今年の夏は日傘でソーシャルディスタンス&熱中症予防

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新型コロナウイルス流行下のこの夏、マスク着用によりリスクの高まる熱中症への対策として、日傘が注目されている。その高い遮熱効果に加えて、傘を開くと自然に社会的距離が取れることから、環境省では日傘の日常的な使用を推奨。傘差し登下校に乗り出す小中学校も増え、メーカー側も子供用の日傘を急きょ開発するなど、日傘の輪が広がっている。

梅雨明けを前に売上は昨年の3割増

クーラーの効いた電車内や屋内では我慢できるが、炎天下でのマスク着用は耐えがたいものがある。気象庁の予報によると、8月に入ると全国的に厳しい暑さに見舞われる見込みとあって、梅雨明けを前に日傘の売れ行きが伸びている。百貨店などの売り場では「日傘でソーシャルディスタンス」とのPOP広告も目に付く。

「ソーシャルディスタンス効果」を謳った日傘のPOP広告(筆者撮影)
「ソーシャルディスタンス効果」をうたった松屋銀座の日傘のPOP広告(筆者撮影)

「10年ほど前まで雨傘と日傘の売上比は7対3ほどでしたが、地球温暖化や紫外線対策から日傘の需要が増え続け、今や半々といったところ。購買層も年配の女性から20代・30代の女性、最近は女子高生にまで広がっています。さらに今年は、ゴールデンウィーク頃からSNSで日傘のソーシャルディスタンス効果が話題になり、昨年より3割ほど売上げが伸びています」と話すのは、国内傘ブランド最大手「Wpc.」を展開する株式会社ワールドパーティー(大阪市)の営業本部長・角谷圭一朗さん。

「日傘の半径は50cmほどで、傘の先が相手に当たらないよう自然と1mほどの距離ができます。お互いが日傘を持てば、ちょうど厚生労働省が推奨する2mの社会的距離が保てるわけです」

角谷さんによると、人気が高いのは、紫外線遮へい、遮光、遮熱といった機能面が充実した晴雨兼用もの。傘生地に紫外線や光、熱を遮るコーティングを施すことで、生地目が埋まり、防水効果もある。折り畳みタイプで2000~3000円が売れ筋という。

ドーム型、ボタニカル柄がトレンド

一方、半世紀以上続く名物催事「GINZAの百傘(ひゃくさん)会」を毎年6月に開催し、“傘販売の老舗”として知られる百貨店、松屋銀座(東京都中央区)でも、8000~1万5000円のブランドものを中心に売れ行きは好調という。

同店では、日本洋傘振興協議会認定の「アンブレラ・マスター」を売り場に配し、各製品の機能や特長、正しい使い方やケア方法を客に説明している。

アンブレラ・マスターの一人、伊勢田京平さんは「今年はデザイン的には、定番のフリルものに加え、ボタニカル(植物)柄、ドーム型も人気です。素材は、東レが開発した『サマーシールド』という、遮光・遮熱機能をより高めた生地が大人気で、傘骨を2本増やして強度を高めた8本骨の折り畳みタイプも注目されています」と話す。

松屋銀座で人気のボタニカル柄とドーム型の日傘(筆者撮影)
松屋銀座で人気のボタニカル柄とドーム型の日傘(筆者撮影)

8度~11度の遮熱効果を実証

熱中症は、体温が上がって体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温の調節機能が働かなくなった時に起こる。新型コロナウイルス感染症予防のためマスクを着用することで、普段より体内に熱がこもりやすくなるほか、マスク内の湿度が上がって喉の渇きを感じにくくなるため、脱水症状に気づくのが遅れてしまう。それでは、日傘は熱中症予防にどのくらい効果があるのだろうか。

「日本洋傘振興協議会(JUPA)が定める規格では、日傘の遮熱性に関して『何度涼しくなる』といった表示はしていません。というのも、遮熱効果は外気温など日傘を使う環境に左右され、一概に表現することはお客様の誤認を生むからです」とワールドパーティーの角谷さんは語る。

ただ、傘の生地自体の遮熱性を温度で表現することは可能で、ワールドパーティーでは独自の試験方法で数値化している。35度の太陽光を想定してランプで傘生地に熱を照射し、生地の真下5cmの温度を測定して温度差を算出。熱照射を始めて5分、10分、15分の温度差の平均を出したところ、8度~11度ほど温度をカットする結果を得た。

「『遮熱効果』と記されたタグがある日傘は、熱をカットする能力が高いと思って構いません。合わせて一級遮光の日傘を選ぶとより効果が高くなります」と角谷さん。

一級遮光とはJUPAが定めた基準で、日本工業規格(JIS規格)試験によって遮光性が99.99%以上と証明された生地のこと。日傘の中には、「完全遮光」「遮光率100%」をうたっている物もあるが、JUPAの基準にはない。本来、針と糸で縫製されている日傘の完全遮光を保証するのは難しいため、過大広告にあたる恐れがある。

日傘を差した状態と差さない状態の温度分布を赤外線サーモグラフィーで表現(イメージ=ワールドパーティー提供)
日傘を差した状態と差さない状態の温度分布を赤外線サーモグラフィーで表現(イメージ=ワールドパーティー提供)

登下校に差す子供たち、「日傘男子」も増加中

環境省でも、熱中症発症者数が増加する初夏から夏季を中心に、日傘の活用を推奨している。

同省によると、遮光率99%以上で遮熱効果のある日傘を使用すれば、30度の外気温の場合、汗の量が17%減り、熱中症警戒レベルを1段階下げる効果があるという(http://www.env.go.jp/press/106813.html)。

愛知県豊田市の童子山小学校では、5月27日から晴天時、傘を差しての登下校を始めた。マスクと帽子を着用しながらだと熱中症の心配があるとして、独自の判断で始めたものだ。

同小の取り組みがSNS上で話題になると、各地の小中学校も追随。兵庫県稲美町では8月末まで、町立5小学校の全児童約1700人に日傘を貸し出す。今夏は新型コロナウイルス感染拡大による臨時休校期間の授業時間確保として夏休みが短縮されるため、 傘差し登下校が全国的に広がりそうだ。

遮光・遮熱機能のある傘を持つ子供たち。傘の真下に濃い影が出来ているのが分かる(ワールドパーティー提供)
遮光・遮熱機能のある傘を持つ子供たち。傘の真下に濃い影が出来ているのが分かる(ワールドパーティー提供)

こうした動きを受けて、ワールドパーティーでは急きょ子供用の日傘の開発に着手。7月末に発売する予定だ。晴雨兼用タイプで、男子用は紺、女子用はピンク。夜間も安心して使えるようリフレクター付きだ。

一方、若い男性の使用者も増えている。「2年ほど前に『日傘男子』という言葉が生まれましたが、銀座界隈でも外回りの営業さんをはじめ、日傘を差す男性を見かけるようになってきました」と松屋銀座の伊勢田さん。松屋では5階紳士雑貨売り場で男性用日傘を販売しているが、1階婦人用傘売り場にも、刺繍を取り払ったシンプルデザインのユニセックス用日傘の種類を増やし、男性客にも対応している。

「日傘文化」の高まりは、日本や中国といった東アジア圏特有のものだが、「近年、タイなどの東南アジアでも富裕層が使用し始めており、所得水準がさらに上がれば、需要が増えていくのでは」と角谷さんは見ている。

世界の傘の歴史をひも解くと、一般的に使われ始めたのは古代ギリシャ時代とされ、当時は日差しを遮るための物で、現代に見られる雨傘は1820年代のイギリスで生まれたという。今では、欧米で日傘を差す人はほとんど見かけないが、コロナ禍を機に、メイドインジャパンのハイテク日傘がクローズアップされる日がやって来るかもしれない。

バナー写真 : 日傘を差すと程よいソーシャルディスタンスを保つことができる(ワールドパーティー提供)

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