和食だけじゃない! 自由で楽しい乾物ワールドへようこそ

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「乾物を使った料理」と聞くと、多くの人が切干し大根煮やヒジキ煮を思い浮かべるのではないだろうか。醤油ベースでみりんの甘味を感じる日本の家庭料理の定番であり、お弁当の副菜としてもおなじみ。しかし、筆者が代表理事を務めるDRYandPEACEは定番だけに縛られることなく、「乾物はもっと自由に楽しくできる!」と乾物の無限の可能性を切り拓く。

イタリアで大好評だったKANBUTSU

2015年、食と環境をテーマにした万博が開かれているミラノで、私が代表理事を務める一般社団法人DRYandPEACEは「KANBUTSU NO MIRAI」というイベントを3日間にわたって開催した。

日本の乾物の伝統、現代における乾物の意義、そして野菜を自分で干して乾物にする方法などを、展示とワークショップで伝え、乾物を使った料理の試食を提供。煮干しや高野豆腐など、日本人にはおなじみの乾物を西洋風にアレンジした料理におかわりの行列ができた。

大盛況だったミラノでのワークショップ風景
大盛況だったミラノでのワークショップ風景

初日に来た女性は、最終日に子どもを連れてきて、「乾物ってすごいのよ。自分で野菜を干せば食べものを無駄にすることはないわ」と熱心に説明、ある男性は「こんな素晴らしい文化を伝えに来てくれてありがとう」と握手を求めてくるなど大好評で、現地の大手新聞「il Giornale」からの取材も受けた。

 面白かったのは、そうしたイタリア人の反応をみて、現地在住の日本人が「私たちはもしかしたら先入観に縛られ過ぎていたのかもしれない」と口々に言っていたこと。

乾物といえば醤油味の煮物ばかりで地味、面倒くさそう。まだまだそうしたイメージを持っている人が少なくない。

震災後のパニック買いでも売れ残っていた乾物

私が、乾物の活用法の研究と発信を始めたのは、2011年。乾物に興味を持ち始めていた矢先に東日本大震災が発生し、横浜の自宅の周辺では計画停電が実施された。冷蔵庫が使えなくなり、パニック買いでスーパーの生鮮食品はあっという間に売り切れたのに、冷蔵不要な乾物はいつもと変わらず売り場に並んでいたのだ。

冷蔵庫が使えなければ乾物を使えばいいと思いつかないのか、あるいは、そう思っても普段使っていないから手が出ないのか。いずれにせよ、乾物は忘れ去られつつある存在になってしまったことに気付かされた。

雪深い地域もあり、天災による飢饉(ききん)も多く経験してきた日本では、常温で長期保存が可能な乾物は、かつてはなくてはならない存在だった。1年間食べ続けられるようにと、収穫の時期に干すことで保存食に変えてきたのだ。

四方を海に囲まれているとはいえ、冷蔵庫のない時代、冷蔵物流が整っていない時代には、内陸に住む人が海産物を口にするのは乾物に限られていたことだろう。主食である米も、干すことで貯蔵が可能になる。世界に広がる日本の「旨味」の文化は、昆布や鰹節、煮干しや干し椎茸など、乾物があればこそ実現できる。乾物は日本の食文化を支えてきたと言ってもいい。

なぜ今乾物なのか?

「保存」を目的として作り続けられてきた乾物だが、今その現代的な意義を改めて考えてみると、乾物の新たな側面が見えてくる。

〈食品ロス削減に〉
保存期間が長いので、腐らせず使い切ることができる
形が悪い野菜も乾物にすれば、形も気にならず通年商品にできる

〈省エネに〉
軽いので、輸送の際のCO2(二酸化炭素)削減になる
冷蔵庫がなくても保存できるので、電気消費が減る

〈もしもの時の備えに〉
常温長期保存が可能なので、もしもの時の備えになる

〈家事の省力化〉
軽いので買い物がラク
野菜などは、皮をむき切ってあるので戻すだけで下ごしらえ完了
生ごみが出ない

〈安心して食べられる〉
乾かすことで保存性が増すため、添加物が不要
素材が分かるのでアレルギーを持つ人も安心

乾物は自分で作れる

毎年のように日本を襲う水害や地震、そして2020年に世界を襲ったコロナ禍を通じて、乾物に対する見方は、変わってきているように感じる。

外出自粛が求められる中で、「野菜を干すことが日常になった」「乾物のありがたみをしみじみ感じている」という声をしばしば耳にした。また、DRYandPEACEの乾物講座を受講した人たちからは、「外出できなくても、乾物の利用法を知っているので、食については全く不安がない」という声が多数寄せられた。

ところで、ミラノでイベントを開催するにあたって、現地では日本の乾物を簡単に買えないことは分かっていた。日本の乾物を紹介するだけのイベントでは、「日本の文化って面白いのね」で終わってしまう。是非とも伝えたいと思ったのは、ドライトマトや乾燥ポルチーニ、豆、ナッツやドライフルーツ、そして乾燥パスタも「乾物」だと気づいてもらうこと、そして自分でも乾物は作れるということだった。

そこでイベントには、野菜を干すワークショップも組み入れた。

多くの種類の野菜を食べたいと思っても、少人数の家庭では食べきれずに腐らせてしまうこともある。しかし、野菜を干すことが習慣になると、例えばスープや味噌汁、煮込み料理にそのまま加えるだけで、多くの種類の野菜を簡単に食卓に取り入れることができるようになる。野菜を無駄にすることが減り、家計にも環境にも優しい暮らしができる。

特別な道具は不要で、多くの野菜は切って干すだけ。ナスやゴボウなど、アクが強い野菜は水に浸してアクを抜いてから干す。葉物やブロッコリーなどの花菜、インゲンや絹さやなど野菜として食べる豆類は、さっと茹でてから干す。

風通しのよい室内でもOK
室内でも干すことができる /  上段左から〈エノキ〉〈ニンジン&大根ミックス〉 中段左から〈カボチャ・ニンジン・ゴボウ〉〈シメジ〉〈ミョウガ〉 下段から右上に向かって〈ニンジン・ゴボウ〉〈パプリカ〉〈カブの輪切りとくし形切り&オクラ〉 

必ずしも屋外に干す必要はなく、家の中でも干すことはできる。

細く薄く切って空気に触れる面が多くなるようにすること、重ならないように干すこと、乾燥した日に干し始めることを守れば、失敗なく作ることができる。途中天気が悪くなった時には、扇風機を当てて対応する。

天候や環境にもよるが、早ければ3日、遅くても1週間ほどで、保存できる程度に乾く。保存の際は、カビの発生を抑えるために、密閉せず、通気性の良い紙袋や紙や木の箱で保存するようにしたい。

こうした自家製の乾物野菜は半年以上持つが、湿気の多い梅雨前には一度使い切るのが理想だ。昔から「乾物は梅雨前に使い切れ」という教えがあったが、それを知る人もすでに少なくなってきているほどに、私たちの日常と乾物には距離ができてしまった。

現代のライフスタイルに乾物を組み込む

自家製でも市販のものでも、乾物の多くは、戻すのにかかる時間は20分ほど。帰宅して乾物を水に浸すのに要する時間はせいぜい数分。シャワーを浴びて着替えてキッチンに戻れば下ごしらえは完了している。

豆類など、戻すのに8時間ほどかかるものもあるが、例えば夜寝る前、あるいは朝出かける前に水に浸けておけば、寝ている間、仕事している間に戻っている。少し先の食卓をイメージすることさえできれば、乾物を使うことは、料理時間の短縮につながる。

乾物は和食だけじゃない

乾物は、和食だけではなく、洋風、アジア風など世界の料理に展開が可能。乾物を使い続けてきた日本人だからこそ、その使い方に対する先入観に縛られがちなのはもったいない。

例えば、乾物はカレーにも合う。2013年から毎年6月にDRYandPEACEが主催している「乾物カレーの日」というイベントでは、さまざまな乾物を使ったカレーが発表され、特に高野豆腐や切干し大根がカレーに合うという声が多く上がっていた。

自家製の乾物野菜を常備していれば、シチューやパスタなどに戻さずに加えることができ、包丁なしの調理も可能だ。

ミラノでは、ヨーグルトの水分ホエーで戻した煮干しに小麦粉とハーブをまぶしてオリーブオイルで揚げたフリットが人気だった。乾物は水分があれば戻り、水で戻すだけではない。

乾物カレー
干し大根や干し椎茸がたっぷりの乾物カレー

毎年のような天災と、コロナ禍を経て

フェーズフリー(Phase free)という考え方が、近年日本で広まってきている。日常時と非常時の境界を作らず、日常に役立つものが、実は非常時にも力を発揮する、そんな商品作りや考え方を広めていくことで、もしもの時にも慌てずに済む社会を作ることにつながるとする考え方だ。

乾物はフェーズフリーな食。普段の料理に乾物を取り入れることで、日々の料理作りが食の防災訓練になる。

コロナ禍の外出自粛の中での食生活を世界が経験した今、豊かな乾物文化の歴史を持つ日本から、現代のライフスタイルにあった乾物の活用法を研究、発信していきたいと思う。

乾物シチュー
乾物シチュー

バナー写真、文中写真はすべて筆者提供

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