「ハワイロス」な人たちの2020年夏

旅と暮らし 社会

日本人にとってハワイは昔も今も最も人気のある海外スポットの1つ。ハワイを訪れる外国人は日本人が断トツの第1位だ。事実上、ハワイが入国規制を敷いている中、ハワイを訪れることが当たり前だったハワイラバーたちは、どうやってこの夏をやり過ごしているのだろうか。

いまだ自由な渡航の目途が立たないハワイ

新型コロナウィルスの感染拡大により、ハワイは2020年3月下旬から入国者に14日間の自主規制を課し、実質的な入国規制に入った。

19年、ハワイに旅行した日本人は155万9000人(速報値)を記録。「東京24区」と例えられるほど、ハワイを愛する日本人は多い。

9月1日に規制解除されるはずだった太平洋横断移動のハワイ行も、早くても10月1日までの延期が決定。いつになったら旅行できるようになるのか、見通しはなかなか立たない。この状況の中、「ハワイラバー」たちはどう過ごしているのか。最低でも年に1度はハワイを訪れるという3人に、「ハワイロス」の5カ月間をどう過ごしてきたのかを聞いた。

フラワーアレンジメントからハワイアンレイへ

主宰するハワイアンレイ教室でウクレレを持つ大谷幸生さん
主宰するハワイアンレイ教室でウクレレを持つ大谷さん

大谷幸生さんはハワイ好きが高じて、レイ作りを始め、今ではハワイアンレイ教室「UMAHANA」を主宰。レイについての著書もあるほどのハワイラバーだ。

初めてハワイを訪れたのは19歳の時、初めての海外旅行だった。

「海外に行ってみよう!って思いつきの旅でした。ガイドブック片手にハワイなら、日本語も通じるだろうと思って行ったら、意外に日本語が通じなくて、慌てましたね(笑)」

初めての海外の印象は強烈だった。

「風や香り、おおらかな人の雰囲気、あの空気感は強烈でした。日本でもこんな気分になりたいと思って、お土産屋さんで一生懸命、同じ香りがするものがないか、いろいろなものの匂いを嗅いだのを覚えています」

その後、大谷さんは花屋に就職。ハワイからは遠ざかった。

「当時はヨーロッパのフラワーアレンジが主流だったので、よく現地にも行っていたんですよ。でも、何か空気がどよ~んとしてて、花以外には一切興味を持てなかった。ある時、それって仕事を突き詰める上でマイナスじゃないかって思ったんです。それでいろいろ考えて、ハワイなら好きだし、のめり込めるぞと、レイ作りを始めました」

そこからは勉強を兼ねて年に2~3回はハワイを訪問。これまでの渡航歴は50回以上に及ぶ。

「よく美味しいお店を教えてくださいって言われるんですけど、僕はあまりグルメとかは興味がなくて(笑)。滞在中はずっとレイを作っています。地元の人と一緒に材料を森に取りに行ったり、庭に咲いている花を分けてもらったり。一度、SNSで知り合った人と一緒にレイを作ったことがあったんですが、『お前はそう作るのか。じゃあ、俺はこう作るぜ』みたいな探り合いがお互いにあって、そんなライブな感じがすごく楽しかったですね」

大谷幸生さんの作ったハワイアンレイ
大谷さんの作ったハワイアンレイ

7月に予定していた渡航は中止に

最後に行ったのは20年2月上旬。毎年ハワイではこの時期、オバマ元米国大統領の母校でもあるプナホウスクールでプナホウ・カーニバルが開催される。女性たちは会場を訪れると最初にブースでレイを買い、その日一日、そのレイをつけてお祭りを楽しむ。 

「昔、オアフ島でワークショップをしたときに、人が足りないと聞いて。僕はレイ作りをローカル(地元)の師匠から無償で教わったので、いつかハワイに恩返しがしたいとずっと思っていたんです。そこで毎年この時期は、カーニバルを手伝うことに決めているんです」 

次の渡航は7月の予定だった。ロサンゼルスでレイを作るイベントがあり、帰国時にハワイに立ち寄ろうと思っていたのだ。しかし、イベントは中止になった。

そんな大谷さんのハワイロスのやり過ごし方は、やっぱりレイ作りだ。

「結局、割といつもと変わらないんですよ。ハワイアンミュージックを流したり、アロハシャツを着たり、ウクレレを弾いたり、レイを作ったり……。ハワイロスではあるけれど、いつもハワイに触れていることで乗り越えられます」

SNSの存在も大きい。ハワイの友人たちの動向は日本にいながらも知ることができる。

だが、そんな大谷さんにもひとつだけ、なかなか埋められないロスがある。

「さっき食事には興味がないって言ったんですけど、今更ですけど、最近アサイーボウルにハマってて(笑)。ハワイに行くと、いろいろなアサイーボウルを食べるのが楽しみだったんです。日本にはなかなかお店がないので、それが残念ですね」

アサイーボウル
大谷さんおススメのマウロア アサイーアンドカフェのアサイーボウル

唯一、アサイーロスを癒してくれるのが、大阪にあるアサイーボウル専門店マウロア アサイーアンドカフェ。大阪最大級のハワイイベントなども主宰する知人がオーナーだ。

「元々はハワイアンカフェだったのが、アサイー専門店になって。最初はそんなのでやっていけるの?なんて思ってしまったんですけど、今は僕が夢中です(笑)。ここにはハワイのアサイーがあるんです」

大谷さんがそこまでハワイに魅了されるのはなぜか。

「英語があまり話せないにもかかわらず、会う人、会う人、本当に良くしてくれて、いつ行っても笑顔で迎えてくれる。そういう人たちに会いに行きたいんですよね」

マウイ島から始まり、ハワイの島々を巡るように

自宅でプリントした写真を眺めて楽しむ山口規子さん
マラサダを食べながら、自宅でプリントした写真を眺めるのが山口さんの楽しみ

2人目のハワイラバーはカメラマンの山口規子さんだ。

初めてハワイに行ったのは、ウィンドサーフィンをするため。最初の頃は、行くのはマウイ島ばかりだった。

「初心者ならここに行けとか、マウイはレベルごとにビーチが分かれていて。しかもどのスポットも波が良くて、いろいろなところで乗れるんです。この頃は正直オアフなんて、“けっ!”って思ってました(笑)」

ところが、撮影でオアフ島を訪れて「意外と面白いじゃん」と印象が一変。そこからはハワイの島々を巡るようになる。

「ハワイ島も仕事で行ったんですよ。飛行機から見たハワイ島は茶色くて、な~んにもない。実際、分かりやすい観光的なものは何もないんですけど、行けば行くほど、この島にはいろいろなものがあるんだなって気づかされる。噛めば噛むほど味が出てくるスルメイカみたいな島。今ではハワイ島が一番好きですね」

「ハワイロス」解消法は写真観賞

山口さんはフリーランスのため、決まった勤務日はない。そのため数日休みができると、すぐにハワイに飛ぶ。

「ちょっと隣の県に行くぐらいの感覚で行ける」と月1回の頻度で通っていたこともあり、最低でも50回以上は訪れているという。「最近はローカルの人にも、地元民に間違えられるほど、なじんでるみたい(笑)」

そんなに頻繁に行って、ハワイで何をするのか。

「写真を撮ってるんですよ(笑)。仕事じゃなくても、朝起きたらカメラを持って、いろいろな所を回って、宿には夜まで戻りません。だから仕事じゃない時は、すごく安い宿に泊まっています」

最後に行ったのは20年1月。ハワイ島を撮るために1週間滞在した。それだけ通っても、まだまだ撮りたいものが尽きない。それが山口さんにとってのハワイだ。

いつ行けるか分からないとなると、ハワイへの想いは余計に募るもの。アヒポキやロコモコを作ったり、スパムを焼いたり。行くたびに1枚は買ってくるというレインスプーナーのアロハシャツは、猛暑の日本の夏でも涼しく感じさせてくれると、山口さんの夏の定番ルックになっている。けれども一番のハワイロス解消法はというと、やっぱり写真になる。

山口規子さん愛用のアロハシャツ・コレクション
山口さん愛用のレインスプーナーのアロハシャツ・コレクション。日本人女性にはキッズサイズがおススメだという

「カメラマンという職業柄もあるんでしょうね。ハワイに行きたい!って思ったとき、私は五感の中で視覚的なものに癒されるんです。撮影した写真を眺めたり、それをつなげてスライドショーを作ったり。景色だけじゃなくて、パンケーキの写真やバスの中の風景、道を歩く人とか、風を感じるような写真をセレクトすることが多いですね」

自分の写真だけじゃない。「これもすごくいいの!」と山口さんが力説するのがミュージックビデオだ。

「ジャック・ジョンソンの“Upside Down”や“You And Your Heart”には、ハワイの気持ちいい海が映ってるし、“I Got You”は背景がいろいろなハワイの風景に次々と切り替わる。ジャック・ジョンソンとハワイのミュージシャンが協力して作った”Island Style”というミュージックビデオも、ハワイ好きにはたまりません。視覚と聴覚でハワイロスを満たしてくれますよ」

写真やミュージックビデオを眺めている時間は「バーチャルツアーをしているようなものです」と山口さんは言う。

「次にハワイに行ったら、オールドハワイを撮りたいですね。変わる部分もあれば、変わらない部分もあるのがハワイ。コロナウイルスの影響でいろいろな変化が起きているでしょうから、早いうちに変わらないハワイを撮っておきたいと思っています」 

子供へも受け継がれるハワイ愛

ハワイのビーチの波打ち際を二人の子供と歩く三宅真樹さん(仮名)
ハワイのビーチの波打ち際を二人の子供と歩く三宅真樹さん(仮名)

3人目のハワイラバーは編集者の三宅真樹さん(仮名)だ。

初めてハワイに行ったのは小学校2年の家族旅行。亡くなった父と唯一行った海外旅行となった。

「高校生の時に母から好きな国に旅行に連れてってあげると言われて、選んだのもハワイでした。就職してからは年1~3回。1人で2泊の弾丸旅行をしたこともありましたね」

現在、2児の母。子供たちへの「英才教育」も欠かさない。

「胎教もほとんどハワイアンソングを聴かせていました。年に一度は必ずハワイへ家族旅行に行くので、上の子は10歳ですでに渡航歴10回。今では鼻歌でハワイアンソングも歌えるようになりました(笑)」

毎年8月に行っていたという年に1度のハワイ旅行だが、今年はキャンセルせざるを得なかった。

「7月末まで状況を観察しながら粘ってみたのですが、航空会社から渡航できないとのことで、泣く泣く諦めました」。

ハワイの情報はインスタグラムで欠かさずチェック

1年ぶりのハワイを諦め、ハワイロス真っただ中の三宅さん。シャンプーやヘアオイルはココナッツ系の香りをセレクト、ブーゲンビリアを育てたり、ハワイで買った服を子供たちに着せたり……普段からハワイを身近に感じられるようにしている。

「私が住んでいる浦安市(千葉県)は、パームツリーが多く植えられているし、近所にあるハワイアンカフェでロコモコを食べることもできるし、まだハワイアン気分を味わいやすいのが救いですね。先日はワイキキにある『いやす夢』の卵焼きがのったスパムむすびを母が食べたいというので、自宅で頑張って再現してみました」

好評だったというスパムむすび以外にも、アヒポキを作ったり、前出のハワイアンカフェでマラサダを買ったりと、ハワイアンフードも楽しんでいる。

「いやす夢」をお手本に卵焼きをのせて自宅で作ったスパムむすび(左)。ハワイの漬け料理ポキ(右)はよく食卓にのぼるメニュー
「いやす夢」をお手本に卵焼きをのせて自宅で作ったスパムむすび(左)。ハワイの漬け料理ポキ(右)はよく食卓にのぼるメニュー

「この間、ハワイのクッキーが無性に食べたくなって、ネットショップで探してみたんです。そうしたらどこも売り切れで……同じことを考えている人が多いのかもしれませんね(笑)」

今年に入ってからほぼリモートワークだという彼女がおススメなのが、ハワイアンミュージック。仕事中はAmazon Musicのハワイアンステーションやハワイアンラジオを流しっぱなしにしている。

「邦楽だと歌詞が気になるし、洋楽だと気がそがれる。ハワイアンミュージックはなぜか仕事もはかどるんです」

仕事でアテンドしてもらった現地コーディネーターや、ハワイ在住のモデルのインスタグラムも頻繁にチェックしている。

「行けなくても、現地の最新情報を知っておきたいんですよね。創業67年の『リケリケ・ドライブイン』が4月でクローズするなど、ハワイもコロナウイルスの影響でランドマーク的なお店が次々につぶれています。最近ではこうしたお店を含め、ハワイを支援しようとクラウドファンディングも立ち上がっているので、ハワイ好きの方はぜひチェックして欲しいです」

行きたい気持ちとハワイを大切にしたい思いの狭間で揺れる

三者三様にハワイロスを満たしていたが、日本で体感できるハワイには限度がある。面白いのは今回取材した3人が3人とも、ハワイの魅力として「風」を挙げたところだ。

大谷さんは「あの風の心地良さはハワイでしか味わえない」と言い、山口さんは「朝、窓を開けて最初の風が好き。ワイキキ中心部でも、ハレクラニでも、安~いB&Bでもあの風の気持ちよさは一緒。アジアのビーチリゾートでは感じられません」と熱弁を振るう。三宅さんも「ハワイには風を感じに行くんです。ビーチに一人で座って、波の音を聞いて、ハワイの香りを感じるだけで幸せ。あの心地よさは湿度の高い日本では無理です」とその魅力を語った。

ハワイのビーチ
ロコが集う静かなカイマナビーチは風も波も穏やかで、三宅さんのお気に入りのビーチのひとつ

では渡航制限が解除されたら、3人はすぐにハワイ旅行を計画するのか? そう尋ねると、3人とも答えはNOだった。行く決心がつかない理由はさまざま。だが大谷さんのこの言葉が多くのハワイラバーの気持ちを表しているだろう。

「行って楽しみたい気持ちは、もちろんあります。行ったら、知人たちも歓迎してくれるでしょう。だけど旅行者が増えたら、コロナのリスクは高まるはずです。ハワイにいる彼らに心配な思いをさせるのは、僕の本意ではありません。行きたい気持ちと、大好きなハワイを大切にしたいという思い。この2つの気持ちのバランスが取れたとき、僕はハワイを訪れるでしょう」

バナー写真:石像の頭頂部にハワイアンレイを冠する大谷さん(大谷氏提供)

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