台湾への日本人観光客、200万人を突破 : 台北一極集中など課題も浮き彫りに

経済・ビジネス

近くて、お手頃価格でグルメを楽しめる台湾は日本からの人気の海外旅行先の一つ。2019年の日本から台湾への旅行者は200万人を突破した。しかし、台湾側には日本からの観光客をもっと誘致したいとの思惑がある。そのためには、台北一極集中を打開しなければならない。

日本から台湾への訪問客が2019年、前年比で5%以上の伸びを見せており、初めて200万人の大台に乗った。台湾に対する海外からの訪問客全体も初めて1100万人を超えた。中国との関係緊張で中国人観光客が減っている中で、日本など他に国の観光客を引き付けようという台湾側の健闘が実を結んだ格好だが、一方で、2020年のさらなる成長にむけて、今後の課題も次第に見えてきている。

福原愛さんで訪台日本人観光客倍増を期待

2019年11月27日、年間日本人訪台客200万人達成を目前に、台湾観光局などが台湾観光の新CM発表会を東京で開催した。イベントに出席した元卓球日本代表で、台湾の卓球選手と結婚して台湾に拠点を置いている福原愛さんは、台湾に対するイメージをこんな風に語って、会場を笑わせた。

「交通は便利、食べものが安くて、おいしい、人も気候もあたたかいし、過ごしやすいです。あと、試食のサイズが大きくてびっくりしています。台湾で幸せを感じるのは食べているとき。夫からは『食いしん坊の愛ちゃん』と呼ばれています」

この日の福原さんの服装はタピオカミルクティーを意識したコーディネート。主催側が用意した通訳よりも巧みに中国語を操った。日台をつなぐ人材のシンボルとしての存在感を見せつけた形だった。

タピオカミルクティーを意識したコーディネートで、台湾観光局のマスコットキャラクターOh! Bear(オーベア)と並ぶ福原愛さん(高橋郁文撮影)
タピオカミルクティーを意識したコーディネートで、台湾観光局のマスコットキャラクターOh! Bear(オーベア)と並ぶ福原愛さん(高橋郁文撮影)

福原さんの「おすすめのスポット」は、いろいろな食べ物を体験できる夜市(ナイトマーケット)だという。福原さん自身まだ台湾で一、二番を争う人気スポットの九份にはまだ行ったことがないので、ぜひ2020年に行ってみたいという。イベントの最後では「(海外旅行で)どこに行こうか困ったらまずはぜひ台湾へ。特に家族で台湾に行ってほしい」と呼び掛けた。

台北士林夜市(まちゃー/PIXTA)
台北士林夜市(まちゃー/PIXTA)

もともと台湾側には、日本の観光客を増やしたいという事情があった。最大の理由は、民進党政権と中国との関係が緊張しているため、中国側の制裁措置として中国人観光客の台湾訪問が抑制されているからだ。2015年に400万人に達した中国人観光客は、19年はその半分程度に落ち込むと見られている。台湾側は、その穴を埋めようと、その他の国に対する誘致に励み、東南アジアや韓国の観光客大きく増加するなど成果を見せてきた。

一方、日本からの観光客については、この数年伸び悩んでおり、200万人の大台を前に足踏み状態がしばらく続いていた。一人当たりの消費額からすれば、比較的多くのお金を落としてくれる日本人が増えることによる経済への波及効果は大きい。とうとう念願の200万人突破が実現した12月上旬、200万人目となった宮崎県在住の女性が桃園国際空港で表彰されるニュースは台湾のメディアで大きく報道された。

台湾人にとって日本観光はナンバーワンでオンリーワン。でも日本人にとっては・・・

観光問題は、台湾の選挙とも関係している。台湾では1月11日に4年に1度の総統選・立法委員選の同日選挙が予定されているが、そこでもライバルの野党・国民党から、蔡英文総統の対中政策を批判する材料として、観光客の減少がしばしば取り上げられている。日本の200万人突破とほぼ同時期に、外国人全体でも過去最高の1100万人に達しているが、政府側は対中関係悪化の影響を打ち消す選挙対策的なニュースに仕立てて発表している。

一方、台湾と日本の観光不均衡の是正も台湾側の悲願である。2019年の台湾から日本への訪問客は500万人を超えようとしているが、人口が台湾の5倍を超える 日本から台湾への観光客はようやく200万人。台湾側からすれば、もっと日本人に台湾に来て欲しいという期待は強い。

ただ、台湾人にとっては、日本観光が圧倒的にナンバーワンの地位を占めているのに対して、日本人には、韓国、ハワイ・グアムなど、近場の観光地のなかで台湾は選択肢の一つ、という違いはある。それでも、近年の日韓関係の緊張や香港情勢の悪化も重なって、アジアにおける訪問先として台湾に人が集まりやすい点は確かで、日本人の台湾訪問をさらに増やしていくことは可能だ。

日台間のエアライン増便こそ今後の成長の鍵

気になるのは、日本と台湾を結ぶエアラインの問題である。台湾から観光客が季節を問わず大勢日本を訪れるため、日本と台湾を結ぶ全日空、日本航空、エバー航空、中華航空などの主要キャリアの航空便は総じて混雑状態にあり、チケットの単価も高めに設定されている。これをピーチアビエーションやタイガーエア台湾などのLCC(格安航空会社)が補う形になっているのだが、LCCの本数は決して十分とはいえない。19年12月13日には、台湾のファーイースタン(遠東)航空が経営不振による全便運航停止を唐突に発表し、台湾と秋田、福島、新潟を結ぶ便が搭乗率は順調なのに休止に追い込まれてしまった。

台湾人にとっては、日本は東京だけではなく、北海道、沖縄、九州、関西、東北、北陸、四国などと結ばれており、日本旅行といっても多くの訪問先があるので、行くたびに場所を変えて飽きないような工夫もできる。

しかし、日本からの訪問客はおよそ8割が桃園国際空港か台北・松山空港から台湾入りするため、台湾での滞在拠点は台北となる。いくら大都市とはいえ、台北も九份や故宮博物院、夜市などは2日あれば回ることができるし、二度、三度訪れたいと思うような観光地とも言い切れない。

九份(筆写撮影)
九份(筆者撮影)

望ましいのは、日本各地と台湾の高雄、台南、台中、花蓮などの地方を結んだ便がもっと増えることだが、台湾側の人口比の問題もあって、台湾の地方空港への就航には航空会社も慎重だ。それよりも、東京・台北のドル箱路線を、高めの値段設定で満席にしておくほうが経営的にも安心できるというスタンスのようだ。

また、台湾の旅行業者も、手間のかかるキメの細かい観光ルートの開発よりも、〈故宮・九份・小籠包〉のいわゆる台湾観光3点セットを楽しんでもらう形のほうが、ガイドの訓練や現地との打ち合わせも必要なく、旅行会社としては3点セットのようなやりやすいルートを日本側に求める傾向がある。

だが、現実からみれば、台北とその周辺に頼った日本人観光客は200万人前後でほぼ飽和状態にあるという見方も根強い。新しいルート、新しい発想での観光地開発が必要であり、台湾側と日本側の相互の努力が求められてくるであろう。台湾の花蓮や台東などの東海岸、客家の文化に触れる桃園・新竹・苗栗の「台三線」、歴史と先住民文化に触れることができる南部の屏東など、日本人にとってはまだ馴染みが薄いが、魅力ある訪問先は多く残されている。

特に、エアラインの路線拡充は喫緊の課題だ。新路線が生まれれば、そこから新しい観光商品が生まれてくることも期待できる。日台双方の協力のもと、今後、どのように路線を増やしていくのか、そして台北以外の観光の魅力をアピールしていくのか。2020年以降に、日本人の台湾訪問客が、今度は300万人という新しい目標に向かって進んでいけるかどうかの重要なポイントになるだろう。

バナー写真=2019年11月に開催された台湾観光誘致イベント。左から、鄭憶萍台湾観光局東京事務所所長、蔡明耀台北駐日経済文化代表処副代表、福原愛さん。右端は台湾観光局マスコットキャラクターのOh! Bear(オーベア)(高橋郁文撮影)

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