ミニシアター系映画:コロナ後を考える今こそ新たな発見を

Cinema

コロナ禍に直面するミニシアターへの支援の動きで、クラウドファンディングとしては記録的な3億円を超える額が集まった。しかし、これはほんの一時しのぎに過ぎないし、独立系の配給会社が危機に陥っていることも忘れてはならない。そんな中、各社が過去の配給作品をオンラインで配信するサービスを開始した。

新型コロナウイルスの猛威は、経済的にも、「体力の弱い者」を直撃し、死に至らしめる。危機は広い範囲に及んでいるが、すでに時代とともに淘汰(とうた)されつつあった分野には、その業態が丸ごと消滅するおそれすらある。

独立系の小規模映画館、いわゆるミニシアターもその一つと言える。ただでさえ、ここ10年ほどは、大型の複合施設(シネコン)に圧倒され、閉館が相次いでいた。綱渡りや自転車操業に喩えられるような経営状態ながら、何とか続けてきた劇場も少なくない。

ミニシアターを一部の映画マニアが集う場所と捉え、なくなっても困らないと考える人がいるかもしれない。しかし視野をもう少し広げて、文化や価値観の多様性、地域コミュニティの発展に寄与してきた側面にも着目してほしい。多様性を軽視する社会は、やがて干上がり、窒息してしまうだろう。

そうした危機感から立ち上がったのは、ミニシアターに育ててもらったという恩義を感じる映画人たちだった(ミニシアターを救おう! コロナウイルス禍による存続危機に映画人が支援呼びかけ)。深田晃司、濱口竜介両監督が発起人となり、多くの映画関係者が支援を呼びかけたクラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」は、4月13日の開始から3日目にして目標額の1億円を突破し、5月14日の締め切りまでに3億3102万円を集めた。集まった支援金は、参加した103の運営団体(118劇場)におよそ303万円ずつ分配される。

この種のファンディングとしては異例の成果と言えるが、支援対象が広いだけに、ごく単純に計算して、1日に1000円のチケットが100枚売れた場合の1カ月分にしかならない。国や自治体からの補償も見えにくい中、それぞれの映画館が独自にクラウドファンディングを展開したり、オンラインストアを通じて鑑賞券・グッズの販売や会員の募集をしたりして、何とか当面の資金を確保しようとする動きもある。

ミニシアターの支援と並んで考えたいのは、こうした映画館で上映される作品を配給する独立系の配給会社もまた、危機に瀕していることだ。DVD・ブルーレイの購入やビデオオンデマンド配信も配給会社の収入につながるため、なるべくならしばらくの間は、意識して大手よりも独立系の配給作品を優先的に選んでみてほしい。

ミニシアター界をけん引するアップリンクの取り組み

1987年に配給会社としてスタートしたアップリンク(UPLINK)は、東京・渋谷にミニシアターを開いて多目的なカルチャー空間を提供し、映画製作も手掛けるなど、常に先進的な活動を展開してきた。映画館は18年の吉祥寺に続いて今年4月16日には京都にもオープンする予定だったが、新型コロナの影響で6月に延期されている。

2016年には、自社配給の作品をオンラインで配信する「UPLINK Cloud」をスタートさせた。劇場公開と同時に配信されるコンテンツもある。国内外のインディペンデント映画やドキュメンタリーなど、100を超えるタイトルはいずれも個性的で、ほかではなかなか見ることのできないラインナップだ。

新型コロナ感染の事態では、このサービスがより存在感を発揮することになった。東京都の外出自粛要請を受けて3月末に休館を決めると、アップリンク配給作品60本見放題という配信キャンペーンを開始したのだ。その後も対象作品が追加されており、実際は60本以上が購入から3カ月の間2980円で視聴できる。

「UPLINK Cloud」が3カ月2980円で60本以上見放題のサービスを開始。プラットフォームはクリエイター向け動画共有サイト「Vimeo」を利用しているので、高画質でさまざまなデバイスによる視聴が可能
「UPLINK Cloud」が3カ月2980円で60本以上見放題のサービスを開始。プラットフォームはクリエイター向け動画共有サイト「Vimeo」を利用しているので、高画質でさまざまなデバイスによる視聴が可能

このほか、4月24日に封切られるはずだった鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー監督の『ホドロフスキーのサイコマジック』は、劇場公開を延期しながら「UPLINK Cloud」にて先行上映されている。鬼才といえば、パラジャーノフ監督の4本、ヘルツォーク監督の6本がまとめて観られるお得なパックも、映画ファンを刺激する企画だ。

独立系の配給会社を応援しよう

「UPLINK Cloud」の配信サービス内に、5月15日から新たに立ち上がったのが、「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。独立系の配給会社がそれぞれの配給作品を見放題のパックにして配信する試みだ。映画史に名を残す古典的名作からヌーベルバーグの傑作、気鋭の作家による異色作まで、古今東西の逸品が並ぶ。いずれも時代を追うのではなく、新しい地平を求めた野心作ばかりだ。こうした作品に出会えるのも、配給各社の気概なしにはあり得なかったことを実感する。

第1弾は5社、全90作品。5月22日には第2弾として8社、137作品も加わった。特典付きの「寄付込みプラン」もある。

世界の映画人からの応援動画メッセージ@Help! The 映画配給会社 プロジェクト

配給会社別見放題配信パック

第1弾

クレストインターナショナル

『ピクニック』(ジャン・ルノワール監督 1936年、フランス)
『愛して飲んで歌って』(アラン・レネ監督 2014年、フランス)
『正しい日 間違えた日』(ホン・サンス監督 2015年、韓国)

など12作品(2480円/3カ月)〈クレストインターナショナル見放題配信パック

ザジフィルムズ

『不滅の女』(アラン・ロブ=グリエ監督 1963年、フランス)
『叫びとささやき』(イングマル・ベルイマン監督 1973年、スウェーデン)
『ファスビンダーのケレル』(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督 1982年、独・仏)

など30作品(2980円/3カ月)〈ザジフィルムズ見放題配信パック

セテラ・インターナショナル

『あの頃エッフェル塔の下で』(アルノー・デプレシャン監督 2015年、フランス)
『ファウスト』(アレクサンドル・ソクーロフ監督 2011年、ロシア)
『コーヒーをめぐる冒険』ヤン=オーレ・ゲルスター(2012年、ドイツ)

など15作品(2480円/3カ月)〈セテラ・インターナショナル見放題配信パック

ミモザフィルムズ

『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』(フィリップ・グレーニング監督 2005年、仏・スイス・独)
『ザ・トライブ』ミロスラヴ・スラボシュピツキー監督 2015年、ウクライナ)
『EDEN/エデン』(ミア・ハンセン=ラヴ監督 2014年、フランス)

など12作品(2480円/3カ月)〈ミモザフィルムズ見放題配信パック

ムヴィオラ

『光りの墓』(アピチャッポン・ウィーラセタクン監督 2015年、タイ他)
『鉄西区 三部作』(ワン・ビン監督 2003年、中国)
『郊遊<ピクニック>』(ツァイ・ミンリャン監督 2013年、台湾)

など21作品(2480円/3カ月)〈ムヴィオラ見放題配信パック

第2弾

彩プロ (30作品/1950円/3カ月)
アンプラグド (5作品/1800円/3カ月)
エスパース・サロウ (16作品/2500円/3カ月)
オンリー・ハーツ (30作品/1490円/3カ月)
サンリス (6作品/700円/3カ月)
シンカ (25作品/2480円/3カ月)
ハーク (15作品/2480円/3カ月)
マジックアワー (10作品/1000円/3カ月)

新型コロナウイルスによって生じた未曽有の状況は、既存のさまざまな問題をより鮮明に浮かび上がらせた。新しい視点でものを考え、これまで当たり前のように受け入れてきたことの意義を問い直す機会ともなった。見過ごしてきたものの価値にあらためて気付かされることも多いだろう。だからこそ、いまミニシアターへの関心が再び高まるのは時宜にかなっている。こだわり抜いて配給され、上映される多種多様な作品に、より多くの人々が触発されながら、他者への柔軟な理解が少しでも広く共有される世の中になることを願う。

バナー画像:Help! The 映画配給会社プロジェクト

映画 コロナウイルス 映画館