2021年のオフィスマーケットと「ニューノーマル」の働き方はどうなる?

経済・ビジネス 社会

リーマンショックを脱した2014年頃から活況を呈してきたオフィスマーケットは2020年、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、一気に暗転した。テレワークの普及によりIT系企業を中心に、オフィスの縮小や移転の動きが強まったのが悪化の要因。21年も多くの企業でテレワークが継続されているが、オフィスマーケットは引き続き退潮が続くのか、21年の市況の予測と「ニューノーマル」の働き方について、不動産業界の関係者に話を聞いた。

東京ビジネスエリアの空室率、賃料は共に不調

オフィス仲介大手の三鬼商事が発表する「オフィスマーケットデータ」によれば、東京ビジネス地区における平均空室率、平均賃料はコロナ禍を機に悪化した。2020年2月に1.49%だった平均空室率は、21年2月には5.24%まで急上昇。この間、12カ月連続の上昇となっている。

一方、平均賃料は2020年7月まで上昇を続け、坪(約3.306㎡)2万3014円を記録したが、その後は7カ月連続での下落となり、2021年2月には坪2万1662円となった。

IT系企業が先頭を切った解約の動き

オフィス市況の悪化は緊急事態宣言以降加速したテレワークの普及による解約や賃貸面積の縮小が大きな要因だが、オフィス仲介会社営業担当によれば、一連の動きをけん引したのは、IT系企業と中小企業だという。

「まず、従来から場所を選ばず働ける態勢があり、テレワークの普及も進んでいたIT系企業が率先して“新しい働き方”を実践し、オフィスを解約していきました。また、リモートワークを導入しやすい業種の中小企業でも、事業規模の身軽さからオフィス解約の動きがあった。こうした企業の多くは『当面はオフィスで集まって仕事をしなくてもよいので、必要になったら、またオフィスを借りればいい』という考えで物件を手放したようです」

一方、大企業においては、それほど目立った動きは起きていない。

「オフィスを解約したり、メーカーがオフィスを工場の一角へ移転したりといった動きはありましたが、それはあくまでもごく一部の話。大方の大企業は社員の出社率を下げ、在宅勤務者を増やすことで職場が密になるのを回避して、コロナ感染対策を講じる程度にとどまっています」

2020年末から21年初頭にかけては、コロナ禍の長期化で業績が悪化した企業の自社ビル売却の動きが出てきた。20年末にはエイベックス、21年になってからは、電通が自社ビルを売りに出している(両社共、自社物件を売却したうえで、売却先からビルを借りて継続利用する予定)が、こうした自社ビル売却の動きは続くのだろうか。都心に多くのオフィスビルを保有する大手不動産会社の幹部はこう語る。

「オフィスビルを手放す大企業があるのは事実ですが、こうした動きはなにも2020年になって急に持ち上がったものではなく、当面は大企業が続々とオフィスビルを手放すという事態は考えにくい」

オフィス解約が人材流出につながるリスク

テレワークの普及で「オフィス不要論」を唱える向きもあるが、IT企業の中にも「オフィスは必要だ」と明言する企業は少なくない。

「経済的な効率性だけでなく、オフィス内のソーシャルディスタンスの確保、社員のコミュニケーションの重要性を鑑みて、オフィスを維持する動きもあり、全ての業種が減床(オフィススペースを減らすこと)の動きを見せているわけではない」(オフィス仲介営業担当)

また、優秀な人材を獲得するためには、給与だけでなく、「労働環境としてのオフィス」が重要視されるようになってきているという。

「ある外資系企業からオフィス選定の条件を聞くと、物件にユニバーサルトイレやスプリンクラーを備えていることが必須だと言っていました。終身雇用がない外資系企業は、少しでもオフィス環境を魅力的かつ機能的なものにして、社員の多様性・モチベーション・生産性の向上を目指している。大企業といえどもテレワークの推進を機に、利便性の低い郊外に引っ越したり、グレードの低い物件を選んだりして、過度に賃料削減を優先するようなことをしたら、不満を感じた優秀な人材が流出してしまう可能性もあります」(同前)

こうした事情があるため、例えば本社機能の一部を地方(淡路島)に移転し、2024年までに社員約1200人を移転させる計画があるパソナグループに追随するような大企業が今すぐに多数出現する可能性は低いという。

外資系ファンドの投資意欲は引き続き旺盛

空室率の上昇と賃料下落が続く一方、外資系ファンドの投資は活況を呈している。外資系ファンドの仲介を請け負う大手不動産会社幹部はこう語る。

「コロナ前からオフィスビルへの投資は目立っていましたが、外資系ファンドによる投資意欲の高さは、アフターコロナになっても継続していくのではないか。というのは、日本のオフィスは諸外国に比べて管理が行き届いていると評価が高く、価値が目減りしにくい安定した投資先だと考えられているからです」

また、2021年の1月には、三井不動産が西新宿の新宿三井ビルディングや東京駅のグラントウキョウサウスタワーの一部をREIT(不動産投資信託)に売却したことも大きな話題となった。

「REITへの売却も同様で、やはり投資ファンドによる需要には非常に根強いものがある。しかし、三井不動産がこれらのオフィスビルを手放したのは、業績の悪化やオフィスビル需要の低迷が理由というよりは、新たに買収した東京ドーム周辺の開発関連に資金をシフトさせるためではないか。三井不動産は商業施設の運営に強く、東京ドームとその周辺を巻き込み、一大商業圏を建設しようとしているので、そちらに投資を集中させる狙いがあると思われます」(同前)

2021年に竣工される大型オフィスビルは、コロナ前までは成約が順調に進んでいたが、コロナ禍でブレーキがかかり、引き合いは停滞しているという。21年、22年は新築大型オフィスビルの供給が少ないため、これから成約が進んでいくものと予想されているが、23年から26年にかけては、大型オフィスビルの大量供給が予定されているため、22年以降は先行きが不透明な情勢だ。

では、2021年のオフィスマーケットはどう推移していくのか、「空室率や賃料の動向を二十年以上ウォッチしてきた」というオフィス仲介大手幹部に予測を尋ねると、「予測が難しい。果たして空室率が頭打ちになるのか、それともここからまた一段ギアが上がるのか、正直全く分からない状態」という。

また、同幹部は2021年、さらにはそれ以降のオフィスマーケットをも左右する不確定要素として、東京オリンピック・パラリンピック(以下、五輪)の存在を挙げた。

「日本経済にとって、やはり五輪開催による経済効果は大きなインパクトがあります。五輪が開催できるかどうかで、企業の業績や景況感、そしてオフィスマーケットを大きく左右すると思います」

ニューノーマルの働き方改革

不透明な状況が続くオフィス市況とは違い、市場を拡大しているのがテレワーク関連のマーケット。日本にテレワークという言葉が導入されたのは意外に古く、2000年には日本サテライトオフィス協会が“日本テレワーク協会”と改名されているほど。しかし、本格的に注目されるようになったのは、東京五輪の開催が決定してからのことだ。

「2012年のロンドン五輪開催時に交通網がまひした教訓を受けて、オフィスワーカーができるだけ出社しない形での業務を目指そうと、キャンペーン等を通して導入が拡大してきました」(オフィス仲介営業担当)

テレワークというと、自宅や近隣のカフェなどでの作業をイメージされることが多いが、これからは、ビジネス地区の駅近のシェアオフィスやサテライトオフィスの利用が益々増えると目されていて、実際にオフィス仲介会社の売り上げも急速に伸びている。

「シェアオフィスやサテライトオフィスを活用した働き方も一種のテレワーク。在宅勤務には、遠方の相手とも簡単にやり取りできるという利点はあるが、コミュニケーションが取りにくいという弊害があり、『在宅か出社か』の二択だけではなく、シェアオフィスやサテライトオフィスを活用する企業が増えてきました」(同前)

また、ニューノーマルの働き方改革でこれから益々増えてくると予想されているのが「フリーアドレス」だ。

「固定席ではオフィス内のソーシャルディスタンスの確保が難しい。また、テレワークの普及でノートパソコンがあれば、どこでも仕事ができるようになったので、自由に自分の席を選べるフリーアドレスを採用する企業が多くなりました。ただし、無制限に自分の席を選べるようにすると、誰がどこにいるのか分からなくなる。部署内のコミュニケーションがとりにくいので、部署やグループ別に特定エリアで運用する“グループアドレス”を採用するところが増えています。また、誰がどのエリアに座っているか、一目でわかるアプリの導入も進んでいます。これからは、オフィスのレイアウトはフリーアドレスを前提としたものに徐々に変わっていくのではないでしょうか」

バナー写真:PIXTA

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