し、日本の空気をもっと綺麗にする取り組みを積み重ねている。

禁煙法を骨抜きにした日本のたばこロビー

2018年7月、日本は受動喫煙の健康リスクを減らすため、多数の人々が利用する施設内での喫煙を初めて全国的に禁止することを承認した。東京五輪・パラリンピックを控え、たばこのない大会を求める国際的な声の中、厳しい禁煙措置を定めた法律によって、国民の健康が大幅に改善され、また禁煙政策が最も遅れた国の一つという情けない国際ランクから、日本が抜け出ることが期待された。

だが、そうはならなかった。法案はたばこ・飲食店業界と結び付いた自民党議員によって、大幅に骨抜きにされ、禁煙運動推進派に大きな失望をもたらした。「最終的に成立した法律は期待にほど遠いものとなった」と厚生労働省のある高官は語った。「医学およびその他分野の多数の専門家に支えられたわれわれのたばこ規制チームは、何年にもわたりデータを集めたり、法律成立まで膨大な努力を重ねてきたりしたにもかかわらず、法案の内容を薄めることに力を注いだ自民党議員によって、非常にがっかりしました」。 

日本の飲食店の半分は規模の小ささによって、新たな禁煙の例外対象となる。日本の禁煙グループはこれを不十分と見なしており、日本は依然として、国際基準に比べて喫煙に極めて寛容な法律を持ち続けることになる。 

私はたばこを吸わないが、1990年代に日本に暮らしていた時、裏通りの居酒屋に行くのが好きだった。そこでシェフが刺身を切り、盛り付け、肉汁たっぷりの焼き鳥を焼くのをじっと見ていた。当時は他の客がいつ、たばこに火をつけたか、ほとんど気付かなかった。だが、公共空間の屋内喫煙が12年前から全面的に禁止されている英国に住み、ものを食べる時のきれいな空気にすっかり慣れた今、日本の居酒屋のたばこのにおいには耐えられなくなった。もはや、自分で進んで居酒屋に行こうとは思わない。 

地方の成功例 

だが、悪い話ばかりではない。禁煙運動推進派は2018年の挫折によって、日本たばこ(JT)とその利害関係者によって再び妨害されずに禁煙を推進するには、どうすれば最も良いかを見つけ出すことに焦点を絞った。新たなアイデアの一つは、地方都市での禁煙条例制定に努力するというものだ。たばこロビーが影響力を行使するのは、国レベルより地方レベルの方が難しいと信じられているからだ。米国でトランプ大統領が気候変動への取り組みを拒否しているにもかかわらず、個々の州や市が独自の気候変動対策を打ち出しているのと同様、日本の地方自治体は国の政治の全国的空気を無視し、地元住民の利益のため、地方レベルで禁煙措置を進めている。

日本禁煙学会(JSTC)の作田学理事長は「われわれは依然として、公共の場での全面禁煙を目指している」と言う。「ただ、今は国と地方の二正面で運動を進めている。われわれは長年かけて、地方レベルの方が全国レベルより変化を実現し易いことを理解した。そのため、われわれは地方に注力しているのだ。われわれは学者や医療関係者、法律家などあらゆる職業、地位の人々で構成された5000人以上のメンバーを全国各地の市や町に持っているが、全員がたばこの危険性について深い懸念を共有している」

JSTCは日本のすべての市にメンバーがおり、彼らを通じて地元の市長や自治体に接触することができる。地方でイベントを開催し、自治体が地元コミュニティに受動喫煙の危険性に関する情報を伝えたり、啓発したりすることで、条例制定への土台づくりに貢献している。「多くの人が集まるイベントで、正確かつ客観的なデータを伝えることが不可欠だ」と作田理事長は語った。「そして、われわれはこれが地方自治体レベルで受動喫煙防止条例という成果を生む第一歩であることが分かった」

成功例は既に、受動喫煙防止条例を2016年に導入した北海道の美唄市に見ることができる。美唄市長によれば、この条例はすべての市民、とりわけ妊婦と若者を受動喫煙の悪影響から守り、また受動喫煙が人間の健康に及ぼす危険について人々に情報を伝え、啓発することを目的としている。喫煙者がたばこをやめるのを助け、市は若者が喫煙の習慣を身に着けないよう後押しする環境をつくり出すことを望んでいる。全体として、新条例は健康を促進し、地元の保健予算を節約することになると期待されている。 

同様に、兵庫県でも新たな条例が2020年4月1日に施行された。それは20歳未満の若者と妊婦を守ることをとりわけ重視している。従来の規則では一定の区域での喫煙が許されていたが、同日をもって、保育園・幼稚園や学校、大学、病院、老人ホーム、高齢者福祉施設、自治体施設など、多数の人々が利用するすべての空間がその周辺も含め、全面禁煙へと変わる。商店、銀行、宿泊施設、理容店、美容院、図書館、映画館、社会福祉センターは対象となるが、飲食店はまだ、全面禁止とはならない。

東京では、小池百合子知事が2020年4月1日に施行された条令の制定にこぎ着けた。同条約は分離喫煙室のある店を除いて、飲食店を規模にかかわらず全面禁煙とする。隣の千葉市も同様の条約で追随することになっている。 

さらに愛知県の豊橋市では、加熱式たばこにも紙巻きたばこと同じ規制を適用する市条例が可決され、重要な一歩が踏み出された。米国では最近、加熱式たばこの吸引は健康に大きな害をもたらす恐れがあるとの複数の報告書が公表され、注目されたが、豊橋市は医療専門家委員会から、加熱式たばこの使用者は有害物質を吸引しているという、これら報告書の内容に沿った助言を受けた。同市はその結果、公共空間での加熱式たばこの使用を禁止した。この考え方が他の地方当局にも広がることが期待されている。 

喫煙率低下による健康改善の恩恵を分かち合う

検討されているもう一つの戦略は、禁煙プロジェクトの実行を助けるため、官民連携を促進するというアイデアである。この枠組みでは、地方自治体は禁煙プログラムの達成を民間セクターに委託し、民間セクターは結果に応じて支払いを受ける。実際のやり方としては、民間企業を巻き込み、市民が喫煙を減らすのを助けるプロジェクトを実施してもらう。それは地方自治体の保健予算の節約につながり、民間企業はその節約された部分から相応の割合を手にする。「これは新たなアイデアだが、注意深く進めれば、非常に有効かもしれない。こうした方法によって商業ベースで、健康増進という目標達成のインセンティブを与えるのは非常に理にかなっている」と作田理事長は述べた。

世界保健機関(WHO)のたばこ規制枠組み条約が勧告しているように屋内禁煙を日本が実現するには、まだ一定の道のりが残されている。だが、国の法律が骨抜きになったことには失望せざるを得ないものの、地方では前進が積み重ねられており、全体の喫煙率も着実に低下、前向きの展望が開けているようにみえる。    

バナー写真:2019年9月1日の東京都受動喫煙防止条例一部施行に向け、店頭に禁煙ステッカーを貼る飲食店の店主=8月31日、東京都中央区(時事)      

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