コロナ在宅隔離日記 : 検疫の本気度で納得、台湾が対策優等生である理由

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来日して日本で仕事を始めてから1年。取材のために久々に台湾に帰るチャンスがめぐってきたが、新型コロナウイルス対策として2週間の在宅検疫を義務付けられ、せっかく台湾にいるのに2週間も家族や友人に会えずにいた。しかし、厳しい在宅検疫を体験して、どうして台湾が世界からコロナ対策の優等生と称賛されるのか、その理由がよく分かった。

1年ぶりの台湾へ里帰り

ボクが不安な気持ちを抱えて、東京にやってきたのは1年前の2月だった。新型コロナウイルスが中国から世界中へと拡散し始めていた時期で、台湾から東京に向かう機内では、少なからぬ乗客がマスクをしていた。ところが、東京の感染対策はそれほど厳しくなく、羽田から浜松町に向かうモノレールの中では、マスクをしている人はせいぜい半分くらいだった。

それから1年、コロナは世界中に深刻な影響をもたらした。もちろん、日本も例外ではない。2020年1月14日に最初の感染者が確認され、既に40万人を超えた。台湾は、日本の1週間後の1月21日に最初の感染者が確認されたが、その後はウイルスの封じ込めに成功し、直近で900人を超えたところ。数字の上では、日台間で大きな差が生じている。

東京で暮らしたこの1年、街に活気がなくなったことをひしひしと感じた。さらに、日本独特の四季折々の行事も楽しむことができなかった。春の花見、夏の花火大会、秋の紅葉狩り、冬のにぎやかなクリスマスなど、人と人とが接する機会は政府からの「自粛要請」で、軒並み中止や縮小を余儀なくされたのだ。

そして、来日から1年がたって、筆者は取材のため故郷・台湾に帰る機会を得た。世界から「コロナの優等生」と称賛された台湾は、どんな方法で感染を抑え込んだのだろうか。日本をはじめ他国が参考とできるような点があるだろうか。今回の一時帰郷で経験して感じたことを是非、皆さんにもお話したい。

帰国する前の成田空港搭乗口、すでに防護用の服装を着用した人がいた(筆者撮影)
帰国する前の成田空港搭乗口。防護服を着て、飛行機に乗り込もうとしている人がいた(筆者撮影)

飛行機に乗る前から始まる徹底的な対策

台湾行きの飛行機に搭乗する前から、徹底的な感染症対策が始まる。政府のコロナ封じ込めの確固たる決意を感じた。空港では、感染症対策を担う衛生福利部・疾病管制署(台湾CDC)の「入境検閲システム」に情報の登録を求められる。ここで名前と搭乗便が確認されると、CDCからショートメッセージが送られてくる。このメッセージを受け取って初めて飛行機への搭乗が認められるのだ。乗客は書類をカウンターに提出し、チェックインが完了する。

台湾に到着すると、税関検査の前に、検疫官から台湾CDC発行の証明書の提示を求められる。別の検疫官が1人1人の身分証を確認し、14日間の在宅検疫(在宅隔離)について、終了のタイミングや、違反すると高額な罰金を科される可能性があることなど詳しい説明を受ける。検疫官から直接聞かされるので、「ルールを知らなかった」などの言い逃れは絶対にできない。

一連の手続きが終わって、ようやく荷物を受け取り、入国することができた。荷物は、心なしか湿っていた。恐らく、消毒液を吹きかけられたのだろう。入国直後の公共交通機関の利用は禁じられていて、政府指定の専用タクシーで移動しなければならない。このタクシー待ちのために多くの人が列をつくっている様子はとても印象的だった。

防疫タクシーに並ぶ台湾人たち、その対策は2020年4月から実施した。(筆者撮影)
防疫タクシーに並ぶ台湾人たち。2020年4月から海外からの入国者はこの専用タクシーを使わなくてはならなくなった(筆者撮影)

専用タクシーを利用するには、自宅住所などを書き込んだ書類をタクシー会社に提出しなければならない。料金は台北市内なら一律1000台湾ドル(約3700円)。その額を超える場合には、超過分は政府が負担し、補助金として運転手に支払われるという。

職員が大きな声で名前と行く先を叫ぶと、自分の順番が回ってきたことが分かるのだが、なんだか、兵役で所属部隊の振り分けを待つような気分だった。

タクシーに乗り込んでも運転手は一言もしゃべらないし、ニコリともしてくれない。台湾のタクシーの車内には、日本のタクシーのようなプラスチックの間仕切りがなく、会話は厳禁なのだ。だが、目的地に着いて降りようとすると、運転手はニコッと笑って「14日間の隔離生活が無事に終わりますように。少し早いけれど旧正月おめでとう」と言ってくれた。台湾人の温かさを感じた瞬間だった。

タクシーのところはいつも大量のアンコールを用意されて、スタッフは乗客が乗る前にもう一度アンコール消毒をされている。(筆者撮影)
タクシー乗り場には大量の消毒用アルコールが用意されていて、スタッフは乗客が乗る前にもう一度アルコール消毒をしている(筆者撮影)

徹底的に隔離された14日間

隔離場所に到着すると、「里(り)」(台湾の行政区分の1つ。日本の「町」に相当)や管轄の行政機関の担当者からの電話がある。そこで再度、14日間の隔離措置のルールと違反した場合の罰則について説明される。

隔離期間中は毎日、必ず、体温と体調不良の有無を報告しなければならない。台湾CDCからスマートフォンに送られてくるショートメッセージへの返信も必須だ。後に、担当者から聞いたことだが、過去に隔離期間中に死亡したケースがあったため、それ以降、毎日の報告とショートメッセージへの返信が義務付けられるようになったという。

隔離生活2日目、担当者が通称「福袋」と呼ばれる生活用品一式が入った包みを届けてくれた。中にはオートミールやビスケット、ごみ袋、体温計が入っていた。

待機の場所を到着した翌日、担当者からの「福袋」をもらい、中にはお菓子、ゴミ袋や体温計などがあった。(筆者撮影)
隔離場所に到着した翌日、担当者が届けてくれた「福袋」。中にはお菓子、ごみ袋、マスク、体温計などが入っていた(筆者撮影)

隔離期間中のごみ捨てには厳しいルールがある。通常の回収場所に出すのではなく、前日までに環境保護局に連絡をして、回収に来てもらわなければならないのだ。回収の際には、消毒も行われる。シロ判定が出ていないうちは、感染している可能性も考慮して、不用意にウイルスが付着したものが広がらないよう厳重に管理されているわけだ。

そして、隔離生活の最重要ポイントは、許可がない限り外出禁止ということだ。政府と警察はGPSでスマホの位置情報を把握しているので、位置情報に変化があったり、電源が切られたりすると、すぐに担当者が現地に駆け付けることになっている。違反が確認されると、最低でも10万台湾ドル(約37万円)、最高100万台湾ドル(約370万円)の罰金が科されるので、なにがあろうと、外出はしない覚悟が定まる。

隔離によって仕事を欠勤せざるをえないケースもあるが、14日間、違反なく過ごした人に対しては、インターネット申請で政府から休業補償金が支払われる。罰則規定だけでなく、補償もセットになっていることが、規則を守るインセンティブになっていると言えるだろう。

この厳しい隔離規定は、台湾CDCが感染症の流行時に設置する感染症対策本部「
中央感染症センター」の追跡管理体制を基に作られた緊急事態条例だ。日本も、海外からの入国者は14日間の隔離生活を送ることになっているが、強制力はなく、警察や行政による監視もないので、実際のところ、散歩したりコンビニやスーパーで買い物したりしている人もいるようだ。

日本には強制隔離を可能とする法律がなく、基本的人権への配慮も求められるからだ。確実に隔離を実施することは、日本では難しい課題と言えるだろう。

高度な感染対策と人権

台湾で厳しい隔離規定が導入された2020年2月から1年がたとうとしている。台湾は過去のSARSの教訓から、「料敵従寛、禦敵従厳(=敵情を侮らず、より厳しく敵に立ち向かう)」という方針でコロナ対策に当たってきた。実際に現地で感じたのは、「どんな小さな症状でも絶対に見逃さない」という台湾政府の断固たる覚悟だった。

筆者の兄が今年の1月に日本から台湾に戻った際、申告書に「2週間以内にお腹をこわしたことがある」と正直に記入したら、即病院送りとなり、PCR検査を受けるはめになった。さらにその後2日間は検疫所に留め置かれた。

どんな小さな症状でも、まずは検疫所に運ばれて、再びPCR検査を受ける。写真は検疫所の様子。(筆者提供)
どんな小さな症状でも検疫所に連れていかれ、PCR検査を受けなければならない。写真は検疫所の様子。(筆者提供)

検疫所の生活は軍隊のようなものだ。毎朝7時半にアナウンスがあり、朝食はドアの前に置かれる。1日の生活は規則正しく、部屋を回る医療スタッフは全員が防護服を着ていたという。その後2回のPCR検査で陰性が確認されて、ようやく兄は検疫所から放免され、次の隔離先であるホテルに移動した。

多くの国が14日間の在宅隔離政策を採用しているが、ここまで厳しい基準を設けたのは台湾が世界で最初だった。当初は、台湾でも「厳しすぎる」との議論も起こったが、結果的には台湾方式は成功をおさめ、多くの国や地域が見習おうとしている。

外国から帰国した台湾人は14日間の隔離措置を多かれ少なかれ不便に感じている。“台商“と呼ばれる海外で活躍する企業家からは、実際に抗議の声も上がった。しかし、大部分の人は、感染拡大防止のためには、不便もやむを得ないと考えているのだ。

その一方で、海外からの入国者や医療スタッフに感染者が出ると過剰反応して、帰国者に対して「ウイルスを持ち込んだのではないか」と偏見を持つ人もいる。誰だって感染はしたくないが、台湾社会はすぐに動揺する傾向があり、その日の感染者数の状況が政治的に攻防に発展することもある。そのあたりは冷静な日本人とは全く異なるところだ。

水際対策は影響するのか?

2020年4月7日、台湾総統の蔡英文氏が桃園国際空港のコロナ施設を視察した。(台湾総統府提供)
桃園国際空港の新型コロナ対策の検疫施設を視察した蔡英文総統(台湾総統府提供、2020年4月7日)

結局のところ、日台の感染症対策の最大の違いは、フォローアップ体制なのではないかと思う。日本の場合、入国検査はしっかりしている。ただ、入国してしまうと、ほとんどの人は「タクシーで移動するように」という指示は無視して、公共交通機関で空港を後にするのだ。

ボクが台湾に向かった1月10日の朝、新宿駅では「NRT(成田空港)」のタグをつけたキャリーバッグを引いて歩いている人を何人も見かけた。成田でも到着ロビーから電車やバスの乗り場に向かう人がたくさんいた。

その人たちがコロナに感染しているとは限らないが、万が一、1人でも無症状感染者が混じっていれば、知らぬ間に多くの人に感染が広がってしまうもかもしれない。

しかし、日本には入国者全員にタクシーでの移動を強制する法律もなければ、台湾のように感染対策のために専用のタクシーを用意する計画もない。2月3日にはコロナ対策の実効性向上を目的とした特別措置法、感染症法、検疫法の改正法が国会で成立した。緊急事態宣言下では、都道府県知事は事業者に休業や時短を「命令」することができるようになり、違反者には過料が科されるが、実際の罰則適用には慎重だ。

有効な感染症対策と、人権や経済活動を両立させるのは簡単なことではない。日本と台湾は歴史的な背景も違えば、国としての考え方も違うので一括りにして論じることはできない。ただ、日本で感染者が増え続け、複数の変異株の感染が判明している今、感染者数を減らし、最低でも国民の健康と安全な暮らしを守ることが政府の急務ではないだろうか。

バナー写真=年末にCDCの防疫センターを視察した蔡英文総統(前列右)と、衛生福利部部長の陳時中氏(前列中央、右胸に指揮官の文字)、(台湾総統府提供、2020年12月31日撮影)

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