“豊洲”が一般消費者をターゲットに : マグロの目利きが厳選する感動パック、仲卸の通販セットはいかが?

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新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、活気が失われている東京・豊洲市場(江東区)。首都圏の料理店の営業自粛が続く中、一般消費者への販売を意識した新たなサービスが続々誕生している。

本来、豊洲に代表される各地の中央卸売市場は業務用販売が基本である。全国から水産物や青果物が集まり、卸売業者が受け取って競りにかける。競りには仲卸業者や買参権を持つ量販店のバイヤーらが参加。仲卸は、競り落とした大量の魚介類を仲卸棟の店舗に運び、料理店などの買い出し人に販売するのだ。

新型コロナウイルスの流行により、すし店をはじめ料理店の休業が相次ぎ、クロマグロを筆頭とする高級魚の需要が落ち込んでいる。窮地に立たされた豊洲市場の水産卸や仲卸は、すし職人などのプロではなく、一般消費者にも照準を合わせて売り方を工夫するようになってきた。

消費者目線で卸が新商品を開発

豊洲・卸の中央魚類(伊藤晴彦社長)は、ラップを外せばすぐに食べられる3種類のマグロスライスを商品化した。まるでスーパーの店頭に並ぶようなパック入りで、地中海産の本マグロ(クロマグロ)、南半球で捕れたミナミマグロといったマグロの2トップに加え、3つ目のアイテムは「ビントロ」。国産ビンナガマグロのトロだ。

競り落されたマグロが卸から仲卸へ引き渡される際、通常は何の加工もせずに1匹丸ごとのままだ。仲卸などがマグロを解体し、仕入れに来る料理人らの要望に合わせて、ブロックや「さく」に切り分けて販売。口に入るサイズに切り分けるのは、消費者に最も近いところにいる料理人である。ところが、飲食店が軒並み休業に追い込まれてプロの需要が急減し、卸売業者が最終商品をプロデュースしたわけだ。

本マグロ(上)、ミナミマグロ(左)、ビントロ3種のスライスパックで「鮪三冠王セット」。にぎりずしや丼物に使って販売するスーパーも 写真:筆者提供
本マグロ(上)、ミナミマグロ(左)、ビントロ3種のスライスパックで「鮪三冠王セット」。にぎりずしや丼物に使って販売するスーパーも 写真:筆者提供

名付けて「鮪三冠王セット」。商品を開発した中央魚類のマグロの競り人である関根隆之さん(42)は、マグロ(資源・漁師)に「感謝」、おいしさに「感動」、マグロに「関心」を持ってほしいという、3つの思いを込めて命名したそうだ。

関根さんは「消費者が最高級のマグロとしてイメージするのは、きっと青森県大間産ではないか。しかし、マグロは種類が多く、それぞれ時期や部位などによって、おいしさは違う」と言う。この商品でマグロへの関心を高め、その奥深さを知ってもらうことも狙いだ。

三冠王に使用されるマグロは、静岡県焼津港などで関根さんが一本一本身質をチェックしたお墨付き。焼津の水産加工場で、「食感やうま味、身の色をうまく出せるよう試行錯誤を重ねた」という厚さ6.5ミリにスライスする。4月から主に仲卸を通じた販売を開始しており、スーパーや一部料理店で提供されている。豊洲の仲卸からは、「3種とも、質が良い割にかなり安い」と評判だ。

「鮪三冠王セット」をプロデュースした卸・中央魚類マグロ部の関根隆之氏 写真:筆者提供
「鮪三冠王セット」をプロデュースした卸・中央魚類マグロ部の関根隆之氏 写真:筆者提供

仲卸はネット販売に活路、野菜とのセット売りも

料理店の休業により、仲卸へ足を運ぶ仕入れ担当者は極端に減少している。仲卸の中には時短営業を余儀なくされているケースもあるため、それぞれグループ会社などを通じた新たな販売戦略に打って出た。

百貨店や高級料理店などに“上物鮮魚”を納める仲卸「尾辰商店」の河野竜太朗社長は、「4月の売り上げは昨年の4000万円から1000万円にダウン。厳しい状況がいつまで続くか分からないため、われわれの目利きを生かし、少しでも消費者に魚のおいしさを感じてもらえればと、一般向けのネット販売に踏み切った」と話す。

天然クロマグロをはじめ、ウニ、初ガツオ、キンメダイのほか、大分県のブランド魚「関あじ」など、仲卸の店先と同様の高級魚介を豊富にラインナップ。6~7種の「尾辰特選ちょこっとずつセット」(5000円、税など別)も用意し、どれも料理店の仕入れ価格並みとあって、お得感いっぱいだ。

尾辰では、高級鮮魚のほか築地場外市場の青果店と連携し、トマトやキュウリ、ナス、ネギなどをそれぞれ少量ずつセットにした詰め合わせもネットで販売。4月中旬のスタートから反響を呼び、注文が続々と入っている。

本マグロの「ぶつ」やサーモン、釜揚げシラス、アジの開きなど、尾辰の“イチ推し”を集めた「ちょこっとずつセット」 写真提供:尾辰商店
本マグロの「ぶつ」やサーモン、釜揚げシラス、アジの開きなど、尾辰の“イチ推し”を集めた「ちょこっとずつセット」 写真提供:尾辰商店

マグロ専門の仲卸「山和」もネット販売に期待を寄せる。、まずは得意の国産生クロマグロを大いに堪能してもらおうと、700グラム以上ある皮付きのブロックで販売。渡辺和義社長は「さくでは味わえない中トロ、赤身など、いろいろなマグロのおいしさを知ってほしい」と言う。ブロックの価格は2000円(税、送料別)で、さばき方や皮とウロコ取り、(赤黒い)血合いの部分の加熱調理法などについて動画で紹介している。

山和では、マグロ以外にもイサキやクロムツ、イトヨリなど、多くの魚種をそろえた「すしネタセット」や「鮮魚セット」も用意しているほか、独自ルートで仕入れた鎌倉野菜も扱う。「単純に比較できないが、マグロなどは小売店と比べて半額近いケースもあるのでは」(渡辺社長)とアピール。テスト販売を終え、近く専用サイトを立ち上げる予定だ。

豊洲のマグロ仲卸「山和」がネット販売する国産の生マグロブロック 写真:筆者提供
豊洲のマグロ仲卸「山和」がネット販売する国産の生マグロブロック 写真:筆者提供

コロナで豊洲市場が身近な存在に

マグロ専門の仲卸「鈴富」は築地や銀座などですし店を展開するが、コロナ流行で全店休業に追い込まれた。鈴木勉社長は、同業の「築地おぐま屋」のサイトを通じて、店の味を一般家庭へ届けるネット通販を開始。すし職人が薦める「築地鈴富厳選」の刺し身盛り合わせなど、割安で本格的な味が楽しめるとあって好評だ。

ネット販売を行う豊洲仲卸の中には、魚のドライブスルーを始めた店もある。築地場外市場にある「築地魚河岸」にも出店する仲卸で、客からの注文を受け、豊洲の魚を築地場外の波除(なみよけ)神社で車内へ運ぶサービスを行っており、こちらもじわり人気が高まっているという。

コロナ流行が終息しても、豊洲は業務用を基本として取引を続けることに変わりはない。だが今回、卸や仲卸が消費者目線を採り入れたことで、豊洲が身近な市場として生まれ変わったことは間違いない。豊洲が元の活気を取り戻したとしても、ぜひ紹介したサービスを継続してほしいものだ。

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