台湾と日本、新型コロナ問題の対応をめぐり、民間交流にすきま風が吹いた理由

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中国発の新型コロナウイルスが全世界に広がり、公衆衛生に優れていると目される日本でも感染の深刻さが次第に表面化している。日本政府は現時点で国民に大型のイベントは控えるように求めているが、厳格な対応をとっている台湾からすれば、物足りない印象を与えるようだ。日台の民間交流サイトなどでは、新型コロナ問題を原因に、対立や摩擦も起きているが、お互い悪意がないだけに、日台間でいかに新型コロナ問題の克服に向けて、前向きな態度になれるかが問われている。

台湾人が心配している

先日、日台両国の人々が参加するフェイスブックの交流コミュニティーで、台湾人から日本の新型コロナ防疫体制に「日本政府の反応は遅すぎる」「中国人観光客をもっと早く制限すべきだった」「もっと厳しく隔離すべきだ」といった疑問が呈された。「日本人なりの方法があり、一概に批判すべきじゃない」という意見もあったものの、日本人メンバーを落胆させたという。

コミュニティーを退出する人も現れ、「台湾にいいイメージを持っていたが、考えが変わった」という意見も出た。最終的には、日本人のコミュニティー管理者が「外部から持ち込まれたウイルスが日台関係を壊してしまうのは残念だ。管理人として日台関係はずっと良好でいてほしい」と呼びかけて事態を収めた。

理屈では、日本の防疫をどうするかは、日本政府が感染状況に応じて決めるもので、台湾人は批判しなくてもいいのだが、このような状況が生じる背景には、台湾人が日本に対し持っている複雑で微妙な感情が関係している。

こうした意見は、日本のためを思って心配する台湾人の気持ちの現れなのである。今回の新型コロナは、2003年にSARSを経験した台湾人たちを、「われわれが過去17年かけて高めてきた感染症対応への考え方や対応策をシェアしたい。過去、われわれが犠牲を払って得た教訓が日本にも役立って欲しい」という気持ちにさせるのである。

中国のデータに対する「台湾式直感」

日本の公衆衛生のレベルの高さ、医療水準の高さ、国民の自律性などがあれば、台湾人もそこまで心配する必要はないかもしれないが、今回、日本が終始中国が発表するデータを信じ過ぎているように映る。

中国は最初に新型コロナが発生した国であるが、このウイルスの感染力、致死率などは全て、世界中の国々が感染対応に関する根拠として、中国の提供するデータに基づいて判断してきた。

しかし、台湾においては、中国が発表するデータに対しては「台湾式の直感」と言えるようなものによって、異なる見方を持っている。

この「台湾式の直感」は、過去の手痛い記憶に由来するものだ。また、85万人の台湾人が中国で仕事をしており、台湾の医学界には多くの中国医師の友人がいる。言語が通じるため、中国の公式発表に加えて内部のソーシャルメディアでの議論なども参考にして、中国情報を素早く読み解ける。

SARSが起きたときも中国からの伝播(でんぱ)によるものだった。台湾は、長年中国によって国際社会から排除させられ、WHOにも加入できておらず、感染に関する情報も制限されていた。多くの医師や看護師がSARSで殉職した。当時は台湾が中国以外で最も医療従事者の死亡率が高い国となった。

中国への不信感が根底に

当時のSARSの数字を見てみると、いくつかの不合理な内容が見つかっている。例えば、中国、香港、台湾、シンガポール、カナダを比較すると、中国の致死率は6.6%だが、他の4カ国は10%~17%の致死率であり、医療水準や公衆衛生の状況から判断すれば、不可思議な状況となっている。

SARS以降、台湾では、この種の中国発のウイルスの感染については、完全には中国のデータを信じられないという警戒心が高まった。なぜなら、人命に直結する問題だからである。

今回の中国・武漢発の新型コロナについても、去年12月に最初に感染の危険を警告して「笛を吹いた人物」と呼ばれる医師・李文亮が明らかにしたように武漢ではヒトヒト感染が起きていた。公式見解は「コントロール可能」だったが、台湾側はその危険性に早くから気付いていた。

基本的に台湾は中国のデータをあまり信用しないので、報道によれば、今年1月から2月にかけて、何人かの中国への逃亡犯が感染を避けるため、逮捕覚悟で台湾に戻り、空港で警察に逮捕される現象が起きている。

このため、台湾の人々は日本政府と民間が、本当のことを知らないでいるのかを心配になり、慌ててしまい、ウエブの中での発言もいささかストレートになり過ぎて、日本人を傷つけてしまったのかもしれない。

日本は真相を見ていない?

他にも、WHOの声明で、日本政府サイドは、新しいウイルスがインフルエンザのようなものだと誤解し、油断したときもあった。ダイヤモンド・プリンセス号で、日本の検疫官がマスクをせずに入船していたことも台湾人を心配させた。

ほぼ同じ時期、台湾は同じ客船のアクエリアス号で検疫にあたったが、全身に防護服をまとい、ゴーグルを掛けて、軍の化学兵器部隊もフル武装で動員し、徹底的な船体消毒を行った。こうした行動は日本にも本当ならできることで、日本の防疫能力が低いのではなく、中国情報理解の違いであった。

ダイヤモンド・プリンセス号での隔離が終了後、各国が横浜から国民を連れて帰ったが、台湾の専用機では機内感染を防止するため、観客の同意を得たうえで、機内においては食事や飲み物は提供せず、トイレもできるだけ使用させないことになった。全ての乗客は隔離服とマスクをつけて、おむつをはいて、3時間のフライトで台湾に戻り、検疫をうけて14日間の隔離を受けたのだ。

このような厳しすぎる措置が本当に必要だったのか日本人は疑問に思うかもしれないが、台湾政府は最初から国民に対して「防疫は戦時作戦と同じだ。われわれは国際的な孤児であり、自立し、自ら強くならねばならない」と語りかけてきたおかげで、自由で騒ぎ好きの台湾人も協力的になれたのだろう。

台湾と日本の防疫方法の違い

台湾が日本のダイヤモンド・プリセンス号の乗客が横浜から自主的に公共交通機関に乗って家に戻ったことを知った時も、日台間のやり方の違いを目の当たりにし、台湾人はさらに心配になったのである。

日本が重症者に医療のリソースを振り向けようとしており、何百人の日本人客の帰宅を追跡するのも実際は困難であることも理解もできる。ただ、このウイルスの感染力はあまりに強いので、感染者が多くなりすぎると医療崩壊を起こしてしまうので、台湾人は本当に大丈夫だろうかと自問したくなるのだ。

現時点では、台湾と違って比較的重症者に重点をおいた対応をとっている日本とシンガポールが、欧米の感染状況に比べると、それなりに理にかなっているようで、台湾でも安心を感じている。

問題の解決にあたっては、方法は一つだけでなく、それぞれの国が、感染をコントロールしながら、国民の理解と支持を得るべきだということは、台湾人も理解したことだろう。どの国にも得意不得意があり、各国政府のやり方を理解・尊重し、批判は抑制的であるべきだろう。

台湾人は日本に行くことが好きで、月平均で40万人が日本に遊びに行っており、一年に二、三度行くという人も少なくない・飛行機に乗るだけでリスクがあるような中で、台湾政府はやむなく日本への警戒情報を上げたが、できるだけ早く感染状況が落ち着き、日台交流の正常化を期待している。

幸い、日本政府は現在、中国の感染データに疑いを持ち始めたようだ。日本の副首相兼財務大臣の麻生太郎は「今回の感染は中国から起きている。この国から出された数字は信用するとだいたい違いますから。だから僕は信用しないのが正しいと思っています」と語っている。

感染が広がって世界が苦しむ中でも、友情は困難の克服を助けてくれるだろう。台湾と日本の友情は、台湾大地震や台南地震で日本の捜索隊が活躍したことは台湾人の心に刻まれている。東日本大震災では台湾のゴールデンタイムに募金の特別番組が開催され、数千軒のコンビニエンスストアのレジの横に募金箱が置かれ、日本の人々も台湾の誠意を感じてくれた。

日本への心配を隠せない台湾人

実際、台湾の人々は日本の防疫力を疑っていない。100年以上前の日本の台湾統治時代、現地ではコレラやペスト、天然痘、チフスなどの疫病が深刻だったが、台湾総督府は疫病対策に実力を発揮した。

当時の民生長官、後藤新平をトップとする専門家グループは、病理学と流行病の専門家を集め、台湾人も厳しい公衆衛生教育を受け、日常生活の消毒などを学習した。台湾人が今でも布団を太陽に干して紫外線で殺菌するのは日本時代からの習慣ではないかとも言われている。

台湾人はストレート過ぎるので、日本の感染対応を心配してしまい、言い過ぎることで日本の友人を傷つけたかもしれない。ただ、これは人命に関わることであり、嫌われると分かっていても、言わずにはいられなかった。

大部分の台湾人は、日本が無事でいてくれることを願っており、台湾と日本の両国が共に努力して感染をやりすごせることを期待している。過去、共に地震などで支え合ってきたことは、今回も例外ではないはずだ。

バナー写真:予定されていた下船が終わり、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」を離れる輸送用のバス=2020年2月21日、横浜・大黒ふ頭(時事)

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